小学校 総合
2026.10.27 <No.005>
教室でアクアポニックス!? ~総合的な学習の時間を中心としたSTEAM教育の実装~(第4学年)
1.はじめに
教室の中に、魚が泳ぎ、野菜が育つアクアポニックスが現れた。第4学年の子どもたちは、社会科「ごみのしょりと利用」の学びをきっかけに、地域の「もったいない」探しをすることになった。この活動を通して、「もったいないを減らさなきゃ」という思いを高め、子どもたちは「もったいない」を地域の宝へとつくり変える探究的な学びへと踏み出していった。本稿では、各教科の学びと地域の問題解決をつなぐSTEAM単元の全体像を、「水のゆりかごチーム」の物語を中心に紹介する(資料1)。
2.水のゆりかごチームの物語
「水のゆりかごチーム」の物語は、地域の「もったいない」を探すところから始まった。校外学習で訪れたのは、廃校(旧中吉川小学校)をリノベーションした三木市の体験施設OPEN SPACEである。屋内釣り堀「釣りの体育館」で魚釣りを楽しんだり、施設を見学したりする中で、子どもたちは施設スタッフの市橋さんから、水をきれいに保つために2週間に1回ほど、約20,000Lもの水を入れ替えのために捨てている(汚れると魚が病気になってしまうため)という話を聞いた。「そんなに大量の水を捨てているなんてもったいない」。この気付きが、探究の出発点となった。
地域には、廃棄される桃や播州織の残布・残糸、そして釣り堀の排水など、さまざまな「もったいない」があった。学年で地域の「もったいない」について話し合った末に、「水のゆりかごチーム」の子どもたちは取り組む対象を「釣り堀の排水」に決めた。「釣りの体育館」のホンモロコを譲り受けて教室で飼いながら、市橋さんに改めてインタビューし、排水の量や頻度、そして「廃棄をゼロにし、サステナブルな施設にしたい」という願いを知る。「この排水をいかせないか」と方法を調べる中で、子どもたちが出合ったのがアクアポニックスだった。はじめは「アクアポニックス」についての知識をもっている子どもは少なかったが、春に訪れた関西万博で展示を見たことを思い出した子どもの一言から調べ直し、魚を育てた水で植物を育て、植物がきれいにした水を魚へ返すという循環の仕組みにたどり着いた。
そして実現には「野菜を育てるベッド(水耕栽培装置)」「水を循環させるシステム」「魚のエサやりの自動化」が必要だと分かってきた。さらに、魚も野菜も増え続けてしまうため、それらも料理としていかそうと、子どもたちは野菜ベッド・循環システム・自動エサやり機・お料理の各チームに分かれて追究を進めた。それぞれの担当では、試行錯誤が続いた。
野菜がうまく育たなかったため、水の養分濃度(EC値)に着目して定期測定を始めた。濃度が高すぎると魚に悪影響を及ぼし、低すぎると野菜に影響が出るため、最適なバランスを探った。また、日光不足についてはLEDライトで光を補った。
循環システム班は吸い上げる水量が多すぎると野菜ベッドからハイドロボール(人工用土)が漏れ出す問題に直面し、水量をどのように調節するか、悪戦苦闘する毎日であった。
加えて、自動エサやり機班は、24時間ごとに給餌をすると養分濃度が下がりすぎると分かり、12時間ごとに給餌するようにプログラムを組み直した。
試作したアクアポニックスや料理は、地域のもったいない探しで結成された桃チームや播州織チームに感想を聞き、附小っ子学園祭では保護者から改善案をもらってブラッシュアップしていった。そして最終的には市橋さんへ提案し、OPEN SPACEでの試用が決まった。また、育てた野菜(ラディッシュや大葉)とホンモロコを使った料理を考え、いざ料理を栄養教諭にお願いするとなった時に、「ずっと世話をしてきたホンモロコは愛着がわいて食べられない」という声があがり議論が紛糾した。食べるのか食べないのか二転三転する中で、まずは「食用のホンモロコ(冷凍)で試作しよう」という方針に決まり、試食と改善を経て、「ホンモロコのカリポリかき揚げ」が給食として提供されたことは子どもたちにとって忘れられない経験になった。
現在もOPEN SPACEで試用が続き、大葉(もとはペリーラとして販売する予定だった)が順調に育って、その苗の販売で売り上げも生まれている。
3.情報活用科との関連
