小学校 社会

小学校 社会

「水産業のさかんな地域」(第5学年)
2021.07.01
小学校 社会 <No.025>
「水産業のさかんな地域」(第5学年)
東京都板橋区立下赤塚小学校 主幹教諭 桑島孝博

1.単元名

「水産業のさかんな地域」(第5学年)

2.目標

 我が国の水産業について、生産の工程、人々の協力関係、技術の向上、輸送、価格や費用などに着目して地図帳や各種の資料で調べ、水産業に関わる人々の工夫や努力を捉え、その働きを考え表現することを通して、水産業に関わる人々が、生産性や品質を高めるよう努力したり輸送方法や販売方法を工夫したりして、良質な食料を消費地に届けるなど、我が国の食料生産を支えていることを理解するとともに、水産業の課題や解決への取組を理解できるようにする。
 我が国の水産業について、主体的に学習問題を追究、解決しようとする態度や、我が国の水産業の発展について考えようとする態度を養う。

3.評価規準

知識・技能
○生産の工程、人々の協力関係、技術の向上、輸送、価格や費用などについて、地図帳や各種の資料で調べて、必要な情報を読み取り、水産業に関わる人々の工夫や努力について理解している。
○調べたことを図や文などにまとめ、水産業に関わる人々は、生産性や品質を高めるよう努力したり輸送方法や販売方法を工夫したりして、良質な食料を消費地に届けるなど、我が国の食料生産を支えていることを理解している。

思考・判断・表現力
○生産の工程、人々の協力関係、技術の向上、輸送、価格や費用などに着目して、問いを見出し、水産業に関わる人々の工夫や努力について考え表現している。
○食料生産と国民生活を関連付けて、食料生産が国民生活に果たす役割を考えたり、学習したことを基に消費者や生産者などの立場から多角的に考えて、これからの水産業の発展について自分の考えをまとめたりして、適切に表現している。

主体的に学習に取り組む態度
○我が国の水産業について、予想や学習計画を立て、学習を振り返ったり見直したりして、学習問題を追究し、解決しようとしている。
○学習したことを基に消費者や生産者の立場などから、水産業の発展について考えようとしている。

4.本単元の指導にあたって

 本小単元では既習で働かせた見方・考え方や既習で獲得した知識を生かす場面を意図的に設定した。例えば、米作りも水産業も様々な立場の人が協力している点や、自然環境を守ったり生かしたりしている点は共通している。「米作りと水産業は、共通している点が多い。」と子どもが捉えることができれば、既習を生かして考えようとする子どもが育つのではないかと考えた。また、本実践では、社会で見られる課題を教材化した。我が国の水産業は、水産資源の減少、労働人口の減少や高齢化といった課題を抱えている。つかむ段階では、このような水産物を確保することが難しい状況で、水産業に関わる人たちがどのように水産物を確保しているか問題意識をもてるようにした。社会に見られる課題と課題解決に取り組む人の姿を取り上げることで、社会的事象に共感し、切実感をもって学習に取り組めると考えた。

5.単元の指導計画

学習のねらい

◆本時の問い ○子どもの活動
・子どもの反応

資料

日本の主な漁港の水揚げ量を調べることを通して、水産物の生産地の分布について理解できるようにする。

◆私たちが食べている水産物はどこでとれるのだろう。
○日本の主な漁港の水揚げ量を調べる。
○日本の近海で多くの魚が獲れる理由を調べる。
・私たちが食べている水産物は、銚子や焼津、釧路などで多く水揚げされている。また、魚を獲るだけでなく、養殖も盛んだ。

◎魚や水産加工品の写真
◎主な国の一人1年あたりの魚や貝の消費量のグラフ
◎漁港の水揚げ量、養殖量が分かる地図
◎地図帳
◎日本の近海で多くの魚が獲れる理由

日本の水産業の課題を調べ、水産物の確保について疑問を出し合い、学習問題をつくることができるようにする。

◆日本の水産業にはどのような課題があるのだろう。
○日本の水産業の課題について調べる。
・漁師の数が減っている。
・水産資源が減少して、魚がとりにくくなっている。
○水産資源の減少の原因を調べる。
・魚をとり過ぎてしまったことが原因だ。

○日本の水産業について疑問を出し合い学習問題をつくる。

◎不漁の新聞記事
◎さんま不漁のニュース・漁師の話(映像)
◎水産業で働く人数の推移
◎水産資源減少の原因の映像

◎私たちの食生活(写真)

