小学校 道徳

小学校 道徳

わたしのおすすめ教材(5)「くもの糸」(第5学年)
2017.11.15
小学校 道徳 <No.018>
わたしのおすすめ教材(5)「くもの糸」(第5学年)
東京都世田谷区立松丘小学校 主任教諭 中野学

1.学習指導案

(1)主題名 よく考えて生活する  A[善悪の判断、自律、自由と責任]

(2)教材名 「くもの糸」(出典:日本文教出版「新・生きる力」)

(3)ねらい
 せっかくつかんだチャンスを生かすことなく、再び地獄に落ちたカンダタの心境を考え、自分勝手にならず自律的に判断し生活していこうとする心情を育てる。

(4)展開の概要

学習活動
(○主な発問 ・予想される児童の反応)

○指導上の留意点 ◇評価


1 自分勝手な行動について考える。
○自分勝手な行動をして失敗してしまったことは、どんなことですか。

○日常での生活を振り返る。
○主題名を板書してから範読する。




2 教材「くもの糸」を読んで話し合う。
○くもの糸を登っているとき、カンダタはどんな気持ちだったでしょう。
・これで地獄から出ることができる。
・糸が切れないように慎重に登らねば。
・善いことをしたから糸が降りてきた。

○カンダタの気持ちを考えていくことを伝える。
○BGMをかけながら範読する。
○糸が降りてきたわけを考え、地獄からようやく抜け出せる機会を得たカンダタの気持ちを押さえる。
○細くて弱いくもの糸なので、切らないように細心の注意を図っているカンダタの気持ちに気付かせる。
(補)なぜ、糸が降りてきたのだろう。
(補)落ちたら、どうなるの。

○皆が登ってこようとする姿を見て、カンダタはどんなことを思ったでしょう。
・やめてくれ、糸が切れるじゃないか。
・俺の糸だぞ、勝手に登るな。

○一人でも切れそうな糸であるということ、自分の糸であるという意識のカンダタの気持ちをつかませる。
○糸が降りてきたわけも考えず、短絡的に怒りに任せて行動しようとするカンダタの心に気付かせる。

◎再び、地獄の底に落ちたカンダタは、切れた糸を見上げて、どんなことを考えたでしょう。
・お前たちのせいで切れたじゃないか。
・自分のことばかり考えていたせいだ。
・よく考えなかったことに後悔した。

○自分のことばかり考えていたことに気付かせ、後悔の念をつかませる。
○糸が切れたのは、皆のせいばかりにしていたという発言ばかりの場合、糸が切れた本当の原因について考えさせる。
(補)「おしゃか様はどんなお気持ちで糸を切ってしまったのでしょう。」
◇再び地獄に落ちたカンダタを通して、よく考えて行動することの大切さに気付くことができたか。(発言)




3 これまでの自分を振り返る。
○自分勝手にならず、よく考えて行動してよかったなと思うことは、どんなことですか。

○ワークシートに考えをまとめることによって考えを深める。
◇自分勝手の愚かさやよく考えて行動することの大切さを、自分との関わりで考えることができたか。(記述)


4 教師の説話

○余韻をもって終える。

2.授業への工夫とこれまでの経緯

 3年前の授業を思い出し当時のことを記してみます。その授業では、範読の際にBGMを活用することにより、児童がより教材に浸ることができるように取り組みました。そして、発問時の教師の動作化にも取り組みました。

