学び!と社会2
2026.09.28 <Vol.05>
地域教材の開発にチャレンジしよう! ~『医食同源』&『地産地消』~
若いころから、時間を見つけては書店を一回りしている。“思いがけない一冊” との出会いがあるからだ。
つい先日も書名、著者どちらも気になる一冊が目に飛び込んできた。
「がんと生ききる 悲観にも楽観にも傾かず」(落合恵子著)
「がんと生ききる 悲観にも楽観にも傾かず」(落合恵子著)
落合恵子さんと言えば文化放送の深夜ラジオ番組『セイ!ヤング』の人気アナウンサー。その名前を目にした瞬間、若き日の思い出が蘇ってきた。苦いコーヒーで睡魔と闘いラジオ放送をBGMに “ながら勉強” をしている “学生時代の苦い思い出” である。
その一冊を即座に購入。がんと二人三脚で生きている自らの経験と重ね合わせ、一語一語噛みしめながら熟読した。
第5章 免疫力を強化する
免疫力をあげる/ファイトケミカルスープ/
西洋医学と漢方医学/あらためて『医食同源』
…なるほど。
その中でも特に気になったのが『医食同源』。それは、機会あるごとに開いて目を通している書籍「心も体ももっと、ととのう 薬膳の食卓365日」(川手鮎子著)の中で、初めて出会った言葉である。
「心も体ももっと、ととのう 薬膳の食卓365日」(川手鮎子著)
この『医食同源』だが、落合恵子さんによれば、中国漢方の『薬食同源』をヒントに医師であり料理学校の校長でもあった新居裕久氏が提唱した造語であり、薬に頼るより栄養のバランスを考えた食事で健康になろうと訴えたものだという。
含蓄のある言葉である。
そう言えば、川手鮎子さんは『医食同源』だけでなく『地産地消』という聴きなれた言葉を取り上げ、薬膳の観点に立ちその意味について独自の見解を述べている。
その土地でその季節に育った食材をその土地に住んでいる人がいただくことに深い意味がある。例えば、熱い夏、路地で育ったトマトやナス、キュウリなどは体を内から冷やしてくれる働きがあるので、その土地に住む人々がこれら地元でとれた旬の夏野菜をいただくことにより、夏を元気に過ごすことができるというのである。
『医食同源』と『地産地消』か…!!
どちらも食生活と健康に関わる言葉として紹介されているが、社会科の授業づくりとつながる大事な言葉だな。ふと、そんな思いが湧き上がってきた。実は…。
私は大学の授業で、社会科の「教材と学習内容」との関係を食事に例えて次のように説明してきた。
学校給食などでは、常に栄養のバランスを考えた食事を子どもたちに提供できるように心がけている。子どもたちの健全な成長に必要な栄養とは何かを考え、その栄養を含む食材を準備しおいしい調理(料理)の仕方を工夫して献立を決めていく。この食事を通して子どもに摂取させる栄養に当たるものが学習指導要領に示された各学年の目標及び内容、そしてその栄養が豊富に含まれている食材が、主たる教材の教科書である。つまり、社会科の授業では、教科書を食材とし、教師が子どもとともに調理しておいしく食べる。それが社会科の学習活動=教師と子どもたちによる協働の問題解決(studies)、その過程や結果として子どもたちが摂取する栄養が学習内容(学習指導要領に示された目標及び内容)なのだ。
こう考えると食材は調理(料理)の要、教材は社会科授業づくりの要であると言える。
一方、中学年の教科書では、多くの場合、地元の教材ではなく、よその市区町村や都道府県の事例が取り上げられている。そのため、地域版の副読本や教師自らが開発した地域教材を主教材として授業づくりを行うことが求められる。つまり中学年では、教科書教材に替えて地域教材を用いて授業を行う、いわば『フルモデルチェンジ』が必要となるのである。
また高学年の場合、教科書を主教材として丸ごと活用する方法が一般的だが、教科書教材の一部を地域教材に置き替える『マイナーチェンジ』が効果的である。
写真1
大学の授業では、上記の説明に加え、私が駆け出しの教員時代、先輩たちから耳にタコができるくらい何度も耳にした “足で稼ぐ社会科” と板書。この言葉を通して、教員自らが現地・現場(事例地域や施設など)に出向いて教材を発掘し、単元を構想し展開していく授業づくりの意義や自らの実践、例えばカステラ工場や墨汁工場(3年)、埼玉県飯能の森林を守り育てる仕事(5年)、低地のまち海津(5年 写真1は、海津の水屋を調査している筆者)などについて熱く語ったのである。
話を戻そう。タイトルにも掲げたが、なぜ、今改めて地域教材の開発なのか。
それは、社会科の授業づくりにおいて “教材こそが命” だからである。
料理のはじめの一歩は食材選び。栄養満点な旬の食材を地域の生産者や市場などに出向き自分の目で見極める。そこで集めた食材を最大限に生かす調理法を編み出していく。この足で稼ぐ『食材選び』と『食材を生かす技』を磨くことが、一流の調理人へと成長していく大事な修業(研修)である。教員も同じではないか。
ところが今、教員の世界はタブレット時代。“ネットで稼ぐ社会科” へと変貌を遂げつつある。教員が自ら現地に赴き教材開発をするのは働き方改革に反すると語る教員もいるから驚きである。
ネットによる授業づくりは料理に例えると、手間ひまをかけない簡単・時短レシピと同じ。一見魅力的だが、『医食同源』や『地産地消』とは程遠い “栄養価の乏しい味気ない料理” となってしまう恐れがある。
かく言う私は、現役を退いた今でも、地元の教員仲間と地域教材の開発を楽しんでいる。写真2、写真3(埼玉県農業技術センターにおいてイチゴの品種改良を見学・調査)はその一例である。
読者諸氏も初心に帰り、地域教材の魅力や “足で稼ぐ社会科” の意義について授業づくりの話題に取り上げてほしいと願っている。
【参考文献】
- 「がんと生ききる 悲観にも楽観にも傾かず」(落合恵子著)2025年 株式会社朝日新聞出版
- 「心も体ももっと、ととのう 薬膳の食卓365日」(川手鮎子著)2023年 株式会社自由国民社
- 「地域教材の開発と実践」(拙稿)2020年 日本文教出版

