1.学校教育から離れて
図1 シンポジウムで(奥から2番目)三浦:本多さんは社会科学系の学部を出て市役所に就職していますが、もともと教師を目指していた本多さんがどうして進路を変えたのですか。
本多:小さいときから教師に親しみを感じ、憧れを抱いていました。けれども、中学校から高校にかけてプロジェクトを通して地域活動をしていたら、将来も地域のことをやっていきたいと考えるようになりました。地域の中で困っている人のために何かできないか、学校の外でやりたいと思うようになりました。
三浦:学校の教師でもできないことではないと思いますが。
本多:確かに一部の先生は学校の外でもプロジェクト等の活動をやってくれましたが、多くの先生が同じようなことをするのは難しいと思います。私は特に高校の時は、まだ探究活動が始まる前だったので、私が学校の外の活動に参加していることを否定的に捉えられていました。やっぱり、先生は教育の中心は学校にあると思っていて、そこから考えが変わることはないと感じました。
私は、実は自分が学校に向いていないと思っています。みんなと足並みを揃えることが苦手で、かといってみんなと別なことをやって目立つのも苦手です。みんなの後に教室に入ってみんなに見られるのが嫌なので、いつも誰よりも先に教室に入っていました。自分は孤立しやすいというか、集団が苦手なんだと思います。
三浦:意外ですね。集団を引っ張っているように感じることが多かったですが。大学で社会教育の研究を始めたのはどうしてですか。
2.学校教育と社会教育
図2 台湾の高校で記念品の贈呈本多:大学で学ぶ中で、学校教育ではなく、社会の中でまちづくりや若者の居場所づくりのようなことを考えてみたいと思うようになり、それが社会教育ということになります。当時の学校から見れば「はみ出しもの」だった私たちの活動が、社会教育の中でちゃんと市民権を持っていたことに救われたような思いでした。私としては、高校時代のプロジェクトのように社会教育と学校教育の接続のようなことをやりたかったのですが、社会教育の概念を十分に理解してからでないと学校教育の延長になってしまうと言われ、そこまではできませんでした。
三浦:社会教育は社会教育で独自の領域があり、学校教育は学校教育で独自の領域はあるのですが、そもそも教育とは何かという大きな哲学というか考え方で、いろいろな教育に横串を通しておかないと、ますますバラバラになってしまうのでは、とは思いますが。福島市高校生フェスティバルは社会教育であることを意識してやっていましたが、学校現場とつなげないと、そもそもプロジェクトを進めることはできません。
図3 全国の高校生と意見交換本多:学校は教育の最後に先生が評価しますが、高校生フェスティバルなどはほぼ自己評価でルーブリックを使って到達度を見ます。社会教育も個々の満足度で測るので、とても似ていると思いました。社会教育では住民同士で話し合うことの大切さや市民権の意義、生きがいを形成することなどを学びました。
三浦:教育を大別すると「定形教育」と「不定形教育」があり、前者は学校教育が主で、メンバーが固定していて教育課程がありその到達度で評価します。後者は社会教育が該当し、メンバーはいつも入れ替わり固定したカリキュラムはなく学校のような評価のしかたはしません。私の恩師は生涯、学校教育を研究してきた方ですが、震災後に会ったときに「今は社会教育の方が可能性がある」と言っていたことを覚えています。
3.自分たちの周りにはいいものがたくさんある
図4 東京でワークショップを運営三浦:本多さんはこれからどんなことをやりたいと思っているのですか。
本多:今の仕事も楽しいですが、視野が狭くならないうちに社会教育の仕事ができたらいいなと思っています。住民の方と話して、地域にはどんな方がいるのか、何を望んでいるのか知りたいと思います。先日、子ども・若者と行政が話し合う機会があり、私はファシリテーターをやらせてもらいました。このような、行政が若い人たちの言葉をすくい取ることはとても大切だと思っています。
三浦:ただ、満遍なく聞くということではなく、本当に大切な言葉に気づくことができるかどうかが勝負所だと思います。大人は若者たちの言葉を聞いて、それに反応する責任(responsibility) があります。子どもたちの言葉を飾りに使ってはいけません。
本多さんは社会のあり方について考えることはありますか?
本多:このままではいけない、と思うことがたくさんあります。本来自分で、あるいは自分たちでやらなければならないところを、行政に過剰に頼る傾向、一般的なサービスを過剰に求めている風潮が気になっています。どこか他人任せで、自分で何とかしようとしないまま、自分で学んだり解決したりする姿勢がないと、VUCA社会に負けて(?)しまうのではないかと思います。地域の結びつきが弱くなると、地域でやっていたことが消費活動に置き換わっていきます。地域の問題を他人事ではなく自分事として考え、行動することが大切だと思います。
三浦:若者に対して何かありますか。
図5 高校生フェスティバルで熟議
本多:先日高校生と話していたときに、自分は結婚したいし、子どもも持ちたいと思っている、しかし子どもを育てる自信がない、子どもが不登校になったり、いじめられたりしたら怖い、という人がいました。そういう問題をどのように解決しようとしているのか聞くと、インターネットで調べる、というのでビックリしました。自分の子どもをインターネットの情報で育てようとする、「子育てチャート」のようなものがあればいい、とも言いました。私とそんなに世代の違いはないのですが、地域の中で子育ての経験のある方とか、自分の母とか頼れるものがたくさんあるはずで、地域の中にはもっと、いいものがたくさんあることに気づいてもらいたいです。都会的な豊かさではない、地域の人や自然などのもっと身近な豊かさにも気がついて欲しいし、それを伝えられるような人になりたいなとも思います。
三浦:高校生フェスティバルをやったときに、アンケートで地域のことを考えている高校生が予想以上にたくさんいることに驚きました。でもそれは、潜在的にいるというよりも、アンケートを取ってその結果を活動につなげることで意識化され形になったのだと思います。活動を通して意識を引き出すことが大切だと思います。