(1)範読 ~BGMと読み方~
 臨場感を高めるため、教材によっては範読の際にBGMの活用をしています。テレビショッピングにて、クラッシック曲のCD10枚組を購入しました。2万円近くしましたが、道徳の授業のためにならと思い切りました。曲の前半部分だけですが、CDに収まっている全ての曲を聴きました。その中で、たった一つだけ、「これっ」というものを見つけました。「くもの糸」のお話にぴったりのものです。
 長いお話のため、その1曲では足りません。そこで、同じ曲を2回かけることにして、途中で、最初からかけ直すことにしました。どこで、かけ直すかがポイントとなります。場面が変わるところを中心に、何度も読みながらの試行錯誤でした。そして、ついに掴むことができました。この場面で、この曲調。この文面でこの曲調。まるで、一つの曲が、この「くもの糸」のお話のために、話の流れに沿って曲が作られているように感じました。
 範読は、静かに淡々と読むことにしました。強調したい言葉、例えば、「ほそい」を「ほそーい」と長くしてみました。また、文の途中で、どこで間を置いたら効果的なのかを考えながら範読の練習を重ねました。赤ボールペンを手に持ちながら、ポイントを書き込んでいきます。
 後半のカンダタの気持ちを表すところには抑揚をつけて読むことにしました。カンダタが再び血の池に落ちてからは、逆に、静かにゆっくりと読むことにしました。

(2)発問時の教師の動作化
 発問を効果的にするために、発問の際に教師による動作化を行いました。「くもの糸」における教師の動作化は先輩から教わりました。くもの糸を手繰っていくところを動作化します。くもの糸を手繰っていく様子を何度も練習しました。さらに、カンダタの顔の表情も付け加えていきました。ある日の休み時間のこと。児童が家庭科で終わらなかった裁縫をしていました。なかなか針に糸を通すことができず、私のもとへ来ました。私も目が悪いことから、上手く通せるはずがありません。そこで、糸通しと虫眼鏡を使って通すことができました。その夜のことです。帰りのバスを待っていたときに、ふと考えました。そうだ、糸を教室の天井から吊るせば、くもの糸に見える。早速次の日に、教室の天井に透明なガムテープを貼って糸を吊るしてみました。そして、研究授業を前に、隣の学級で事前授業を行わせていただきました。
 授業後、ある児童が言いました、「糸が切れるのに、天井から糸が外れるのはおかしい。」と。糸を垂らすのはよい考えだったのに、どうしよう。そのためには、どうしたらよいのか。夜の教室で何度も試行錯誤を重ねていきましたが、うまくいきません。毎日、通勤時にバスを待っている間、考え続けました。そして、ある日の夜、ふと閃きました。次の日、教室で何度も試してみました。そして、ようやく完成するに至りました。
 6年生が4学級あったことから、他学級で事前授業を再び行いました。上手くいきました。しかし、研究授業の本番では、糸が切れずに大失敗してしまいました。
 それから3年の月日が流れ、今回の授業となります。

3.授業記録

【導入】

T 自分勝手な行動をして、失敗してしまったことは、どんなことですか。
01さん お姉ちゃんと取り合いをしていて、お姉ちゃんを前に押しのけて自分が取ろうとすると、転んでしまった。
02くん おやつのケーキを、姉弟がいるのに隠して独り占めにしようとしたら、結局ばれてしまって、おやつがなしになってしまった。
03くん お母さんにハムスターの病院に一緒に行ってと頼まれていたけど、遊びたかったのと面倒だったので遊んじゃったら、怒られてしまった。
04くん じゃんけんして後出しをしたので、怒られてお菓子を取られてしまった。
05くん お兄ちゃんと遊んでいて、喧嘩になってしまった。
06さん 階段で弟がおもちゃを持っていて、急に脅かしたらびっくりして、落として壊してしまって、お母さんに怒られた。

【展開前段】

空から、くもの糸が降りてきた。そして、カンダタがくもの糸を登り始めることを伝える。
教師の動作化:糸を見つめる → 糸を見て喜ぶ → 糸を掴むふりをして一生懸命登る

