学び!と共生社会
2026.10.29 <Vol.81>
特別支援教育対象者の増大と基盤整備
1.はじめに
義務教育段階において少子化傾向が進む中にあって、特別支援教育体制に移行して以降、特別支援教育の対象となる児童生徒の実数が年々増加し続けています。文部科学省の資料によると、この20年間で特別支援教育を受けている児童生徒数は、全体で約3.9倍増になっています(図1)。特別支援学校だけ見ても令和8年度(2026年度)の在学者数は約16万3,000人と増加傾向に歯止めがかかっていません。
共生社会の実現という観点からは、できる限り障害のある子どもとない子どもが共に学ぶ機会を設けていくことが望ましく、文部科学省が示しているインクルーシブ教育システムの構築の考え方の中でもそのことに言及していますが、現実には特別支援学級や特別支援学校の選択が増え続けているということになります。文部科学省が示している多様な場の連続性を重視するという枠組みにおいては、対象者の人数が増えること自体に問題はないのですが、基本的に「分離教育」の枠組みを温存したインクルーシブ教育システムの構築を目指す状況下においては、この増大傾向はマクロ的に見ると「インクルーシブ教育の推進」に大きな影響を及ぼしていくことが予想されます。
そこで、今回は、今後の動向を探るための手がかりとして、特別支援教育対象児童生徒数の増大と教員数や一人当たりの学校教育費の推移について平成17年度(2005年度)、平成27年度(2015年度)、令和7年度(2025年度)のデータを基に状況を確認しておきたいと思います。
2.特別支援教育を受けている児童生徒数増大についての再確認
文部科学省等による特別支援教育に関する資料(*1、*2、*3、*4)をもとに、平成17年度、平成27年度、令和7年度の10年おきの特別支援教育対象児童生徒数の変化を整理すると表1のようになります。
表1 義務教育段階における全児童生徒数及び特別支援学校等の児童生徒数の増加の状況(筆者作成)
平成17年度を基準にして、平成27、令和7年度の児童生徒数の変化を示したのが図1になります。義務教育段階の全児童生徒数については、平成17年度と平成27年度で約7.3%減、平成27年と令和7年を比べると約10%減で、20年間で約17%の減となっています。
対して特別支援教育対象の児童生徒数は増加の一途をたどっています。特別支援教育対象者全体で見ると、平成17年から令和7年の20年間で8.1%増になっています。小学校・中学校の特別支援学級在籍者数は20年間で3.9倍に、小中学校で通級による指導を受けている児童生徒数は5.9倍と大幅に増えています。
平成19年(2007年)4月1日の学校教育法等の改正により特別支援教育体制が本格実施されてから、小学校・中学校における特別支援教育を受けている児童生徒の増加が著しいことがわかります。障害のある子どもと障害のない子どもが可能な限り共に学ぶこと目指すインクルーシブ教育システムの構築の方向と合致しているように見えますが、義務教育段階全体の児童生徒数が減じているにもかかわらず、特別支援学校や特別支援学級の児童生徒数が増大している点については丁寧な分析が必要です。本稿の主旨から外れるためこれ以上深入りしませんが、この増大傾向は、特別支援教育の仕組みが理解されたというだけでなく、学校、社会、家庭が抱えているさまざまな要因も影響しているように思われます。
3.教員数の推移
20年間で小学校・中学校に在籍する特別支援教育対象の児童生徒数が増大していることについては、これまでに本連載でも紹介してきましたし、ニュースなどでもたびたび報じられているのですが、通常の学校の体制はどのように変化しているのでしょうか。次に小学校、中学校等の教員数と特別支援教育に携わる教員数の変化からその動向を探ってみたいと思います。
(1)小学校、中学校、義務教育諸学校における教員数
まず、小学校、中学校等の教員数の変化を見てみます。表2は、文部科学省「学校基本調査」を基に、平成17年度、平成27年度、令和7年度の教員数を整理したものです(*5)。
これを見ると平成17年度を基準にした場合、平成27年度は1.08倍、令和7年度は1.02倍となっており、小学校、中学校の教員数は微増の状態にあるといえます。
表2 小学校、中学校、義務教育諸学校の教員数の変化
(2)特別支援学校、特別支援学級、通級による指導担当の教員数
同じく、文部科学省等の資料を基に特別支援学校、特別支援学級、通級による指導担当の教員数を整理したものが表3になります。これによると、平成17年度を基準とした場合の教員数について、特別支援学校では、平成27年度は1.27倍、令和7年度は1.41倍になっています。特別支援学級では、それぞれ1.63倍、2.42倍、通級による指導の担当者数については、平成17年度のデータが不明のため、平成27年度と令和7年度の比較になりますが、10年間で2.67倍も増えています。
