学び!と美術

学び!と美術

写真は地域社会を変える?
2018.11.12
学び!と美術 <Vol.75>
写真は地域社会を変える?
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 写真はシャッターを「押すだけ」。数十年前にカメラの宣伝で繰り返された言葉が日本において写真という行為や活動、あるいはそこで発揮されている資質や能力を浅いものにしてしまったのかもしれません。これを問い直すような展覧会について紹介します。

写真とまちづくり

 広告等企業向けビジュアル制作の世界でNO.1企業・アマナの執行役員上坂真人さんは、写真によるまちづくりの成功例として2例をあげています。
 一つは、フランス北西部ブルターニュ地方の街「ラ・ガシィ(La Gacilly)町」で15年前から行われている写真フェスティバルです。毎年招待国が変わり、それが写真展のテーマになるのですが、2016年の招待国は「日本」でした。ラ・ガシィ町長からアマナに相談があり、多くの日本人作家の作品が展示されることになったそうです。
写真1 この写真フェスティバルの特徴は展示のほとんどを屋外で行うことです(写真1)。建物の外壁に巨大な写真、森の中や木陰に写真パネル、原っぱの中や、町の歩道脇など、町まるごとが写真で覆われます。人口2205人(2013年)の町に40万人訪れ、写真を通して歴史や社会、人種などが新鮮な問いとして浮かび上がるそうです。身近な写真が、国を超えて多くの人をつなげる事例だと思われます(※1)
 もう一つは北海道東川町の実践です。
「地域再生をねらいにした様々なアートプロジェクトがあります。表面的には村や町を訪れる人は増えていますが、実は人口増にはつながっていません。本質的なまちおこしにはなっていないのです。ただ、東川町だけは例外です。(上坂談)」
 上水道普及率0%で生活は全て伏流水、「予算がない・前例がない・他でやってない」を言わない役場のポリシーなど、様々な特徴を持つ東川町ですが、その中核になったのが写真です(※2)。人口が減り続けた1980年代に『東川町国際写真フェスティバル』を導入し、それが『全国高等学校写真選手権大会 写真甲子園(1994)』『高校生国際交流写真フェスティバル(2015)』へ発展します。町は、様々な節目に日々の様子を写真に残すことを奨励し、写真文化を通した活力のあるまちづくりをめざします。2014年には「写真文化首都」を宣言し、2015年に国際化戦略として日本初の公立日本語学校を設立、その他にも写真の町条例、写真の町・記念写真プレゼント事業など様々な事業に取り組んでいます。その結果、人口6000人台だった町は2018年現在で8313人、国内外からの定住者が増え世帯数は約1500から約3500へ増加しました。
 誰もが撮れる写真だからこそ、自然と人、文化や社会、人と人などを容易につなぐことができたのでしょう。小さな町であっても、世界中の写真に出会い、人々と触れ合うことは可能です。写真を撮ることの広がりを通して、まちが元気になったのだろうと思います。

浅間国際フォトフェスティバル

写真2 上記の二つの特徴を一体化するような取り組みが、現在、長野県の東部、浅間山の裾野に広がる御代田町で進行しています。
 御代田町は、東川町を超えるような写真文化を通したまちづくりをめざしています。閉館したメルシャン軽井沢美術館(※3)の跡地や施設を活用して、将来的に写真美術館が設立される予定です。その準備として、今夏は、写真の魅力や楽しさをまち全体で感じ考える場として「浅間国際フォトフェスティバル」が行われました(※4)
 まず、会場に行くまでに、駅の階段や駅舎、市役所前など思わぬ場所で写真を目にします(写真2)。会場につくと、自然の中に溶け込むような写真展示に驚かされます。
写真3 例えば、落ち葉の広がる広場に展示されたジェシカ・イートンの作品は、一見CGに見えるのですが、アナログ撮影で生み出された写真です。カメラの中で創り出された鮮やかで幾何学的な色彩は、カメラが絵筆と同じような創造的な道具であることを感じさせます(写真3)。
写真4 マッシモ・ヴィターリと谷尻誠は、小さなプールの中にビーチの俯瞰写真を沈めます(写真4)。その日の天気や自然環境、鑑賞者が水に触れる行為などによって写真の見え方は変化し、そこに新しい風景が生まれます。その結果、わざわざ夕方の時間、雨の日などを選んで、リピーターが来たそうです。
写真5 展示室は一転して美術館のような空間です。四角い写真が並ぶ一般的な写真展のイメージとは異なり、これは写真?と思うような展示が行われています(写真5)。例えば、藤原聡志の作品は5×25メートルの布のような素材にプリントされ、カーテンのように垂れ下がっています。「写真が平面」という概念は崩され、空間や動きが迫ってきます。
 ホンマタカシはホテルの部屋をカメラオブスクラにして、のんびりと一日かけて浅間山を撮っています。展示されているカメラオブスクラの中に入ると、シャッターを切る一瞬が、光で描く(Photo-graph)行為であることに気づかされます。
 見終わった後、「光で撮影した写真を、光に戻す」「空間をとらえた写真を、空間に返す」など、光や影、時間や空間を存分に味わったように感じました。また広場で走り回る子供たち、造作物を担当した地元の工務店の社長さんなど、そこに集う人々の姿も印象的でした。写真は、単に印画紙にプリントされた何かではなさそうです。撮るという行為は、時代や社会、人々の結びつきの上に成り立つことなのでしょう。

 日本は世界中のカメラのほとんどを製造するカメラ大国です。しかし、写真作品を購入したり、正当に評価したりする側面が弱く、野外展覧会も数えるほどだと上坂さんは指摘します。それに対する成果として、今回、都心から離れた場所で、50日程度の会期であるにもかかわらず、2万人の来場者が集まったことは画期的でしょう。
 1888年にロールフィルム・カメラの特許を取得したコダックの本当の発明は、カメラ、フィルム、現像ラボ、サービス網などを一体的に構築したシステムだと言われています。「あなたはシャッターを押しさえすれば、後は我々がやります(”You press the button, we do the rest”)」という有名なCMは、写真が「押すだけ」でないことを物語っていました(※5)。すでに、現代は、スマホやインターネットで多くの人がグローバルに写真や動画、3D画像を共有し、新しい人間関係や社会をつくりだしています。
 フェスティバルの実行委員長でもある茂木祐司町長は、「多彩な文化や知恵、感性と写真を融合させながら、来るべき時代に向けた新しい価値を皆様と一緒に創造していきたい」と語っています(※6)。人、社会、文化など、写真から広がる様々な可能性にふれることのできた展覧会でした。

※1:パリ郊外の街でアート写真を体験する「Festival Photo La Gacilly」現地レポートより。https://imaonline.jp/articles/global_news/20170623la-gacilly_1/
※2:玉村 雅敏・小島 敏明(編著)「東川スタイル―人口8000人のまちが共創する未来の価値基準(まちづくりトラベルガイド)」産学社(2016)
※3:日本の酒類メーカー・メルシャンが1995年(平成7年)に開館した私立美術館。2011年(平成23年)に閉館。2020年に写真美術館として再興する予定です。
※4:2018年8月11日~9月30日 詳細はhttps://asamaphotofes.jp/
※5:土橋臣吾・上野直樹編『科学技術実践のフィールドワーク ハイブリットのデザイン』せりか書房(2006)p9
※6:展覧会図録のあいさつから。IMA編集「浅間国際フォトフェスティバル2018」図書印刷(2018)p4

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