学び!と地理

2026.09.08 <Vol.05>

中学校地理的分野の学習における景観観察

中嶋 則夫(なかじま・のりお)

中学校地理的分野の学習における景観観察

1.「地域を題材とした学習活動」の意義と現状の課題

 学習指導要領改訂に向けた検討が本格化し、各教科等のワーキンググループで議論が進んでいます。その中で、現行学習指導要領の地理的分野・歴史的分野の「地域を題材とした学習活動(地域調査を含む)」に関わる内容について、歴史的分野や公民的分野との関連性も踏まえつつ、「分野横断的な単元」として整理することが示されています(「令和8年7月29日社会・地理歴史・公民ワーキンググループ資料1 社会、地理歴史、公民WGの取りまとめについて」、以下「WG取りまとめ案」とします)。
 「令和8年2月27日社会・地理歴史・公民ワーキンググループ資料1」(図1)では、「身近な地域や事象を扱う地域を題材とした学習活動(地域調査を含む)」の教育的意義について以下の点が挙げられています。

子どもの学習意欲を高め学習課題をもたせやすい
子どもの原体験を補完しうる
地域再生・創造の一翼を担いうる
教室内の学習を実社会の姿と結び、学びを深める手がかりを得る
自らの生活空間や生活体験と学校での学習を結び、地域社会を構成する一員としての自覚とともに学習内容を捉える姿勢を育む

 しかし、地域調査等の学習は、こうした意義を踏まえて地理的分野・歴史的分野の学習で位置づけられているものの、以下の点から小学校に比べて中学校では十分に行われていないという課題が指摘されています。

実地調査の性質上、授業時数内での実施が難しい
準備や実施に多くの時間が必要となる
地域調査を実施する上で、教員の知識・経験が不足しており、具体的な指導ができていない

図1 令和8年2月27日社会・地理歴史・公民ワーキンググループ資料1(文部科学省)
原資料はこちら

 「WG取りまとめ案」では「分野横断的な単元」については、

A 社会へのまなざし:小学校社会科の学習を踏まえた中学校社会科への導入単元
B 私たちと社会:地理的分野と歴史的分野の学習を踏まえた公民的分野(現代社会)への接続単元
C よりよい社会を目指して:生徒が課題を探究する活動を通して、私たちがよりよい社会を築いていくために解決すべき課題の解決に向けて考察・構想する中学校社会科のまとめ単元

といった三つの単元が想定されています(下線は筆者)。
 「地域を題材とした学習活動(地域調査含む)」は、現実社会から課題を捉える手法を身につける学習として、分野横断の単元の主な方法に位置づけられています。その中でも実施時期や方法は柔軟に扱うことを前提としつつ、分野横断の「B 私たちと社会」が主たる実施単元として位置づけられています。
 実施上の課題を克服し、身近な地域を題材に、それまでの各分野の学習の生徒の実態を踏まえた分野横断的な単元を適切に構想できるのは、生徒の3年間の社会科の学びの中での成長を目にしている中学校の先生方に他なりません。先生方の意欲的な取り組みと指導事例の発信、事例をもとにした議論の深まりに期待したいと思います。

2.地理的分野の「地域調査」の学習活動

 地理的分野の学習では、「地域」が着目すべき視点として例示されており、地域を題材とした学習活動は地理的分野の学習すべてが当てはまるといってよいと思います。「身近な地域」に限っても、身近な地域の事象と関連づけることは、どの中項目でも常に想定することができますが、とりわけ大項目Cの中項目(1)「地域調査の手法」は「身近な地域や事象を扱う地域を題材とした学習活動」の中心として位置づけられると思います。
 『中学校学習指導要領解説社会編』(以下『解説』とします。)では、「地域調査などの具体的な活動を通して,まだ見ぬ地域を知ったり,知るための学び方や調べ方を学んだりすることは,成長期の生徒にとって,本来,楽しいことであり,学びがいのあることである。」としています。そして、「それだけに,例えば,景観の観察といった比較的実施に負担が少なく,視覚的に捉える活動を取り入れるなど,現代の日本や世界の地理的な事象を取り扱う地理学習の特質を生かして,作業や体験を伴う学習や課題を設定し追究する学習などを工夫し,生徒の社会参画意識の涵養を視野に主体的な学習を促すことが必要である。」と示されています。
 生徒の生活の舞台でもある学校周辺の地域は、実際に景観観察や地域調査を通して事象間の関連を発見する地理的な追究の面白さを実感することのできる場所であり、まさに「教室内の学習を実社会の姿と結び、学びを深める手がかりを得る」場所、「自らの生活空間や生活体験と学校での学習を結び、地域社会を構成する一員としての自覚とともに学習内容を捉える姿勢を育む」場所であると言えます。
 こうした重要性を鑑みて、着実な実施が図られるよう、『解説』では、「活動に適した時期に行うようにするなど,年間計画の中で弾力的な実施が可能」としています。総合的な学習の時間や、防災活動、遠足等の学校行事と組み合わせることが提案されており、弾力的な実施の例として、「総合的な学習の時間で職場体験活動を行う場合に,体験活動を行う店舗,事業所などの分布を地図に表したり,地域と連携した防災訓練を行う場合に,生徒が実際に避難する経路や,経路上の地形や危険な箇所,避難に適した場所を地図に表したりすること」などが示されています。
 なお、総合的な学習の時間では、「他教科等及び総合的な学習の時間で身に付けた資質・能力を相互に関連付け,学習や生活において生かし,それらが総合的に働くようにする」ことが求められています。総合的な学習の時間においては地域の課題が扱われることが多くあります。そうした際に、地理的な見方・考え方を働かせて地域の課題を把握したり、地図化の技能や調査方法を活用して分析を進めたり、地域を構成する様々な事象を関連付けて解決策を構想したりするなど、地理的分野の学習の成果を、総合的な学習の時間の課題解決に活用することが考えられます。こうした相乗効果を生むためには、地理的分野の学習において、その成果を活用する見通しをもつ場面を適宜設定し、相互の関連を促すことが大切ではないかと思います。それぞれの特質を踏まえて相互に活用することが大切であり、このことは、よく耳にする「地理学習で地域課題を扱うとどうしても公民の学習になってしまう」という悩みの解決にも通じることではないかと思います。