小学校、中学校等の教員数の変化が緩やかな増加なのに対して、特別支援教育対象者数の増加も相まって特別支援学校、特別支援学級、通級による指導担当の教員数は大幅に増大していることが認められます。こうした傾向については、インクルーシブ教育の推進との関わりにおいてどのように影響していくのか注意深く見守っていく必要があります。
なお、教員の数値は、原則として各年度5月1日時点の「本務教員数」に基づいています。実際の学校現場には非常勤やパートタイムでの指導者も配置されているため、実態を忠実に反映した数値とはなっていません。その点を勘案する必要もあります。
表3 特別支援学校、特別支援学級、通級による指導担当の教員数の変化
4.学校予算の推移
次に、学校教育予算という観点から特別支援教育対象の児童生徒数の増大との関連を見てみたいと思います。
(1)文部科学省一般会計予算と義務教育費国庫負担金の額
表4は、平成17年度、平成27年度、令和7年度の確定当初の文部科学省一般会計予算と義務教育費国庫負担金の額を示したものです(*13、*14、*15)。
平成17年度を基準にすると、平成27年度、令和7年度ともに予算額としては下回っていることがわかります。
表4 各年度の確定当初予算データ
(2)特別支援教育に関する学校予算
次に特別支援教育に関する学校予算について、平成17年度、平成27年度、令和7年度のデータを見てみたいと思います。特別支援教育に関する予算としてはさまざまな項目があるのですが、ここでは、「特別支援教育の充実(推進)に関わる主要実施事業費」と「特別支援教育就学奨励費(国庫負担等)」の指標で、国の予算推移を捉えることにします(*16、*17、*18、*19)。
各年度の確定予算案(および概算要求)の主要数値は以下の通りです。
表5 特別支援教育関係予算の比較
※令和7年度の「特別支援教育の充実」にかかる事業費は、文部科学省の予算(案)主要事項において50.8億円(当初概算要求ベースでは55億円)が計上されています。
平成17年度を基準にすると、特別支援教育の推進・充実事業(関連事業費)も特別支援教育就学奨励費負担等も大幅に増額になっていることがわかります。平成17年度は、「特別支援教育体制推進事業」がスタートした最初期の段階で、「特別支援教育」の枠組みとしてはまだ制度の黎明期に当たります。平成27年度は、インクルーシブ教育システム構築事業(約11.6億円)などが本格化し、予算規模が大きく拡大した時期になります。令和7年度は、医療的ケア看護職員の配置やICTを活用した指導の充実に重点が置かれ、大幅に増額になっています。特別支援教育就学奨励費負担等については、対象児童生徒の増大が影響しているといえます。
また、学校教育費に関しては、省庁事業予算とは別に、文科省予算ではなく地方財政措置(総務省経由の地方交付税)として処理されているものもあります。例えば、地方自治体が学校に配置する「特別支援教育支援員」の人件費などは、地方財政措置となっています。そのため、文部科学省の予算書だけでは把握できないことに留意する必要がありますが、文部科学省全体の予算額の変化に比べると、この20年で特別支援教育関連の予算額が大きく膨らんでいることがわかります。
(3)在学者一人当たりの学校教育費
在学者・国民一人当たり地方教育費については、政府統計の総合窓口(e-Stat)で確認することができます(*20)。平成17年度、平成27年度、令和7年度の公立学校における在学者一人当たりの学校教育費(年額)は以下のとおりです。なお、令和7年度調査(令和6会計年度決算)は令和8年(2026年)9月に中間報告が公表されたところであり(*21)、詳細なデータが把握できていません。そのため表に示した数値は、最新データをもとに児童生徒数を除して算出したものを参考までに示したものです。
表6 学校種別の在学者一人当たり学校教育費の推移(全国平均)
小学校・中学校については、増加の傾向が認められます。平成17年度は、児童生徒数の減少が始まっていたものの、まだ特別支援学校(当時の盲・聾・養護学校)の一人当たりの経費が870万円を超えていました。
平成27年度は、小学校・中学校ともに平成17年度に比べて一人当たりの教育費が微増しています。他方、特別支援学校では140万円ほどの減額となっています。これは、特別支援学校在学者数が大幅に増加したことの影響を受けて、一人当たりの額が下がったものと推察されます。
