学び!と公民
2026.07.21 <Vol.06>
主権者教育について考える(2) 当事者性だけではなく、議論のジャッジを入れる必要性
主権者教育は、学校教育全体で担うものとされており、社会科に限らず、特別活動、総合的な探究の時間等でも、実施されてきている「広領域」な教育である。以前、「学び!と公民」において、当事者性を話題に出した。主権者教育で扱うテーマが、生徒の生活実態から「遠い」と表面的な議論に終始し、理想論、道徳論で語られる傾向が出てくる。「夫婦別氏の是非」を議論したら、「家族が大事だから、夫婦別氏に反対」といった意見に終始していた生徒がいた。そこでいう「家族」とは何か、「大事」って何のことを言っているのか、掘り下げていく必要がある。また、子どもたちから「遠い」問題だから、それをなるべく児童・生徒に「近づけよう」と、当事者の語りを前面に出すと、社会経験の乏しい児童・生徒は当事者の語りを内面化し、それを是とする場合が多い。例えば、筆者が勤務する福井県内にある小学校や、中・高校の公開授業等では、「北陸新幹線延線の是非」がそのテーマに掲げられる場合があり、その授業で、「小浜ルート」に賛成か反対か、といった議論をする場合、環境問題に懸念をもつ団体と、経済効果を重視する団体を登場させて、賛否のバランスを採ろうとした場合、児童・生徒は、それらの当事者の主張(議論)の間をとるケース(環境も経済も大事)も出てくる。当事者性はテーマを検討するうえで、とても大切な視点で、先回の「学び!と公民」でも論じたが、データや根拠だけではなく、当事者の声も授業には必要だ。他方で、当事者等の議論を第三者的にバランスよく整理できる人材もまた必要になる。
筆者はこれまで、弁護士を社会科授業に導入する意義について研究を進めてきた。社会科の授業づくりや授業場面に弁護士が介入することで、論点や議論が整理されて生徒の学びが深まる授業になるケースを多く見てきた。
小・中・高等学校の社会科(地歴科、公民科)の普段の実践だと、弁護士を導入することは難しいかもしれない。模擬裁判だと、検察官や弁護士を導入しやすいと思われがちかもしれない。むしろ、模擬裁判は、既に多くの教材があり、かつ、模擬裁判での議論の論点も明確に示されており、一人の教師で授業を進めることはそう難しくない。他方で、「生きた問題」である論争問題を授業に取り入れる場合は、その論点や議論をうまく整理する、ファシリテーターのように、うまく意見を引き出す、そういった役割に長けている弁護士を授業に導入していけば、児童・生徒の満足度も上がり、授業が成功する場合がある。
これまで筆者が取り組んだ事例だと、「女性専用車両の是非」が好例だ。「女性専用車両」の存在は、「男性差別」だとする意見が新聞に掲載されたことをきっかけに、このテーマで生徒どうし、議論をしようと考えた高校教師が、弁護士を授業場面に導入した。新聞記事を元に議論するのではなく、生徒は、女性専用車両がつくられている目的から議論を進めていた。生徒の議論は、その目的(痴漢防止)から考えられていたが、効率性(仮に10両の電車のうち、1両だけが女性専用なのか、5両が女性専用なのか)といった観点で考えると、より議論が深まることを、弁護士が発言し、クラスの議論を整理した。そういった瞬時の判断は、高校教師だけだとなかなか難しい。また、法的な判断はどうなのか、といった観点での整理を自信をもって語ることができる教師がどれだけいるだろうか。教師が一人で担うべきところと「できないところ」をうまく整理することが子どもたちの教育をよりよくしていく。
「主体的・対話的で深い学び」が重視されている中、「深い学び」を実現するためには、より専門性が高い外部人材の導入が求められる。この間、文部科学省は、「開かれた教育課程」を重視している。社会科授業の高度化に外部人材の活用を積極的に行っていきたい。