小学校 社会

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これからの食料生産(第5学年)
2012.10.22
小学校 社会 <No.007>
これからの食料生産(第5学年)
青森県 小学校教諭

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.単元名

「これからの食料生産」

2.目 標

○低価格の輸入農産物の流入や国内の農業就業人口割合の低下などにより,我が国の食料自給率は40%程度となり,その不足分の食料を海外に依存していることがわかる。
○国産に比べ低価格の海外農産物が輸入できるのは,それらの国々では労働生産性の高い農業を行っていたり,物価が安い国で農業を行っていたりするためであることがわかる。

3.評価規準

○社会的事象への関心・意欲・態度
 我が国の食料生産や食料輸入について関心をもち,具体物や資料,既存の知識を活用して意欲的に考えながら追究している。

○社会的な思考・判断・表現
 我が国と海外との農業の取り組みの違いに気づき,低価格の輸入食料と農業就業者数の減少とのかかわりを考え,適切に判断し説明している。

○観察・資料活用の技能
 我が国の食料輸入の実態について,資料を活用しながら必要な情報を集め,読み取っている。

○社会的事象についての知識・理解
 我が国の食料生産や食料輸入の現状や問題がわかる。

4.本単元の指導にあたって

 小学校社会科学習指導要領5学年2内容(1)ア「様々な食料生産が国民の食生活を支えていること,食料の中には外国から輸入しているものがあること。」を受け本単元を設定する。また,内容の取り扱い(4)「内容の(2)のウ及び(3)のウにかかわって,価格や費用,交通網について取り扱うものとする。」にもかかわり実践を行った。
 我が国の供給熱量自給率(H22年度カロリーベース)は概算値で39%であり,輸入食料比率は61%となる。このことからも,わたしたちが生活の中で摂取している食料の多くは海外からの輸入に頼っていることがわかる。さらに,何らかの原因により海外からの食料輸入がストップし備蓄が底をついた場合,我が国では食料飢餓が引き起こることは予想に容易い。そこで,本単元では食料自給率や輸入される食料について価格などの視点を通して,先に述べた目標にある知識を獲得させていった。ここで子どもが身に付ける知識は,今後起きると予想される食料問題や食料の価格高騰などについて思考・判断する際の基となることから取り組んだ実践である。

5.単元の指導計画(全5時間)

学習のねらい

子どもの活動と内容

○我が国の食料自給率は40%程度であり,その不足分の食料を海外から輸入していることがわかるようにする。

○日本で足りない分の食料は,どのようにして間に合わせているのか調べよう。
「こんなに輸入に頼っているんだ!」
「世界各国から輸入されてるんだね。」

<資料>
・主な食料の輸入量の変化グラフ
・日本の主な食料の輸入先と自給率の変化

○輸入される小麦が,どのようにして生産されているのかがわかるようにする。

○アメリカでの小麦の生産の様子を日本と比べてみよう。
「大きい畑だね!」「機械も大きいな。」
「ヘリコプターも使っているぞ!」

<資料>
・日米での小麦生産の様子(VTR/写真)


本時

○アメリカでは日本の約70倍もの農地を大型の機械を用いて,手間や時間をかけずに小麦生産を行っているので,安い値段で小麦がつくられるということがわかるようにする。

○なぜ,アメリカ産の小麦は国産の小麦に比べて約3分の1の値段で売ることができるのかを考えよう。
「農地は広いけど大型の機械を使っていたから,たくさん小麦がとれるんじゃないかな?」
「小麦がたくさんとれるということは,たくさん余るはずだから,それで値段が安いの?」
「大型機械だからって,日本の機械と変わらない値段なんだ!」
「農家一人あたりで作ることができる小麦の量がこんなに違うなんて…」

<資料>
・日米の農業労働者一人あたりの農地面積
・日米の小麦生産用トラクターの写真と価格
・日米小麦の生産コスト比較表
・日米1haあたりの収量に対する売却価格

○ほかのアジアの国々から輸入している食料が安い値段で販売できるのは,日本より物価が安いので,生産にかかる費用が安いからであるということがわかるようにする。

○スーパーのチラシで,中国産や台湾産の野菜や魚が国産に比べて安いのかを考えよう。
「同じ枝豆なのに,国産より台湾産が安いよ。」
「中国産のウナギもそうだね。」
「中国では,1か月にかかる生活費がこんなに安く済むんだ!」
「こんなに安かったら,国産が売れなくなって農家が減ってきてるのかな?」

