学び!と美術

学び!と美術

子どもの表現には理由がある
2024.07.10
学び!と美術 <Vol.143>
子どもの表現には理由がある
同志社女子大学 教授 竹井史

大人の目には不思議に映る行動でも、子どもの表現にはちゃんとした理由があります。子どもの思いを知ることで、どんな支援を必要としているかが見えてくるはずです。子どもへの支援について、竹井史先生にお話を伺いました。

子どもの「思い」に気付く

子どもって、大人にとっては不思議な色を塗るときがありますよね。ぼくが2年生の担任をしたとき、授業でニワトリを見たあと、学校に帰って図工でニワトリの絵をかくことにしました。そのときある女の子が、羽と尾を色鉛筆で水色と緑色と赤色に塗っていたのです。

当時は、2年生だしなんとなく色を付けたくなるのはしょうがないのかなと思ったんです。でもやっぱり気になって「なんでこんなふうに塗ったの?」と聞くと、その子が言うのです。

先生がじっくり見なさいって言ったから、じーっと見ていたら、ニワトリの足に輪っかが付いているのに気付いた。それで図工の時間、その輪っかのことを思い出したら、なんだかかわいそうになってきた。なんとかして楽しい気分にさせてあげたくて、「そうだ、羽をキレイな色にしてあげれば、ニワトリさんも楽しくなる!」と思って塗った、と話してくれました。

色を塗ったのは幼いからなんかじゃない。ちゃんと、7歳の子なりの理由があったのです。ニワトリさんを励ましたいという思いがあって、その子なりの表現が生まれた。表現に向かうってこういうことだと、はっとしました。

こんなふうに子どもは自分なりの世界の見方をもっているのだから、図工の時間はそれを引き出してあげればいい。その子なりの「こうしたい」という思いが出てくるような仕掛けや手立てを考えることが大切だと思います。

思いに合った描画材を選べるように

例えば、低学年でクワガタの絵をかいていた子がいて、よく見ていると、この子はクワガタのメカニックな感じというか、足や触角の細かいところまでかきたいのかなってぼくは思った。別の子はザリガニをかいていて、甲羅の色に興味があるような気がする。

そうすると、クワガタの子はパスだけだと細かな線は難しいからペンも必要かな。ザリガニの子は甲羅の色合いを表現するのに絵の具が必要かな、と思えてくる。

その子の思いやこだわりがあって表現の方法は決まっていくので、それに対してどう支援するかを考えることが大切です。子どもが自分の思いを基に表現できるよう、環境を整えることが先生の役割ですね。

子どもの「したい」はどんどん変わる

声かけも大切です。

ある学校で、砂場で造形遊びをしたとき、子どもが初日はツルツルのお団子を丁寧につくっていたのに、次の日は雑につくっていたらしいんです。担任の先生は、どうして雑なのか不安になったそうです。

そこで子どもに聞いてみると、「昨日はきれいな団子をつくりたくてつくって達成感があった。でも今日はお団子屋さんごっこをしたいから、たくさんつくりたい」と話してくれたそうです。その子のしたいことが、前日とは違ったんです。もし子どもの思いに気付かず、先生が「どうして昨日みたいにつくらないの」と丁寧につくらせようとさせてしまったら、意味がないですよね。

特に造形遊びは、したいことがどんどん変わっていくものです。その子のしたいことに寄り添って、その気持ちを感じることが支援につながるはずです。

そういう意味では、「図工が苦手」と思っている先生は、子どもの「図工が苦手」という気持ちを感じられる、いい先生です。子どものつまずきポイントに気が付けるのですから。

※今回は、「図工のみかた(08号)」で連載した「図工ってなんだ?」の記事を抜粋し、再編集して掲載しています。元記事はPDF、または電子ブックでご覧いただけます。
https://www.nichibun-g.co.jp/data/education/zuko-mikata/zuko-mikata08/

竹井史(たけい・ひとし)
1959年、大阪府生まれ。富山大学、愛知教育大学教授、愛知教育大学附属名古屋小学校長等を経て、現在、同志社女子大学 現代社会学部 現代こども学科教授。愛知教育大学名誉教授。ものづくりによる地域活動を継続し、これまでに7万人の親子と触れ合う名古屋市造形研究会顧問を担当するなど、美術教育の発展に努める。令和6年度版日本文教出版小学校図画工作教科書の著者の一人。