こうした探究と創造を支えていたのが、情報活用科(「4.本校がめざすSTEAM教育」で後述)で習得した情報活用能力である。子どもたちは、micro:bitによるセンサー制御やプログラミング、Tinkercadと3Dプリンタを用いた設計・製作、Keynoteでのプレゼンテーション、スプレッドシートによる進捗の可視化、Google Formsを介した相互評価など、教科で身に付けた力を必要な場面で自ら選んで活用していった(資料8)。教科の学びが、正解のない本物の課題解決の中で道具として生き、探究と創造を駆動させる基盤として働いていたのである。なお、こうした情報活用能力を発揮する姿は、文部科学省が次期学習指導要領に向けて示す、「探究的な学びを支え、駆動させる基盤」としての情報活用能力という方向性(引用・参考文献1.)と重なるものであると考える。本実践は、質の高い探究的な学びにいきる情報活用能力の具体を示すものであることを願う。
4.本校がめざすSTEAM教育
ここまで、「水のゆりかごチーム」の具体的な歩みを中心に述べてきた。では、これらの活動は、どのような単元設計によって支えられていたのか。以下では、本校がめざすSTEAM教育の枠組みと、本単元の設計について整理する。
本校は「新たな価値の創造に挑戦する子ども」の育成をめざし、文理融合のSTEAM教育に取り組んでいる。兵庫教育大学附属小学校ではSTEAM教育を推進するにあたり、兵庫教育大学 森山潤学長が提案するJ-STEAM論を実践研究の柱としている。令和7年度の実践においては、重点としたのは、探究的な学習の過程の中でデザイン思考を働かせること、いわゆる探究/創造の往還(引用・参考文献2.)(資料9)である。さらに、探究的な学びを支える基盤として情報活用能力を位置付け、その習得を主たる目的とする「情報活用科」(引用・参考文献3.)を創設した(資料10)。本単元は、情報活用科を含む各教科等の学びが、探究的な学びにいきる「教科横断的な学び」の実践である。
5.単元設定の理由
(1)活動内容とねらい
加東市は、朝光寺・播州清水寺といった史跡を生かした観光に加え、酒米の栽培を中心とする農業や、地域で広く愛されている「やしろの桃」「播州織」など、多様な地場産業が根付いている地域である。一方で、流通に乗らない農産物や端材など、本来は価値をもちながらも十分に活用されない「未活用資源」が数多く存在する。こうした状況は加東市に限らず、近隣の小野市、加西市、西脇市、三木市等にも共通して見られる地域課題である。
そこで本単元では、探究課題として「地域に眠る未活用資源の問題」を扱う。これは、ESD for 2030 が重視する持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「つくる責任 つかう責任」に関わる課題でもある(引用・参考文献4.)。本単元を通して、子どもたちが未活用資源の問題に気付き、地域の生産者や観光施設スタッフに寄り添いながら、それらを新たな価値あるものへとRe:デザインするためのアイデアや具体的な方策を生み出していくことをねらう。
加えて、各教科等で学んだことを探究的な学びの中でいかす経験を積むこと自体が重要であると考える。このような経験を重ねることで、教科等で学んだことが実社会・実生活でいきる学びとなるのではないかと考え、継続的に実践を重ねている。
(2)児童の実態
本校の子どもたちは、加東市とその近隣市町村に居住し、地場産業や観光施設などに触れる機会が多く、地域の産物や地域資源に親しみをもっている。しかし、地域に潜む「未活用資源」の存在や、それらが十分に有効活用されていないという現状に気付いている子どもは少ない。また、地域で働く人々が抱える「活用したいが手が回らない」「どう使えばよいかわからない」といった切実な課題に気付いている子どもも同様に少ない。
加えて、本校の子どもたちには、様々なことに挑戦してみようとしたり、思い通りにいかないことがあっても、自分なりに試行錯誤しようとしたりする姿がみられる。その反面、仲間の話をじっくり聞いて関連付けながら話し合ったり、自分たちで折り合いをつけたり、自分が納得するまで粘り強く追究し続けたりすることには課題も見られる(引用・参考文献5.)。こうした実態を踏まえると、実社会の相手(サポーターやユーザー)の存在を意識しながら多面的・多角的に考え、試行錯誤を重ねて自分たちなりの最適解を追究していく本単元の活動は、子どもたちのよさをいかしつつ、多様な他者と協働しながら追究し続ける経験を重ねるために適した活動であると考える。
