学び!とシネマ

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プラド美術館 驚異のコレクション
2020.04.08
学び!とシネマ <Vol.169>
プラド美術館 驚異のコレクション
二井 康雄(ふたい・やすお)

© 2019 – 3D Produzioni and Nexo Digital – All rights reserved

 もう30年ほど前になるが、スペインのマドリードから北西に50kmほどのエル・エスコリアルに10日ほど滞在したことがある。マドリードからはバスか鉄道で約1時間ほど。何度か、プラド美術館に出かけた。さらに前、団体旅行でマドリードとグラナダを訪ねたときに、プラド美術館に行ったが、ゆっくりと見ることは出来なかった。
 このほど、ドキュメンタリー映画「プラド美術館 驚異のコレクション」(東京テアトル配給)を、懐かしさいっぱいの思いで見た。
 圧巻である。主に絵画を通してではあるが、まるでスペインの近代史そのもの。プラド美術館所蔵の絵画には、ティツアーノがあるし、もちろん、ベラスケスや、ゴヤ、エル・グレコもある。
 昨年の11月、プラド美術館は開館200周年だった。これを記念してだろうか、プラド美術館が全面的に協力しての映画化である。
 プラド美術館の現在の館長ミゲル・ファロミールが、愛着のある作品を紹介する。ティントレットの「弟子たちの足を洗うキリスト」だ。また、コレクション部門のアンドレス・ウベダ・デ・ロス・コボスは、お気に入りの作品として、クロード・ロランの風景画を挙げる。ウェイデンの「十字架降下」をフランドル派の最高傑作とするのは、板絵保存官のホセ・デラ・フェンテだ。これには女優のマリナ・サウラも同調する。
© 2019 – 3D Produzioni and Nexo Digital – All rights reserved 建築家のノーマン・フォスターに、ダンサーのオリガ・ペリセットのお気に入りは、ゴヤの「黒い絵」のシリーズだ。
 映画のナレーションを担当し、案内役を務めるのは、俳優のジェレミー・アイアンズ。「プラドは変化と成長を続ける、生きた美術館」と述べる。
 コレクションは、歴代の王、王女たちの心を引いた作品ばかりが選ばれる。それは、ティツィアーノ、ルーベンス、ボッス、ヴァン・ダイク、ベラスケス、ゴヤたちだ。彼らが主に描くのは、ここ400年ほどのスペインの歴史に登場する国王、王女、貴族たちと、周辺にいる市井の人々だ。
 ジェレミー・アイアンズが、スペインのざっとの歴史を紹介する。
 1561年、カール5世の息子のフェリペ2世は、首都をマドリードに定め、2年後、エル・エスコリアルに巨大な修道院を建設する。ここには、美術館、図書館、歴代の王家の墓もある。
 二つの大戦の間に、表現の自由を求めた芸術家たちが、プラド美術館に足を運ぶ。映画監督のルイス・ブニュエル、画家のサルバドール・ダリ、作家のガルシア・マルケスたちだ。ダリは、「プラドが燃えたら何を守るか」との問いに、「空気を守るだろう。ベラスケスの“女官たち”に漂う最高品質の空気を」と答える。
 マネもまた、ルイ13世の国王付画家だったラトゥールに手紙を書く。「ベラスケスの絵を見る喜びをきみとわかちあいたい。ベラスケスは画家の中の画家だ」と。
© 2019 – 3D Produzioni and Nexo Digital – All rights reserved 映画は、プラド美術館の有名な絵画と、そのエピソードを、次々と紹介していく。ベラスケスの「十字架上のキリスト」。ルーベンスの「三美神」。ゴヤの「1808年5月2日」、「1808年5月3日」。さらに、ベラスケスの「織女たち」、「ウルカヌスの鍛冶場」、「ブレダの開城」。フラ・アンジェリコの「受胎告知」。「受胎告知」は、二度にわたる修復の経過も描かれる。
 フェリペ2世がコレクションに加えたというヒエロニムス・ボスの「快楽の園」や、ピーテル・ブリューゲル、ヨアヒム・パティニール、スルバランなどに続いて、女流画家アング・イッソラ、カラッチ、グイド・レーニも紹介される。
 圧巻は、何度も登場するゴヤだ。「裸のマハ」、「十字架のキリスト」、「わら人形の遊び」、「我が子を食らうサトゥルヌス」、「犬」、版画集「ロス・カプリチョス」など。いずれも、ゴヤの人間観察の深さを物語る傑作ばかりだ。個人的に好きなゴヤ作品は「カルロス4世とその家族」だ。ゴヤは、「見たままに描く」と言ったが、この絵の人物たちの表情は、目に見えない内面を鮮やかに描いたと思う。宮廷画家の首席に上り詰めたゴヤが、王室の腐敗を端的に表現したものと思われる。
 1936年、プラド美術館の館長だったピカソは言う。「芸術は日々の生活の埃を魂から洗い流してくれる」。
 サブタイトル通り、プラド美術館のコレクションは、「驚異」だろう。プラド美術館は、かつて三大陸にわたって繁栄したスペイン王国の歴史そのもの。
 脚本、監督は、ヴァレリア・パリシという女性だ。見事な仕事で、これはアート系のドキュメンタリー映画では、必見と思う。

近日公開

『プラド美術館 驚異のコレクション』公式Webサイト

ナビゲーター:ジェレミー・アイアンズ
監督・脚本:ヴァレリア・パリシ
脚本:サビーナ・フェディーリ
企画:ディディ・ニョッキ
2019年/イタリア・スペイン/英語/92分/カラー
原題:THE PRADO MUSEUM. A COLLECTION OF WONDERS
配給・提供:東京テアトル/シンカ

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