このときの、カンダタはどんな気持ちか。
04くん この糸をのぼっていけば、また地上に出られるかもしれない。
05くん この地獄から逃げ出せるから、頑張って登ろう。
07くん このくもの糸をたぐっていけば、極楽に出られるだろう。
06さん このくもの糸を垂らしてくれたのは誰だろう。
08さん 06さんと似ていて、このくもの糸を垂らしてくれたのは、神様のお釈迦様かな。
09さん 05くんと似ていて、この地獄から抜け出せるなんて、ラッキーだ。
10さん 糸を垂らしてくれてありがとう。ここから、抜け出せるので、嬉しい。
11くん 地獄を抜け出すために、何でもするぞ。
12さん これで地獄から抜け出せるぞ。やったー。
13くん 地獄から抜け出せたら、もう悪いことは何にもしない。
14さん もう、地獄で辛い思いなんかしなくていい。
01くん 俺の上に降りてきたから、この糸は俺のために降りてきたんだから、他の者は寄せ付けない。
15さん ここから出られれば、もう悪いことはしない。
02くん 人を殺したり、家に火をつけたりしなければ、こんな苦労をせずに済んだ。
16くん 極楽につながっていれば、最高だ。
17さん 今までずっといっぱい悪いことをしてきて、一度だけ蜘蛛を助けたことがあったから、その蜘蛛が助けてくれたのかな。

【第2発問】

T 一生懸命登っていました。落ちたら、どうなるの?
C (口々に)地獄に落ちる。
教師の動作化:糸を掴むふりをしながら登る → 休憩する → 下を見る → 驚く
降りろー! この糸は俺のものだ 降りろー! このときの気持ちは。
18さん 俺のための糸なんだから、何で登ってくるんだ。
19さん 皆が登ってきたら、糸が切れてしまう。
20さん 俺のために降りてきたんだから、何で登ってくるんだ。
21さん 俺の上に降りてきたんだから、登るな。
22くん 俺の糸だ。お前らが登る権利はない。
23くん 俺の糸だ。早く降りてくれ。
24くん 早く降りろよ。糸が切れちゃうだろう。
25さん お前らが登ってきたら、俺も落ちてしまうけど、お前らも落ちてしまうぞ。
26くん 俺のために降りてきたから、この糸は俺のものだ。何でお前らが登ってくるんだ。
T では、他に発言はあるかな。
10さん やっとこの地獄から抜け出せるのに、皆登ってきたら落ちてしまうから、自分だけでも助かりたい。
04くん 俺が一番最初に糸を見つけて登ったんだ。お前らは降りろ。
08さん ぼくはくもを助けたから、自分の上に糸が来たけど、皆は違うので連なってきてほしくない。
05くん 俺が助けたくもなのに、何でお前らが登ってくるのだ。何にもしていないのに登ってくるのはずるい。お前たちは助けたのか。
07くん これは俺のための糸だ。勝手に登ってくるな。
11くん どうか、切れませんように。
25さん 08さんに似ていて、俺はくもを助けたのに、お前らは何か助けたのか。
12さん 俺が最初に登ったんだし、お前らは降りろ。
13くん 自分は地上にいるときに、いいことしたのに、お前らは何もしていない。
01くん やっと地獄から抜け出せるのに、藁にもすがる思いで登ってきているのに、ここで糸が切れてしまえば、これまでの苦労が水の泡になってしまう。
02くん 俺の上に降りてきた一本の糸なのに、お前らには関係ない。