6.単元について
本単元は、社会科「ごみのしょりと利用」の学びをきっかけに、子どもたちが「お家以外ではどんなごみが出ているのかな」という疑問をもったことから始まった。オンライン会議をしたり、校外学習で現地に足を運んだりして本校周辺の生産者や施設から情報を集めるうちに、子どもたちは「地域にはたくさんの未活用資源がある」こと、そして「未活用資源を有効利用したい」という思いを生産者や施設スタッフが抱いていることに気付いた。生産者や施設スタッフと交流を深める中で「お世話になった方々のモヤモヤを何とか解決できないか」という思いが高まり、「廃棄される桃」「播州織の残糸・残布」「釣り堀の排水」の3チームに分かれて「発想し創る学び」へと進んでいった。
このように本単元では、教科の学びが地域での活動につながり、活動の中で出合った問題への気付きが探究の出発点となっている。さらに子どもたちは、活動を重ねる中で地域の「もったいない」への問題意識を高めると同時に、ともに探究してくれる地域のサポーター(生産者や施設の方々)への愛着を深めていった。この問題意識と愛着こそが、半年以上にわたる長い探究を支え続ける原動力となっていたのではないだろうか。
本単元を進めるにあたって、探究/創造の往還を支えるために、各教科等で育んだ資質・能力や見方・考え方を、プロジェクトで活用・発揮できるよう単元配列を工夫した(引用・参考文献6.)。例えば情報を集める場面では情報活用科「Google Forms の使い方」で身に付けたアンケート調査のスキルを、整理・分析の場面では、算数科「折れ線グラフと表」や情報活用科「Numbersの使い方」で身に付けた資質・能力や見方・考え方をいかし、集めたアンケート結果を表やグラフに整理して傾向を読み取った。プロトタイプを創る際には情報活用科「mBot2を動かそう」で身に付けたプログラミングの制御方法を、プロトタイプをテストする場面では、道徳科「いのちをつなぐ岬(D 自然愛護)」で深まった、自然の尊さを感じ、大切に使用しようとする心情を基盤として、ものごとを多面的・多角的に考えようとする道徳的な見方・考え方を働かせ、自分たちの提案が「サポーターさんにとってのよさ」だけでなく「いのちや自然を大切にできているか」という観点からも問い直した。このように、複数教科の資質・能力や見方・考え方でつながる教科横断的な学び(引用・参考文献7.)の実現をめざした。年度当初に整理した単元全体の構成と子どもの思考の流れ、各教科等とのつながりの想定を表1に示す。
また本単元では、地域で実際に未活用資源の問題を抱える「こはれ農園」「tamaki niime」「OPEN SPACE」に携わる方々を、実在するユーザー(地域のサポーター)として位置付けた。活動する中で愛着が形成された方々の切実な願いに応えるという文脈が、子どもたちの活動への意欲を持続させ、主体的に活動することへの原動力となった。
7.まとめ(成果と課題)
本実践では、地域に眠る「もったいない」を出発点に、子どもたちが探究と創造を往還しながら、地域の宝をRe:デザインしていく学びを構想した。社会科の学びから生まれた素朴な疑問が、校外学習やインタビューを通した情報の収集、整理・分析、まとめ・表現へと展開し、さらに、お世話になった地域の方々の願いに共感するところから、問題定義・発想・プロトタイプ・テストという創造の過程へとつながっていった。子どもたちは「お世話になった方々のモヤモヤを何とか解決したい」という思いに支えられ、実社会とつながるリアルな課題に没頭し、主体的に探究と創造に取り組んでいった。
成果として第一に、各教科等で身に付けた資質・能力が、プロジェクトの必要な場面でいきてつながっていったことが挙げられる。各教科等で育んだ力が真正な文脈の中で束ねられ、よりよい商品・システムの開発へと向かう姿が見られた。情報活用科で習得した情報収集・整理分析のスキルが探究を支え、図画工作科や情報活用科におけるプログラミングの学びが創造を支え、道徳科で養った見方・考え方がプロトタイプの吟味を支えた。子どもたちが各教科等を学ぶことの意義を、プロジェクトの文脈の中で実感していく姿が見られた。第二に、実在するユーザーを設定し、テストフェーズで他者からのレビューをもとに「試行錯誤」を重ねる場を保障したことで、「自分たちのチーム以外の視点から見るとどう感じるのかな」と問うなど、自分たちのチームの視点を超えて、多面的・多角的に対象を捉え直そうとする姿が引き出された。
