学び!とPBL

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PBLで得た力①――リーダー像の転換
2024.08.20
学び!とPBL <Vol.77>
PBLで得た力①――リーダー像の転換
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

 今回から数回に分けて、実際のPBLで身につけた力は何だったのかを、リアルタイムの生徒ではなく、数年後大人として現在活躍している人たちへのインタビューを通して、考えていきたいと思います。
 今回の本多美久さんは、今年福島大学を卒業し福島市役所で働く社会人です。中学2年から9年間、福島市や国際的なプロジェクトで活躍してくれました。

1.9年間のプロジェクトの遍歴

図1 プロジェクトの遍歴三浦:本多さんとのつきあいはOECD東北スクールの翌年からということになりますが、これまでどんなプロジェクトに関わってきましたか。
本多:中学2年生のときに「地方創生イノベーションスクール2030」(本連載 Vol.15〜30 参照)のプロジェクトに参加し、福島市チームとしての取り組みを始めました。自分たちで作った福島市の観光プランを内閣府の「地方創生☆政策アイディアコンテスト」に応募したところ、高校生以下の部で大臣賞を取り、これがその後の大きな励みになりました(本連載 Vol.17 参照)。そのまま「生徒国際イノベーションフォーラム2017」に参加(本連載 Vol.28〜30 参照)し、高校生になったときに「福島市を創る高校生ネットワーク(FCN)」(本連載 Vol.38〜44 参照)を作り、高校生フェスティバルを毎年開催し、台湾とも交流を続けました(本連載 Vol.31〜38 参照)。大学生になってからは、高校生プロジェクトのサポートを続けてきました。OECDのプロジェクトにもずっと関わってきました。
図2 生徒国際イノベーションフォーラム2017 三浦:たくさんのプロジェクトに関わってきましたが、自分の中で一貫したものはあったのですか。
本多:中学生の頃は先生に言われるがまま、という感じでした。台湾との交流の始まりのタイミングはちょうど高校受験と重なったために休止しており、エンジンがかかったのは後からのことです。「福島市高校生フェスティバル」のときに、本当に自分たちの考えで、自分たちの力でやれるんだと、その後につながる一貫した軸ができたような気がします。
図3 福島市高校生フェスティバル 三浦:あのときは、大人がやってもらいたいことと、生徒がやりたいことがぴったり重なったと思いました。
本多:高校の部活動は競争の世界で、強いところしかステージに立つことができません。高校生の本音は、勝つことだけでなく、自分たちのキラキラしているところをみんなに見てもらいたいんです。この高校生フェスティバルなら点数はないし、自分たちで決めて、やりたいことをやりたいようにできるので、多くの友達に喜んでもらうことができました。高校の生徒会を福島市サイズに拡張したようなものでした。
図4 高校生フェスティバルの準備 三浦:それらは今の自分にどのようにプラスになっているのですか。
本多:大学では防災サークルを作って活動していました。目的を決めて、何をやるか考えて、これをやるにはこんな人が必要、じゃあ誰がその人に声をかけるか、といった段取りは高校生フェスティバルの経験が生きていると思います。自分の力はたいしたことはないので、人の力を借りる、引き出すことが得意なのかな、と思います。
三浦:名前に出てこなかった「きょうそうさんかくたんけんねっと」(KSTN)はどうだったのですか。OECDと連携した国際プロジェクトだったと思いますが。
本多:KSTNのキックオフとなった「あれから。これから、」のイベントを大学1年生のときに手がけました。ここでも高校生フェスティバルの経験が生きましたが、コロナ禍でほとんどの作業をオンラインで回さざるを得ませんでした。オンラインは元々慣れていたのですが、運営は難しかったです。
図5 大学生とプロジェクトの総括 三浦:具体的にどの辺りに難しさを感じましたか。
本多:関わってきたどのプロジェクトも、「大人と子どもの協働」が根幹になるくらい重要だったと思いますが、実際は子どもと大人がバラバラになってしまいます。両者間で話が通じないことが多く、次第に参加者が少なくなってしまいました。国際プロジェクトとしてのOECDの提案が日本の大人には受け入れにくいところもあったと思います。
三浦:日本の学校や行政の文化からすれば、OECDの提案は無茶振りに受け止められることはよくありますね、一皮剥けるチャンスでもあるのですが。自分が身についた力についてもう少し話してもらえますか。
本多:一番大きなものはリーダーシップだと思います。それまでリーダーというのは、人の話を上手にまとめて、正解を知っていて、全体を仕切ることができる人、というイメージでした。だから「高校生ネットワーク」でリーダーを引き受けたとき、自分よりリーダーシップのある人はたくさんいるのに、と思いました。
図6 台湾の高校で福島のブース出展  実際にリーダーをやってみて、周りには自分の意見を言い出せない人がたくさんいることに気がつきました。1対1だと話せるのに、みんなの前だとダメという人がいます。自分の役割はそうした声を拾うことだと思いました。些細な声を大切にし、整理しないで曖昧なまま伝えることが大切だと気づきました。あと何分以内に意見をまとめて、という状況では意見は出にくいです。心にゆとりがないといいアイディアは生まれてきません。FCNのロゴをみんなで考えていたとき、三浦先生が「何も考えないで手を動かしているといいアイディアが生まれてくることもある」と言っていたことに通じると思います。
三浦:特に大学生になると、大人と子どもの中間の立場で、大人と子どものそれぞれのコミュニティをつなぐ重要な役割があります。大学生はOECD東北スクール以来、その辺りを重要な使命としてこなしてくれました。世代には世代の役割があるのですね。リーダーは部活動のランニングを例にすると、前から構成員を引っ張る役割と、後ろから全体を把握する役割があると思います。本多さんは後者のリーダー像に近いと思います。私は、リーダーの最も重要な役割は、構成員の一人ひとりをよく理解することで、それを踏まえて何をするのか、できるのかを判断することだと思います。リーダーシップは、構成員つまりフォロアーとの関係なしに成り立ちません。