学び!と美術

学び!と美術

子どもの絵の見方 ~田川図画展の実践から~
2018.12.10
学び!と美術 <Vol.76>
子どもの絵の見方 ~田川図画展の実践から~
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 児童生徒の作品展は、題材開発、指導法研究、教師力向上などいろいろな意義のある実践です。本稿では、今年度参加した山形県の第53回田川児童生徒図画作品展・第22回田川地区中学校美術部員展(以下:田川図画展(※1))の実践を取り上げ、絵の見方の研修という側面からみていきましょう。

田川図画展

 田川図画展は53年前に発足しました。昭和30年代、児童画ブームが起こり、学校に限らず様々な場で児童画展が開かれた頃です。各教科の教育団体による教育研究や研究発表会が盛んな時期でもあったので、田川地区でも先生方が教育水準の向上を目指して始めたのだろうと思います。
 児童画展の作品選定にはいくつかの方法があります。一般的には、各学校が選定した作品をみんなで審査し合って、ある程度選抜したり、優秀賞を決めたりして展示します。この場合、審査を行うことが、題材や指導法の妥当性などについて考える研修となります。
 一方で、出品された作品は審査せず、全て展示するという方法もあります。田川図画展はこのタイプで、研修は招聘した講師による講評やギャラリートーク(※2)、講義等によって行われます。筆者も何度か講師を経験しましたが、幼稚園や保育所、学校などが自信をもって送り出す作品との出合いが楽しみな展覧会です。指導した先生に作品の背景について説明してもらったり、なぜこんな表現になったのだろうとみんなで頭を抱えたり、いろいろな発見ができるからです。その一部を幼児の絵を取り上げて紹介します。

城南幼稚園 「みんなで はなびみたよ」
年中 つちだ かんな さん

 花火の絵です。真っ暗な中に鮮やかな色の花火が描かれるのが定番です。ところが、この絵は人の周りだけが四角く塗られていません。確かに花火を見ているときは、視覚的には暗くても、お互いの顔を見て楽しく語り合っているはずです。それを「黒く塗る」ことは、現実の感覚とは異なります。夜だからといって全て暗く塗り込む方が不自然かもしれません。
 かいた子どもに聞いてもらいました。緑のシートの上に座って、みんなで花火を見たそうです。そして「全部塗ると(みんなが)見えなくなるので、いやなので、塗らなかった」そうです。子どもが自分の思いを大切に描いていることに、あらためて気づかされた絵でした。

いなば幼稚園 「うんどうかい~リレーがんばったよ~」
満3歳児クラス おおい あさひ さん

 題名からは、リレーの体験のようです。囲むような円が、リレーのコースでしょう。中にオレンジや茶色で何か描かれていますが、さっぱり分かりません。でも「何か」意図をもって「描かれて」います。まるで「君たちにこの絵のよさが分かるかな?」と問いかけられているようでした。
 取材すると、水色の線はボンボン、真ん中は自分の顔、黄土色は髪です。紫色の線が表しているのは半周のリレーコースでした。なるほどそれで紫色の線は丸く閉じておらず半円なのです。子どもがかきたいことをかき、そのよさや価値を認め、園で生まれた「ありのまま」の絵を出す(※3)。それができる田川児童展のよさを感じました。

鶴岡幼稚園 「たいへんだった いしだんのぼり」
年長 さいとう ゆうり さん

 田川児童展では、石段を上る絵に毎回出合えます。「羽黒山の石段のぼり」を行事に取り入れている園や学校が多いからです。同じテーマであっても、それぞれかき方が異なるので、かいた様子や理由を考える楽しさがあります。
 画面左に描かれている木は国宝五重塔の隣に立つ樹齢1000年の「爺(じじ)杉」、真ん中のギザギザは紙垂(かみしで)のついたしめ縄でしょう。青い柱は「須賀の滝」、お茶屋さんやおばあちゃん、石段はいくつもの石が組み合わさってできています。この子が歩きながら、周りにあるいろいろな資源と対話していることが分かります。
 子どもの絵は、単に絵としてだけでなく、幅広い教育活動の一環としてとらえる必要があります。一枚の絵は、一年間の教育活動の中から生まれるのです。この絵からは、地域とつながりをもって行われている幼稚園の教育や、行事を通して子どもを育てる姿勢などが見えてくるようです(※4)

大山保育園 「えんそくでみたよ おとがきれいな すがのたき」
年長 たかはし ようた さん

 これも「羽黒山の石段のぼり」です。ただ、自分の体験だけでなく、須賀の滝を石段の上から眺めた様子も一緒に表しています。先導する先生、膝の曲がり具合、丸くそったアーチ状の祓川橋(はらいかわばし)を歩く幼児の後ろ姿、滝のふもとが石垣でまっすぐになっている部分、須賀の滝と池、橋の位置関係……その正確さは、まるでドローンで見下ろしたかのようです。
 以前は3D的な表現する幼児は、それほど多くなかったのですが、これからは増えていくでしょう。なぜなら、私たちは道具と一緒に考えたり、感じたりする生き物だからです(※5)。すでに幼児は、多様な描画材が選択できる環境にあり、ゲームやテレビなどを通して3D的な映像世界に浸っています。私たちと異なる世界を生きており、これから起こる社会や文化の発展とともに発達します。幼児の現代的な能力を感じさせる絵だと思いました。

 このように、ギャラリートークでは、一枚の絵の前に立ち止まっては、ああでもない、こうでもないと話をしながら進んでいきます。それは、講師が何かを教えるというよりも、講師も一緒になって語り合う場です。子どもの絵を通して、絵の見方や、発達の変化、教育の今後などを考える貴重な研修会なのです。全国的に、ますます盛んになってほしい実践だと思います(※6)

※1: 主催は、山形県田川学校教育研究会の造形専門部。昭和30年代に、各種の研究団体を組織的にまとめた田川学校教育研究会の専門部の一つとして、1965年3月3日に、田川地区小中学校教育の研究を深めその振興を図ることを目的に置かれました。現在の専門部長は山形県田川造形連盟会長の本間積校長(鶴岡市立渡前小学校長)。会場は2005年開館の鶴岡市の鶴岡アートフォーラム。
※2:以前は講師から「よい絵」についてコメントをもらって、それをまとめた「短評」を絵に付けていたようですが、10年以上前からギャラリートークを行っているそうです。
※3:例えば、展覧会に出される絵の多くは、幼児や低学年でもしっかり背景が塗り込まれています。発達から考えると、背景という立体空間を、平面として塗り始めるのは10歳くらいからですから、見栄えの観点から「塗りなさい」と言われたのでしょう。ただし、審査に影響を与えることはありません。なぜなら、発達を越えた指導については、審査員が頭の中で除外するからです。その上で、その子の発想や工夫などを見ていくので、背景の「ある、なし」が審査に関係することは少ないと思います。
※4:行事や年間の教育計画を考慮せず、絵だけ取り上げて「かき方がどうだ」と語ることには慎重であるべきでしょう。
※5:ここでいう道具とは、コンピュータ、テレビ、絵の具のような文字通りの道具だけでなく、記号、文字、数、筆算、公式なども含む広い意味の道具です。
※6:以前(学びと美術39号40号)も書きましたが、児童生徒の作品展は、地域社会に対するメッセージという機能も持ち合わせています。

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