また、道徳科の学びは、プロトタイプの吟味を支えただけでなく、「もったいない」の探究そのものに価値的な基盤を与えていた。道徳科「いのちをつなぐ岬(D 自然愛護)」をはじめとする生命をめぐる学習を通して、子どもたちは生命の尊さを、命の唯一性・有限性・継続性という観点から捉え直していった。「一つしかない命だから何回も生き返ってくるわけでもない」という唯一性・有限性への気付きは、「かけがえのない一つの命や恵みを無駄にしない」という価値観となり、廃棄される桃を捨てずに加工して生かし、もったいない魚であるホンモロコを有効に活用する姿を支えた。ホンモロコをめぐっては、飼い続ければ増えていく一方で、国内外来種であるため近くの川や池に放すことはできず、かといって無駄に命を奪うこともできない。だからこそ有効に利用して食べる、という結論に至るまでには、子どもたちの間で議論が交わされた。一方、「食物連鎖が起きることによってまた新しい命が出来ていく」という命の継続性・つながりへの理解は、「捨てるのではなく、有効利用するような、よい循環をつくりたい」という願いとなり、魚と野菜が互いの恵みを生かし合うアクアポニックスのような、循環する仕組みづくりの探究へとつながっていった。子どもたちにとって廃棄桃やホンモロコの活用は、単なる資源の再利用ではなく、「大切な命や恵みを無駄にしない」という道徳的な価値を実社会の中で具体化する営みであったと考えられる。
さらに、子どもたちが生み出した価値は、教室の中だけにとどまらなかった。自分たちのアイデアが実社会で価値あるものとして受け入れられ、地域へと広がっていった経験(資料12)は、「新たな価値の創造に挑戦する子ども」の姿に重なるものであり、子どもたちの達成感や次への意欲の高まりがうかがえた。
一方で、課題も残った。探究的な学びの中で、子ども自らが情報活用能力を進んで発揮しようとする姿は、まだ断片的に見られるにとどまった。習得した力を必要な場面で自ら選び取っていかせるようにするためには、各教科等の学びをいかす場を意図的に、かつ継続的に設定し、経験を積み重ねていくことが不可欠である。今後は、本単元で見られた子どもの姿を画像・動画・記述によるエピソード記録として組織的に蓄積・分析し、活動の中で資質・能力がどのように発揮され、見方・考え方が働いたのかを、より丁寧に見取っていきたい。
【付記】
本実践は、令和7年度(2025年度)第4学年の担任団(坂上佳行教諭〔現校長〕・辻本敦子教諭・林孝茂教諭)を中心に進めた。「ホンモロコのカリポリかき揚げ」の給食提供にあたっては栄養教諭の高橋祐教諭にご協力いただいた。現在も、甲斐未来教諭がOPEN SPACEとのつながりを見守ってくださっている。
【引用・参考文献】
- 文部科学省(2025)「小学校における情報活用能力の育成について」、教育課程部会 生活、総合的な学習・探究の時間ワーキンググループ・情報・技術ワーキンググループ(令和7年11月10日)資料1
- 森山潤・永田智子編(2025)『日本型STEAM教育の理論と実践―デザイン思考で未来を創造する学び―』金風舎、p.17
- 兵庫教育大学附属小学校(2025)『情報活用科概要 ―探究/創造にいきる情報活用能力を育む「情報活用科」の創設―』令和7年度兵庫教育大学附属小学校授業実践交流会 補助資料(2025年11月)、pp.3-4
- 文部科学省・日本ユネスコ国内委員会(2020)「持続可能な開発のための教育:SDGs実現に向けて(ESD for 2030)」
- 兵庫教育大学附属小学校(2020)『令和2年度 研究開発実施報告書(第四年次研究)』、p.12
- 兵庫教育大学附属小学校(2025)『研究概要 新たな価値の創造に挑戦する子どもを育てるSTEAM教育(3年次)―情報活用能力を基盤とした教科横断的な学び―』、p.7
- 森山潤・永田智子・石野亮・中井俊尚(2022)「小中学校での実践を想定した日本型STEAM教育の展開方略例の提案」『兵庫教育大学学校教育学研究』第35巻、pp.399-410