令和7年度については、詳細のデータはまだ公表されていませんが、最近中間報告が発表されましたので、そのデータを基に算出しました。近年の物価高騰、校舎の建て替え、GIGAスクール構想に関連したICTの環境整備、維持管理、光熱費の高騰などが影響しているものと推察されます。他方、特別支援学校は約600万円となっていて、10年前と比べると100万円以上の減額になっています。これは、依然として児童生徒数が増加傾向にあることが影響していると思われますが、近年の物価高騰などの影響を考慮するとこの額はより目減りしたものとなっていると思われます。
また、特別支援学校の学校教育費について自治体別の統計(*22)を見ると、最も多い自治体と最も少ない自治体の振れ幅が大きくなっています。こうした数値は、統計の取り方によって変わってくるため、短絡的に捉えることは避けるべきですが、自治体間の格差も進んでいることが推察されます。
5.まとめ
特別支援教育体制に移行して以降、少子化傾向が進んでいるにもかかわらず特別支援教育の対象となる児童生徒の実数が年々増加し続けていることを確認した上で、教育予算や教員配置の動向について詳らかにしてきました。
特別支援教育関連予算については、特別支援教育推進の動きに、小学校、中学校における特別支援教育対象者の増大が相まって、増えているということを確認しました。予算が増えるということは、特別支援教育の振興という意味では望ましいことであるのですが、インクルーシブ教育の推進にその効果がどれだけ反映しているかについては評価が困難なところもあると感じました。
また、特別支援教育対象者の増大に伴って教員数も増えていますが、その増加傾向は児童生徒の増加傾向に比べて緩やかです。こうした傾向については、いわゆる「定数法のしばり(義務標準法などに基づく算定基準)」が厳格に規定されていることも影響しているかと思いますが、学校現場サイドでとらえると、教員一人当たりの児童生徒数が増えているということになり、より多忙感が増していることが推察されます。教員希望者の減少の中で厳しい状況にあると受け止めました。
また、特別支援教育関連予算が膨らんでいるものの、特別支援教育対象者一人当たりの教育費の額は減じてきていることも確認できました。対象児童生徒数が増え続けても、それに見合うように予算や教員が増大するものではないということをデータは示しています。
平成17年、平成27年、令和7年のデータの推移から読み取れる将来像は必ずしも明るい面ばかりではありませんでしたが、特別支援教育の質の向上、インクルーシブ教育システムの構築の推進を図っていくためには、主観的な思い込みでなく確かなデータを参考にしてグランドデザインを示していくことが求められているといえそうです。
*1:政府統計の総合窓口(e-Stat)「学校基本調査 令和7年度 初等中等教育機関集計」 の小学校、中学校等の「児童生徒数」から算出
https://www.e-stat.go.jp/stat-search?page=1&layout=dataset&toukei=00400001&file_type=0&metadata=1&data=1
*2:文部科学省(2026)「特別支援教育の充実について」、全国特別支援学級・通級指導教室設置学校長会第63回全国研究協議会愛媛大会
https://zentokukyo.jp/wps/wp-content/uploads/2026/08/r8_kenkyu_ehime_gyousei_3.pdf
*3:平成17年度、平成27年度は、以下の資料を参照。
文部科学省(2026)「令和6年度特別支援教育資料」
https://www.mext.go.jp/content/20260127-mxt_tokubetu02-000046924-2r.pdf
令和7年度は、e-statの令和7年度学校基本調査(初等中等教育機関)のデータとして学校種別(小学校、中学校、義務教育学校)ごとに細かく分かれて登録されているフォルダ内のそれぞれの「全国計」のシートから数値を抽出。
*4:平成17年度、平成27年度は、以下の資料を参照。
文部科学省(2022)「通級による指導実施状況調査結果(概要)」
https://www.mext.go.jp/content/20220905-mxt_tokubetu01-000023938-12.pdf
令和6年度は、未公表。
*5:国立教育政策研究所(2026)「データで見る日本の教育「学校基本調査」」
https://www.nier.go.jp/edsc/edp/data/kihon/index.html?utm_source=chatgpt.com#03
*6:文部科学省:平成27年文部科学白書参考資料