<資料>
・各国の1か月の生活費比較グラフ
・農業就業者数の移り変わりグラフ

○国内の食料生産向上に携わっている人々の取り組みや努力について調べ,これからの食料生産について考えるようにする。

○なぜ,ビルの中で野菜の生産を行っているのだろうか。
「これだと台風の被害とか受けないね!」
「病気になりにくいから,農薬がいらないんだって!」
「もっと,自分たちで安全で新鮮な食べ物が作れるといいね。」
「わたしたちの周りでも,新しい取り組みってあるんじゃない?」

<資料>
・パソナビルでの野菜の水耕栽培の写真
・農水省「FOOD ACTION NIPPON」パンフレット

6.本時の学習

①目標
 アメリカでは日本の約70倍もの農地を大型の機械を用いて,手間や時間をかけずに小麦生産を行っているので,安い値段で小麦をつくることができるということがわかる。

②学習展開

主な学習活動・内容

指導の工夫と教師の支援

資料

○国産の小麦とアメリカ産の小麦では何が違うのか考える。
「国産の方が安全。」
「国産の方が美味しい。」
「国産の方が値段が高い。」

・安易に「国産=安全」と述べたときに,生活の中で意識しているか,違いがわかるかどうかに気付かせたい。

・アメリカの小麦の農作業風景(VTR)


○日本とアメリカの小麦農家の農地面積を比べる。
「日本は狭いな。」
「アメリカは広い。」

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・日米の農家一人あたりの農地面積図

○資料から学習問題を設定する。
「アメリカ産の方が安い。」
「国産の小麦は値段が高い。」
「アメリカ産の小麦は安いな。」

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・国産と輸入小麦の値段

なぜ,アメリカ産の小麦は国産の小麦に比べて約3分の1の値段で売ることができるのだろうか。

○予想する。
農地が広く,大きな機械で小麦をたくさんつくることができるので,安いのかな。」
「小麦は生活に必要なものだから,わざと安く売っているのかな。」
「アメリカ産は国産よりも安全というイメージではないので,みんな買わないから,値段を安くして売っているのかもしれない。」
○広い農地で大型機械を用いた農業だと,一人が収穫できる量が多いことに気づく。

・子どもの予想について,子ども同士で,自由に意見を述べさせたい。その際に,「なぜそう思うの?」と問いかけることで,根拠に基づいて話させるようにしていきたい。
・左予想の下線部の意見「たくさんだから安い」という根拠を,次のシミュレーションで具体的に想起させるようにしたい。

・以下のシミュレーションを行うことで,実感を伴った理解を図りたい。

・日米の農地の広さを描いたホワイトボードと,コンバインを示す太さの違う2種類のイレーサー

~小麦かりとりゲーム~
<ルール>
1.かりとり(畑に描かれた小麦を消していく)は日・米同時開始。
2.かりとりは「ていねい」かつ「急いで」行う。
3.コンバイン(イレーサー)の操作は一人で行うこと。
4.コンバインはムダな燃料がかからないように走らせること。

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○ゲームを振り返る。
「やはり,大型機械だと,たくさん刈り取れるな。」
「アメリカは一人でたくさん小麦がとれて,日本は少ししかとれないよ。」
「たくさんとれるんだから,小麦の値段を安くしても,もうかるんじゃない?」

・どちらも「一人」で行っているが,大型機械を使うことで,同じような作業であっても広い面積を刈り取ることができることに気づかせたい。

○確かめる。
「日本とアメリカのコンバインの値段ってあまり違わないんだ。」
「日本でもアメリカでも,農家の人が小麦を育てる仕事は,同じ作業なのにとれる量が違いすぎる!」
「農家の人一人が手にする金額も違うんだ。」

・資料はそのままでは子どもが読み取ることが困難なので,予め簡略化したグラフを作成しておくことが望ましい。
・生産額だけでなく,費用にも目を向けさせるようにしたい。
・米(146ha)
生産額:約1千万円
費用:約880万円
・日(2ha)
生産額:約63万円 
費用:約94万円
※1$…85円換算 補助金は除く

・農林水産省平成20年産小麦生産費
・アメリカ農務省2007,2008

※今回は授業で扱いやすいように,日米の平均農地面積を基に計算している。

アメリカでは日本の約70倍もの農地を大型の機械を用いて,手間や時間をかけずに小麦の生産を行っているので,安い値段で小麦をつくることができる。