3.景観観察の学習上の効果

 平成20年版の『中学校学習指導要領解説社会編』では、直接経験地域である「市町村規模の調査」には、「景観を対象にして観察,調査し,それを基に地域の課題を見いだし,考察することができる」などの特質があることが示されています。
 そして、「景観には,地域の環境条件,他地域との結び付き,そこに居住する人々の営みが総合的に反映」されているため,「景観から読み取った地理的事象を追究すると,他の要素も有機的に関連付けられ,地域的特色をとらえ,地域の課題を総合的に見いだし,考察する基本を学習することができる」こと、また、「景観は現実,現状そのものであり,地図や統計などのようにある規則の下に必要なものだけを取り出すといった作業を経ておらず」、「様々な事象が取捨選択されることなく存在し広がっている」ため、景観から「どのような事象に着目し何を捨象するか,取捨選択して残った事象を位置や空間的な広がりとのかかわりでどのようにとらえるか,すなわち,地理的事象としてどう見いだすかといった能力が問われる」ことが示されています。こうした学習は「景観をみる観察眼を磨き,地理的事象を自ら見いだす能力を培う上で効果的」であり、「地域に広がる景観を対象にして観察,調査を行うことは地理学習の基礎であり,重視して扱うことが必要である」と指摘しています。
 これらのことは、現行の学習においても、そして、恐らく今後の改訂後においても変わらない、景観観察の学習上の意義を示していると思います。

4.景観、地域、環境

 『地理学事典』(日本地理学会編、2023年)では、地理学における「景観」の概念について、事物や活動の空間的なまとまりである「地域」の形態的側面であり、人間と自然の営みの結果として構築されるものと示されています。
図2 地域における景観分析のフレームワーク
菊地俊夫「地理学とフィールドワークの世界」(地理空間2019)より転載
 菊地俊夫は「地理学とフィールドワークの世界」(地理空間2019)の中で、「地理学の研究において,地域の性格を見出すことは最も重要なテーマであり,その第一歩は誰もが容易にできる土地利用を含めた景観の観察」であり、それが地理学のフィールドワークの基本であるとしています。地理学において、景観は地域の諸環境(自然、歴史・文化、社会・経済、生活など)を地表上に投影したものとして捉えられており、「景観を体系的に読み解くためには,最初に景観のなかに特徴的な現象や興味深い現象を発見し,次にそれらを特徴づける自然環境,社会・経済環境,歴史・文化環境などを抽出し,最終的には特徴的な現象と諸環境との相互関係に基づいて地域の性格を考察」する必要があるとしています(図2)。「景観をつくる環境要素を識別し,それらと人間の生活や活動との関係を明らかにすることが地域の理解や地域の性格の究明につながっていく」のであり、こうした一連の試みが「地理学の研究の醍醐味」としています。「地理学のフィールドワークの特徴は地域のさまざまな環境を総合的に理解し,その理解を踏まえて地域の性格を把握すること」にあります。菊地の「地理学のフィールドワークは総合科学ならではの特徴をもっている」という指摘は、地理的な考察の意義をよく示していると思います。
 中学校地理的分野の学習で、こうした「景観」の概念を直接扱うことは難しいように思います。しかし、教師がこうしたイメージをもって指導に当たることはとても大切なことです。上に示した景観と環境、地域との関係性は、中核とした事象とその他の事象との有機的な関連に着目した動態地誌的な考察に通じるものがあります。今見える景観の背景にあり、景観の形成に様々な影響を及ぼしている地理的な環境やその変化に関わる事象は、地理学習のみならず、他分野や他教科等の学習の様々な場面で扱われるものです。社会に見られる課題について、動態地誌的な視点で捉えられるようになることこそが中学校における地理学習の役割であり、具体的な地域を基に、そこで見られる社会的な課題を扱う際に活用されるべき地理学習の成果であるといえます。地域の枠組みの中で諸事象の相互の関連に着目して考えるような経験は、大変貴重なものです。地理的な視点からの景観観察の機会が確保されることを願ってやみません。