【学習問題】大変だ!日本の水産業!水産業のさかんな地域の人たちは、消費者が魚を食べられるように、どのようのことをしているのだろう。

学習問題について予想し、学習計画をたてることができるようにする。

○学習問題について予想する。
・魚をカントリーエレベーターのようにたくさんためている。
・魚を品種改良のように改良している。
・大学の研究者との協力している。
【稲作の学習を生かした予想】

○日本の水産物の自給率や水産物の輸入相手国や輸入品目について調べる。
・日本は約半分の水産物を輸入している。

○日本の水産業に関わる人は、水産物を確保するためにどのような工夫をしているか予想する。
・養殖をしている人がたくさん魚をためている。
・網でとったあと生きたままどこかで飼っているのではないか
○予想を基に、学習計画をたてる。
・あみ漁法の工夫
・つり漁法の工夫
・養殖の工夫
・港や輸送の働き

◎水産物輸入の割合
◎水産物の自給率
◎水産物の国内生産量と輸入量
◎網漁、釣り漁、ようしょく、輸送に関わる人のイラストや写真

さんまの網漁について調べることを通して、漁師は効率的に漁をしていることを理解できるようにする。

◆さんまのあみ漁は、どのように行われているのだろう
○網漁の方法について写真や文章資料で調べる。
○網漁の利点や課題について考え、話し合う。
・効率的に漁ができるが、魚をとり過ぎてしまう心配もある。
○日本の漁獲制限の取組について調べる。
・さんまのあみ漁は、ソナーで魚群をさがし、大きな網で一度にたくさんさんとれるように工夫されている。さんまの水産資源を保護する取り組みも行おうとしている。

◎網漁の写真
◎さんまの写真
◎ICT技術の活用
◎漁師Nさんの話
◎網漁の課題(乱獲・混獲)
◎漁獲制限のニュース映像


本時

カツオの一本釣り漁について調べることを通して、一本釣りを行うことの利点について多角的に考えることができる。

◆カツオの一本釣りは、どのようなよさがあるのだろう
○カツオの一本釣りの様子について写真や映像で調べる。
○カツオの一本釣り漁の大変さについて考える。
・魚の群れを探すのに時間がかかる。
○カツオのセリの値段や自然環境への影響について調べ、一本釣りの利点について考える。
・一本釣りは、魚をとりすぎずに新鮮なまま魚をとるので、消費者や生産者、自然環境によさがある。稲作と同じように三方よしだ。
【稲作の学習との共通点を考えている】

◎カツオの一本釣りの様子の写真や映像
◎漁協の人の話
◎カツオの競りの値段
◎MSC認証ラベルのカツオの写真

栽培漁業の鰆漁やマグロの養殖業の仕組みを調べることを通して、漁師は様々な立場の人と協力し、水産資源を増やすために工夫していることを理解できるようにする。

◆鰆の栽培漁業や、マグロの養殖は、どのように行われているのだろう
○瀬戸内海の鰆の栽培漁業や近畿大学のマグロの完全養殖について調べる。

○栽培漁業と養殖の利点について考え、話し合う。
・消費者はいつでも魚を食べられる。
・漁師は、安定して魚が獲ることができる。
・海にいる魚が減らないから環境によい。
・栽培漁業や養殖は、研究所や大学の研究者と協力して行われている。どちらも水産資源が増えるように努力している。
【稲作の学習との共通点を考えている】

◎鰆漁の映像
◎鰆漁の網の絵
◎鰆漁に協力している県の範囲
◎マグロの養殖業の映像
◎栽培漁業・養殖業を行う人の話

港や輸送の働きについて調べることを通して、漁港で働く人や輸送に関わる人たちの品質を高める工夫や、水産物の値段と費用の関係について理解することができる。

◆港に水あげされた魚はどのようにしてわたしたちの食卓へとどくのだろう。
○港の働きや輸送の工夫について調べる。
○水産物の値段にはどのようなお金が含まれているか考える。
○魚の価格に含まれる費用について考える。
・魚の価格にはお米と同じように、漁師や港で働く人、輸送や販売に関わる人の給料などが含まれている。
【稲作の学習との共通点を考えている】

◎港の写真
◎港の働きについての文章資料

◎地図帳
◎輸送の工夫についての文章資料

調べたことを関係図に整理し、水産業に関わる人たちの果たす役割を考えることを通して、水産業に関わる人たちが我が国の食料生産を支えていることを理解することができる。

○学習したことを関係図にまとめる。
○関係図をもとに学習問題に対する考えを文章にまとめる。
・水産業のさかんな地域の人たちは、魚を減らさない工夫をしながら魚をとったり、養殖したりして、新鮮なまま魚を全国にとどけ、消費者が食べられるようにしている。