【中心発問】

教師の動作化:「降りろー! この糸は俺のものだ 降りろー!」 → 糸を引っ張る → 糸が中ほどで切れる → 回りながら床へ尻もちをつく

地獄で切れた糸を見上げて、どんなことを考えたのだろうね。
09さん あんなこと言ったから、ばちがあたったんだ。あー、あ。
19さん せっかく登ったのに、あともう少しで地上に出られたのに、残念だ。
20さん こんなことを言ったから、糸が切れたんだ。
01くん せっかくの極楽への道が、俺の一言で途切れてしまった。いったい何てことをしてしまったのだろう。
02くん 切れるんだったら、俺の下で切れてくれればよかったのに。
27さん 結局、また地獄か。
03さん あいつらにも順番で登らせてやればよかった。
16くん 地獄の針の山に刺さってしまう。
25さん 03さんと似ていて、協力して順番に登ればよかった。
05くん 今の自分に何が悪かったのか教えてくれ。
T 協力して皆で登ればよかった。でも、糸が切れてしまったのは、皆が登ってきたせいかな?
20さん 自分の言葉で切れてしまった。
01くん 叫んだから、体が揺れて切れてしまった。
T 揺れたから切れてしまったのかな?
(01くん  あー、そういうことか。)
14さん 自分がすごくわがままで、一人いじめしていたから。
T 一人いじめって?
14さん 皆いるのに、自分だけが一人だけ助かろうと思ったから。
17さん 皆一人一人が自分勝手だったから。
28くん きっと、あんなことを言ったから、お釈迦様が怒ってしまった。
10さん 皆のことを考えないで、自分だけ勝手なことを考えていたから、糸が切れてしまった。
26くん 自分だけが助かろうと思って、人のことを考えず、人を傷つけるようなことをしてしまったから。
07くん 自分のことしか考えていない。それから、自分が思っていても、心にしまっておかず、口に出してそれを言ってしまったから。
13くん あのときに、ああいうことを言っていなければよかった。
01くん お釈迦様も、俺も開いた口が閉じない。
21さん くもの糸を自分一人のものにしてしまったから。

【展開後段】 意図的指名による発表

自分勝手にならず、よく考えて行動してよかったなと思うことは、どんなことですか。
21さん 私は友達と遊んでいるときに、お菓子を持ってきて食べたらとてもおいしくて、心の中で独り占めにしようかなと思ったけれど、独り占めにしないで友達にもちゃんとあげたら、その次の日に、「ありがとう」と言われてお菓子をいっぱいくれた。あのときに、独り占めをしないでよかったなと思いました。
18さん ときどき、お母さんの帰りが遅いときに、「ご飯作っといてくれる。」と言われて、ときどきは休ませてと思ったけど、頑張ろうと思って料理を作ったら喜んでくれたので、作ってよかったと思います。
19さん 自分が何か悪いことをしてしまったとき、お母さんに怒られて、「うるさいなー」と思ってしまったときがあったけど、お母さんがなぜ怒っているのかもわかったし、お母さんの気持ちがわかったから、よかった。
14さん 私は、お母さんと一緒に買い物をするときに、つい「あれ買ってー、これ買ってー」とおねだりしてしまい、買ってもらいましたが、でも、今日のくもの糸を学習して、自分はすごいわがままなんだなということに気付き、わがままなことは、もうやめようと思いました。
01くん ぼくは、これまで自分だけできればいいと言って、他の人のことなんか考えないで、満員電車で大きな荷物を持ったおじいさんがいるのにもかかわらず、自分が楽をすればいいと思って、一つだけ空いていた席に座ろうとしたけれど、おじいさんのことを考えて譲ると、おじいさんが「ありがとう」と笑顔で言ってくれたのでうれしかった。

4.板書例

5.考察

○今回の授業では、いつにも増して多くの子どもたちの挙手が見られました。長い範読でしたが、BGMや読み方の工夫による効果と、場面絵と発問の際の動作化による効果が考えられる。しかしながら、時間配分が上手くいかず、展開後段でじっくりと自分の生活に振り返って考えることができなかった。

○展開後段での01くんは、[親切、思いやり]での内容項目の発言になってしまいました。しかし、おじいさんのことを考えて、何が一番正しいことかを判断できたことはよかった。

○導入で、急に、自分勝手な行動をして失敗してしまったことと聞かれても、児童はすぐに考えていくことはできない。同じことを聞くのであれば、例えば「授業の中で」などと場面を絞って発問した方がよいと考えた。

○第一発問で、なぜ、くもの糸が降りてきたのかを考えさせることができなかった。17さんは、くもが糸を降ろしてくれたと考えた。お釈迦様のお導きがあったことを押さえたかった。

○[善悪の判断]での授業を行ったが、[節度、節制]の内容項目で授業を構築していった方がよいことを、後に、ご指導いただいた。次回の実践に向けて研究途上である。