学び!と共生社会
2026.06.29 <Vol.77>
中教審特別支援教育ワーキンググループ取りまとめ案における「交流及び共同学習」
1.はじめに
本連載では、たびたび「交流及び共同学習」について取り上げてきました。直近では2026.02.27公開の <Vol.73> で「『交流及び共同学習』の現況を探る」と題して、交流及び共同学習の誕生とその後の取り組みの経緯について紹介しました。
日本型インクルーシブ教育システムの構築においては、障害の有無にかかわらず、すべての子どもが同じ場で共に学ぶことを目指しつつ、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった「連続性のある多様な学びの場」を用意し、個別の教育的ニーズに柔軟に対応することになっています。
前回の記事では、新学習指導要領の内容を検討している中央教育審議会特別支援教育ワーキンググループ(以下WGと記す)での討議から日本型インクルーシブ教育システムの構築のための重要な機能の一つである「センター的機能」の検討内容について取り上げました。
日本型インクルーシブ教育システムの構築のためには、障害のある児童・生徒と障害のない児童・生徒が触れ合い、共に活動する「交流及び共同学習」の役割も大変重要になってきます。
6月23日の第10回特別支援教育WGにおいて、これまでの討議の取りまとめ案が示されました。そこで今回は、このWGの取りまとめ案に示された「交流及び共同学習」についての現状認識と今後の方向性について整理しておくことにしました。<Vol.73> にて「交流及び共同学習」についてのこれまでの経緯と現況についてご確認いただいたうえで本記事を読まれることをお勧めします。
2.2017年(平成29年)改訂現行の学習指導要領での扱い
まずは、2017年(平成29年)に告示された現行の学習指導要領における「交流及び共同学習」の記載について確認しておきます。小学校および中学校学習指導要領総則「第5 学校運営上の留意事項」の2のイには、交流及び共同学習の推進について表1のように明示されています(*1)。
表1 交流及び共同学習に係る現行小学校及び中学校学習指導要領(平成29年3月告示)の規定出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/10/30/1397004-3.pdf)
また、特別支援学校学習指導要領では、交流及び共同学習について第1章総則第6節に表2のように規定されています。(*2)
表2 交流及び共同学習に係る現行特別支援学校学習指導要領(平成29年3月告示)の規定出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/10/30/1397004-3.pdf)
3.WGの現状認識
6月23日のWGで示された取りまとめ案では、現行の学習指導要領に示されている「交流及び共同学習」への取り組みの状況について、次のように整理されています(図1)。
図1 WG取りまとめ案に示されている「交流及び共同学習」に関する記述(*3)出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/content/20260623-mxt_tokubetu02-000050663_003.pdf)
この現状認識は、「特別支援学校と幼・小・中・高等学校間の『交流及び共同学習』」と「幼・小・中・高等学校における『交流及び共同学習』」に分けて、以下のように記述されています。
(1)特別支援学校と幼・小・中・高等学校間の「交流及び共同学習」について
●学校段階が上がるにつれて、学校間交流に参加予定がない子供の割合が高くなる状況がある
●近隣の学校と、交流及び共同学習の取組に向けた学校間の連携体制を構築している特別支援学校も一部にとどまっている
●特別支援学校において、年間を通して計画的・継続的に交流及び共同学習に取り組む学校は一部にとどまっている
この記述からは、特別支援学校と通常の学校間での交流及び共同学習への取り組みは、学校段階が上がると鈍化していることと、交流及び共同学習に積極的に取り組んでいる特別支援学校は限定的であることが課題として認識されていることがわかります。
(2)「幼・小・中・高等学校における交流及び共同学習」
●特別支援学級に在籍しながら、交流及び共同学習と位置付けて、教科等の学習の大半の時間を交流先の通常の学級で学んでいる子供たちが数多く在籍する学校も見受けられる。
●この場合において、特別支援学級の子供たちが、適切な配慮や手立てがなされないまま指導を受けている状況も見受けられる
ここには、特別支援学級に籍を置く児童・生徒が、通常の学級で大半の時間を過ごしていることを問題視した2022年(令和4年)4月発出の「通知」(*4) (*5)が反映されているといえます。
この「通知」においては、交流及び共同学習自体が障害のある児童・生徒と障害のない児童・生徒が相互の理解を深めるために大切な活動であるものの、特別支援学級在籍の児童・生徒が大半の時間を通常学級で学ぶという形態については、障害に応じた指導がなされていないという状態は看過できないということで発出されたものです。この「通知」では、交流に重点を置いて障害に応じた指導がなされていない交流及び共同学習の実施は適切ではなく、障害があると認定された児童・生徒に対しては、原則として週の授業時数の半分以上を目安として特別支援学級で授業を行うよう求めています。
4.WGの取りまとめ案に示された改善の方向性
こうした現状・課題の認識に基づいて、WGでは、次期学習指導要領の改訂に向けた改善の方向性として以下の諸点を示しています(*3)。