https://www.aiina.jp/uploaded/attachment/2549.pdf
*7:文部科学省(2005)「特別支援教育資料(平成17年度)」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/003.htm
*8:文部科学省(2015)「特別支援教育資料(平成27年度)」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1373341.htm
*9:文部科学省(2017)「平成27年度通級による指導実施状況調査結果について【訂正版】」
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/04/07/1383600_02.pdf
*10:文部科学省(2026)「令和7年度学校基本統計(学校基本調査の結果)確定値について公表します」
https://www.mext.go.jp/content/20260327-mxt_chousa01-000048552_10.pdf
*11:政府統計の総合窓口(e-Stat)「学校基本調査 令和7年度」
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00400001&tstat=000001011528&cycle=0&tclass1=000001236922&tclass2=000001236962&tclass3=000001236963&tclass4=000001236966&tclass5val=0
「初等中等教育機関集計」の小学校、中学校学校等の「職名別教員数」から算出
*12:公式データは未発表。令和6〜7年度の小中学校通級利用者数(国公私立計・約22.7万〜23万人規模)から定数措置の規模を考慮して推測した数値
*13:石原一彦(2005)「平成17年度文部科学省予算について」、『ファイナンス』2005.2、pp.78-87
https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F1006957&contentNo=1
*14:文部科学省(2015)「平成27年度文部科学関係予算(案)のポイント」
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2015/01/14/1354480_1.pdf
*15:文部科学省(2025)「令和7年度 予算のポイント」
https://www.mext.go.jp/content/20250305-ope_dev03-000037774-1.pdf
*16:文部科学省(2005)「平成18年度特別支援教育関係予算の概要」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/003/029.htm
*17:文部科学省(2015)「特別支援教育 平成27年度実施事業」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main/006/h27/1372102.htm
*18:文部科学省(2025)「特別支援教育 令和7年度実施事業」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main/006/r07/1422837_00004.htm
*19:文部科学省(2025)「令和7年度 予算(案)主要事項」
https://www.mext.go.jp/content/20250116-ope_dev03-000039564_8.pdf
*20:政府統計の総合窓口(e-Stat)「在学者・国民一人当たり地方教育費の推移」、「地方教育費調査年次統計 表番号11」
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003363867
*21:文部科学省(2026)「令和7年度地方教育費調査(令和6会計年度)の中間報告について公表します」
https://www.mext.go.jp/content/20260930-mxt_chousa01-000052291_1.pdf
*22:GTC統計「在学者1人当たり学校教育費(特別支援学校)の日本全国ランキング(都道府県別)」
https://graphtochart.com/japan/world-school-education-expenditure-per-student-schools-for-special-needs-edu173772.php