新しい水産業の取り組みとして、世界の国々の取組を調べることを通して、水産業が抱えている課題を解決しようとする態度を養う。

◆水産物を安定して生産し続けるために、世界の国々では、どのようなことに取り組んでいるのだろう。
○ノルウェーや世界の国々の漁業の現状について調べる。
○日本のMSC認証を広めようとする取組について調べる。
・世界の国々でも、魚をとりすぎないように工夫している。日本の消費者はもっと魚がへっていることに関心をもった方がいい。

◎世界の水産物の生産量の変化
◎ノルウェーサーモンの写真
◎ノルウェー漁獲量の推移
◎地図帳
◎ノルウェーの漁獲制限
◎海のエコラベルの欧州、日本の意識調査

これまでの学習を基に、生産者や消費者の立場からこれからの水産業の在り方について考え、表現できるようにする。

◆これからの水産業はどのようにしていくべきだろうか。
○網漁、一本釣り、栽培漁業、養殖、完全養殖をマトリックスに整理する。
○これからの日本の水産業の在り方について、生産者、消費者の立場から考え文章にまとめる。
・これからの水産業を安定的に続けていくためには、魚を減らさない工夫や魚を増やしていく工夫が必要だ。消費者はエコラベルなどを見て商品を選んでいくべき。なぜなら日本の消費者の魚を減らないように協力しようとする意識が低いからだ。生産者は魚を獲り過ぎず、自然環境を守りながら漁をしていくべきだ。網漁をする人は魚を獲る量を守り、一本釣りの漁師は、環境にやさしいのでこれからも続けていくべきだ。しっかり他の国とも話し合いをして、魚をとっていい量を決める必要があると思う。

◎漁師による水産資源の意識調査
◎水産物の生産量の推移
◎作成した関係図

6.本時の学習

①目標
カツオの一本釣り漁について調べることを通して、一本釣りを行うことの利点について多角的に考えることができる。

②学習展開

○主な学習活動
・内容(予想される児童の反応)

◆指導上の工夫と教師の支援

資料

○前時の学習内容を振り返る。
・巻き網漁は、船が協力してライトや大きな網を使って大量の魚をとっている。

○釣り漁で獲られている代表的な魚種を確かめる。
・カツオだ。
○漁が盛んな高知、焼津の位置を確かめる。

◆実物大のカツオの写真を示すことで、カツオ漁への関心をもてるようにする。
◆地図帳を使う場面を設定することで、地図帳の活用に慣れるようにする。

※カツオの実物大の写真
※カツオの一本釣り、巻き網漁の写真

かつおの一本釣りは、どのようなよさがあるのだろう

○カツオの一本釣りの利点について予想する。
・魚を獲り過ぎない。

○カツオの一本釣りの様子について映像資料を活用して調べる。
・竿でつっている。
・針に工夫がある。

◆映像を2回繰り返すことで、一本釣りの仕組みについて理解できるようにする。

※一本釣りの映像(約2分×2回)

○カツオの一本釣りについて資料を読み取り、カツオの一本釣りの良さや大変さについて調べる。
・値段が高く売れる。
・魚が傷まない。
・魚を捕りすぎることがないので、水産資源が守られる。
・エコラベルを売るときにつけることができる。

◆資料に下線を引いたり、メモを書き足したりすることで、カツオ漁のよさを調べられるようにする。

※漁業協同組合Sさんの話
※水産加工会社Mさんの話
※網漁でとったカツオのセリの値段
※一本釣りでとったカツオのセリの値段
※海のエコラベルについての資料

○カツオの一本釣りの利点は、それぞれどのような立場の人にとってよいのか考え、話し合う。
・値段が高く売れるのは漁師にとってよい。
・水産資源が守られるのは、消費者にも、漁師にもよい。なぜなら、魚がまた捕れるから。
・エコラベルをつけることは、消費者と魚を売る人どちらにとってもよい。
・自然環境、消費者、生産者によいことがあるのは、米作りと似ている。

◆調べたことは「どのような立場の人にとってよいのか」問い返すことで、カツオの一本釣りのよさについて多角的に考えられるようにする。
◆板書を稲作の学習と同じように工夫することで、稲作と水産業には共通点があることに気付けるようにする。(写真参照)
◆「自然環境、消費者、生産者の三方よしにすることのよさは何か」と問い返すことで、持続可能な漁業の在り方について考えられるようにする。

○本時の問いに対するまとめとふり返りを文章に書く。
・一本釣りは、魚をとりすぎずに新鮮なまま魚をとるので、消費者や生産者、自然環境にそれぞれよさがある。

◆振り返りの視点を示すことで、自分の考えの変化や自分の学習の仕方について振り返りをかけるようにする。

既習を生かしたことが分かる場面の板書の例