(1)「特別支援学校と幼・小・中・高等学校間の交流及び共同学習」について
●学習指導のための連絡会や合同研修会の開催等を通じた学校間・教師間の連携体制の構築を図った上で、学校同士・児童生徒間の交流を積み重ね、協働的な学びにつなげることが必要
●他方、学校同士での連携体制の構築には限界もあり、都道府県教委等が主導して、市区町村教委と連携しながら、連携・交流体制の構築を各地域で図ることを期待
●特別支援学校と小・中・高等学校を一体的に運営する学校モデルの構築など計画的・継続的な交流及び共同学習の実現に向けて、国・都道府県等が先導的な施策に取り組むことを期待
●発展的な交流及び共同学習に向けては、双方の学校間の丁寧な調整に取り組むことが必要
ここからは、引き続き学校間での努力が必要であること、しかしながら学校間での対応には限界があることから教育委員会の積極的な関与も期待されること、計画的・継続的に充実を図っていくためには国や都道府県の先導的な施策も期待されることが示されています。
(2)「幼・小・中・高等学校における交流及び共同学習」について
●以下の趣旨について、改めて国において示すことが必要
- 通常の学級に障害のある児童生徒等が数多く在籍しており、相互に正しい理解と認識を深めることが期待されること
- 特別支援学級の子供たちと通常の学級の子供たちが交流及び共同学習を通じた協働的な学びを進めることで、相互理解や認識が深まることが期待されること
- 特別支援学級の子供たちが必要な配慮を受けることなく多くの時間を通常の学級で学んでいる場合には、学びの場の変更を検討すべきであること
●交流及び共同学習は、学校行事や学級活動をはじめとする特別活動においても、一層重視することが必要
小中高等学校における「交流及び共同学習」の実施については、改めて、原則として週の授業時数の半分以上を目安として特別支援学級で授業を行うよう求めた令和4年4月の「通知」が色濃く反映されています。次期学習指導要領では、「交流及び共同学習」のより厳格な運用を図っていこうとする姿勢が読み取れます。他方、日本型インクルーシブ教育の構築に向けた交流及び共同学習の更なる推進のための方策については、抽象的な記述にとどまっている感があります。
5.まとめ
「交流及び共同学習」という用語は、国連の障害者権利条約の批准を契機に学校教育に導入されたものと受け止めています。「特殊教育」の時代、つまり、2007年(平成19年)以前は、「交流学習」と「共同学習」はそれぞれ別の概念の用語として用いられていました。
「交流学習」は、特殊教育諸学校(盲・聾・養護学校)や小・中学校の特殊学級に在籍する児童・生徒が、地域の小・中学校の児童・生徒や地域の人々と活動を共にする活動という意味合いで用いられていました。「共同学習」は、主として学習活動の分野で特定の教科や領域の学習を、同じ目標の達成に向けて、障害のある児童・生徒が障害のない児童・生徒と一緒に活動する学習と認識されていました。
この異なった概念の用語をドッキングして「交流及び共同学習」という名称に統合・変更した背景には、特殊教育時代の「交流学習」や「共同学習」を全否定するのではなく、これらを日本型インクルーシブ教育システムの枠組みに融合させようとする意図があると思われます。およそ10年をスパンとする学習指導要領の改訂において、日本型インクルーシブ教育システムの推進という観点から「交流及び共同学習」への対応がどのように変化していくか、大変興味深いところです。
急速な児童・生徒の多様化、絶対的な在籍者の減少の中で特別支援教育対象者の割合の増加、「個別最適な学び」の追究と画一的なシステムとの摩擦などが課題となっている流れの中で、日本型インクルーシブ教育システムの構築を図っていくことは容易なことではなく、「交流及び共同学習」の果たす役割は小さくないように思われます。そうした中で今回のWGの取りまとめにおける記述からは、「交流及び共同学習」については、現行学習指導要領のマイナーチェンジに留まるものと推察されますが、具体的に次期学習指導要領にどのように反映されていくか、今後の推移をしっかり追っていきたいと思います。
*1:小学校学習指導要領(平成29年告示)
https://www.mext.go.jp/content/20230120-mxt_kyoiku02-100002604_01.pdf
*2:文部科学省 第1回心のバリアフリー学習推進会議(2017)「資料3:交流及び共同学習・障害のある人との交流について」
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/10/30/1397004-3.pdf
*3:中央教育審議会 特別支援教育ワーキンググループ(第10回)(2026)「【資料1】特別支援教育WG取りまとめ(案)」
https://www.mext.go.jp/content/20260623-mxt_tokubetu02-000050663_003.pdf
*4:文部科学省(2013)「障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について(通知)」<平成25年10月4日付け 文部科学省初等中等教育局長通知>
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1340331.htm
*5:文部科学省(2022)「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について(通知)Q&A」
https://www.mext.go.jp/content/20221102-mxt_tokubetu02-100002908_1.pdf