5.景観観察の具体的展開

 それでは、景観観察の具体的な展開としては、どのような方法が考えられるでしょうか。『解説』の例示をもとに考えてみたいと思います。
 C(1)「地域調査の手法」では「地域の防災」を主題として設定した展開例が示されています。そこでは「学校周辺の地域で,人々が自然災害から身を守るにはどうしたらよいか」といった課題意識に基づいて、地域で想定される自然災害から取り上げる事象を決めて展開することが想定されています。
 例えば『地理院地図』などのWeb地図を活用し(図3)、身近な地域のハザードマップで洪水や津波、液状化、土砂災害などの予測を確認するとともに、学校周辺を観察して地域の微細な高低差や傾斜を体感したり、土地利用や災害対策の実際を確認したりする活動が考えられます。また、台地と低地、自然堤防と後背湿地、盛土と切土など、観察地域の特徴的な地形に関する概念も発展的に活用することも考えられます。詳細で網羅的な地形の知識を求めるものでは決してありませんが、防災上重要な地形への関心を高めることは大切なことです。理科第2分野では第1学年で「身近な地形や地層」、「火山と地震」の学習を行いますので、そうした学習との関連を図ることも考えられます。

図3 『地理院地図』の活用例【左:洪水浸水想定区域(想定最大規模)、右:地形分類(自然地形)と陰影起伏図】(国土地理院)
原図はこちら

 なお、防災に関する学習は「現代的な諸課題に関する教科等横断的な教育内容」の一つとして位置づけられています。『中学校学習指導要領解説総則編』の巻末に掲載されたカリキュラム・マネジメントの参考資料では、「防災を含む安全に関する教育」として、避難訓練などの特別活動のほか、体育や理科、道徳などの教科等の学習とともに地理的分野の大項目C「日本の様々な地域」の学習が位置づけられています。自然環境と自然災害との関わりや災害対策の取り組みについての知識、ハザードマップなどの地図の読図の技能などの習得といった地理的分野の学習ならではの成果を着実に身につけるとともに、他教科等の学習との関連も図ることで、それらを生きてはたらく力とすることが期待されます。
 次にC(4)「地域の在り方」では、以下のような展開が想定できます。
 生徒は、C(2)「日本の地域的特色と地域区分」で、「自然災害と防災への取組」や「少子高齢化の課題」「過疎・過密問題」,「国内の産業の動向」,「環境やエネルギーに関する課題」「交通・通信網の整備状況」などについて学習し、それらの成果を生かしてC(3)では7地方区分などの地域を対象に、地域的特色や地域の課題、事象間の関係の規則性や傾向性を理解する学習を行います。地理的分野の学習の集大成であるC(4)では、具体的な地域を対象に、他地域で見られた課題は、「私たちの住む地域では,どのような現象として表れているか」などと問い、対象地域でみられる課題の一般的共通性と地方的特殊性に気づくことが想定されています。
 C(4)の学習は、考察の対象となる地域が身近な地域とは限りません。市区町村や都道府県など多様なスケールの地域や、修学旅行先など生活経験の少ない地域を対象とすることも考えられます。仮に中学校の校区や学校の所在する市区町村規模の地域を取り上げた場合、地域の景観観察をもとに考察するテーマを選定したり、課題や特徴など事象の象徴的な場所を観察して、その場所の地理的な環境を確認し、調査の方向性を検討したりすることなどが考えられます。また、防災、過疎・過密、人口減少、産業や交通に関わる地域課題など、それまでの学習内容に関わる景観写真を撮影し、それらを持ち寄って考察したことをもとに説明したり議論したりすることで、景観と学習内容を結びつけるといった工夫なども考えられます。
 その際、市区町村が策定した総合計画や基本計画などを活用することを提案したいと思います。総合計画等は議会や住民参加の議論をもとに策定されています。その資料は広く住民に伝えるために作成されているものですから、中学生が閲覧しても十分理解できる地図や統計などの地理情報に関する資料が掲載されている場合も多く見られます。関連した部署の自治体職員の協力を要請することも考えられますし、公民的分野の学習への接続も図りやすい内容も含まれるように思います。
 C(1)、C(4)のいずれの展開例も、教室での学習と現実社会である地域との関わりを実感することで、中学校社会科の学習が終わっても、生徒が地域を捉える視点や方法をもち続けることを願うものです。そのためには、野外での景観観察や地域調査の経験を通して、生徒がその楽しさや意義を実感することが何よりも重要です。また、景観観察等の意義や方法についての理解の状況や、対象地域について主体的に追究しようとする態度を適切に見取り、認め励ましたり、補充したりするなどして、その実現を図ることも大切です。
 こうした学習活動の実施には、課題としてあげられている時間の確保以外にも、安全な実施の確保、保護者や訪問先等との調整など、いくつかのハードルがあります。しかし、授業内での景観観察や地域調査は、それらのハードルを越えるだけの成果が期待できる活動です。教員の異動も念頭におきつつ、実践の積み重ねを通して、負担が少なく効果的な指導方法が各校において確立されていく必要があります。