学び!と共生社会

学び!と共生社会

共生社会の実現に向けた障害理解教育のありかたを考える
2020.04.27
学び!と共生社会 <Vol.03>
共生社会の実現に向けた障害理解教育のありかたを考える
大内 進(おおうち・すすむ)

 新型コロナウイルス感染の影響で、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会は2021年に延期となりましたが、内閣官房では、「世界中から障害のある人も含めあらゆる人が集い、そして、障害のある選手たちが繰り広げる圧倒的なパフォーマンスを直に目にすることのできるパラリンピック競技大会は、共生社会の実現に向けて社会の在り方を大きく変える絶好の機会である」と捉え、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」を掲げています。オリンピック・パラリンピック競技大会を契機として共生社会の実現に向け「心のバリアフリー」を推進しようとするものです(*1)。「心のバリアフリー」とは、様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うことです。
 これを受けて、文部科学省でも、すでに「交流及び共同学習」の全国的な推進事業によりその普及に取り組んでいたところではありますが、新たに「心のバリアフリー学習推進会議」が設けられ、「交流及び共同学習」の一層の充実が図られることになりました。また、新しい幼稚園教育要領、小学校・中学校学習指導要領及び特別支援学校の教育要領及び学習指導要領においても、交流及び共同学習の更なる充実を図るよう規定されていることについてはこれまでに記してきたところです。
 このように、東京でのオリンピック・パラリンピック競技大会の開催や障害者権利条約の批准を受けてのインクルーシブ教育システムの構築の推進を契機として、学校教育でも「共生社会」の実現に向けた動きが加速されていることは大変意義深いといえます。他方、国内における意識調査において、明確な差別的な振る舞いが行われているときに同調的な行動をする人は少ないものの、高齢者、外国人、障害者に差別的な考えを持っていると答える人が多かったという報告(*2)があることにも気を留めておく必要があるように思います。真の意味での「心のバリアフリー」の実現のためには、「共生社会」実現に向けた活動が表層的なレベルに留まっていては不十分だということです。自分たち自身に関わることとして、深層における理解や共感にまでその取組を高めていく必要があるのではないでしょうか。
 「ユニバーサルデザイン2020行動計画」では、「心のバリアフリー」を体現するためのポイントとして、以下の3点が示されています。

(1)障害のある人への社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという「障害の社会モデル」を理解すること。
(2)障害のある人(及びその家族)への差別(不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供)を行わないよう徹底すること。
(3)自分とは異なる条件を持つ多様な他者とコミュニケーションを取る力を養い、すべての人が抱える困難や痛みを想像し共感する力を培うこと。

 これらのポイントを表層的なレベルに留めるのではなく深層から理解させるためには、障害理解教育の質的な充実が目指されなければならないでしょう。交流及び共同学習は、障害理解教育の重要な柱の一つですが、それは、障害理解教育の一部です。すでに記したところですが、小学校・中学校の新学習指導要領においては、交流及び共同学習の一層の充実のみならず、障害のある児童等に関する配慮が教科ごとに記述され、通常の学級における教科指導においても、個に応じて指導内容や方法を工夫することなど、これまでよりも一歩踏み込んだ規定もなされています。学校におけるすべての活動において障害理解教育の視点が大事だということです。そのためには、現実対応だけに留まるのではなく、子どもの発達の様相を考慮しつつ長期的な展望に立った構造的な障害理解教育の在り方が検討され、それが日々の実践の中に組み込まれていくことが期待されます。

*1:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tokyo2020_suishin_honbu/ud2020kkkaigi/pdf/2020_keikaku.pdf
*2:三重野卓(2018) 共生システムの論理と分析視角―「生活の質」およびガバナンスとの関連で― 応用社会学研究,60,135-146