学び!と美術
2026.06.10 <Vol.166>
6月 図工の評価が分からん……~若手先生のための「声かけ&心がけ」事例集~
新年度が始まって2か月。慣れてきたこともあれば、新しい壁にぶつかることも……。どんな状況でも子どもの学びを止めないために、また自分自身の成長のために、どのような気持ちをもって臨めばよいかを考えるシリーズ。登場人物といっしょに1年を乗り越えていきましょう。
【登場人物】
フタバ先生
教師になって3年目、初めての学級担任で6年生を受け持つことに。子どもが大好き。タイパ・コスパがつい気になっちゃう。図工には苦手意識あり。
ヤドリギ先生
教師歴ウン十年の大ベテラン。図工が専門。ホームセンターめぐりが趣味。
【これまでのお話】
「プロセスを大切に」って言われても……
成績をつける季節が近づいてきました。図工の評価が難しいと悩むフタバ先生。ヤドリギ先生に話を聞いてみることにしました。
先生
図工はプロセスが大切って言うけど、そのプロセスがよく分からなくて。
先生
図工の授業って、「表現の始まり」「材料との出会い」「展開」「鑑賞」……といくつかの場面に分かれているよね。それぞれの場面で子どもたちの資質・能力がどのように発揮されたのかを観察することが大切なんだよね。
先生
観察ですか……。
図工も「はさみでこの形を切れたから●点」「きれいに作品をつくれたから●点」って数値化できれば楽なのに。
先生
「はさみで特定の形を切ることができる」、それはそれで大事なんだけど、技能の一面に過ぎないよね。「切った形をどのように表現に生かすか」「思いや材料の特性に合わせて用具を使い分けたり、それで自分の思ったような形をつくることができるのか」が大切なんだよね。
最初に思っていたのと違う形になったとしても、その形を生かして表現していくことを思いついたのなら、それは思考力、判断力、表現力等を発揮していること。子どもの活動の様子を見たり、子どもに聞いたりしながら、しっかりと価値づけてあげる。それがプロセスを見取るってことなんじゃないかな。
それが、図工における教員の役割だと思うんだよね。だから、観察や対話を通して子どもの思いを見取る力を鍛えないと評価できないよね。
先生
どうやって鍛えるんですか?
先生
それはね……
ヤドリギ流 表現のプロセスを見取る力の鍛え方
①一人ひとりの「らしさ」を引き出す題材設定を考える
どんな作品でも、その子らしさが出ます。その子が好きなものが必ず入っていたり、好きな色を使っていたり。その子らしさというのは、全員が同じような表現しかできない活動では見えてきません。だから図工の題材は、何よりも子どもたちにとって自分のイメージが自分の思いに変わって、思いが表出されるものであるべきだと思います。そのことを意識して題材を考えていけば、その子の表現からその子の思いや変化も見えてくるようになるのではないでしょうか。
そして、どの子どもも置いてけぼりにならないような設定であることも大切。手先の器用な子どもだけができるような題材ではなく、クラスみんなのことを思い浮かべて「あの子も、この子も、やる気になりそうだな」と思える題材設定になるといいですね。
②教師がめあてをきちんと理解する
題材の目標を子どもたちに分かるように伝えてあげる言葉、それが「めあて」です。
「めあて」を理解するために大切なのは、先生がその題材を楽しむこと。人は自分が楽しいと思うことにはちゃんと向き合いますよね。題材にちゃんと向き合えば「子どもにがんばってほしいこと」が見えてきます。それが、その題材の一番大切な学び、つまり「めあて」が見えてくるということではないでしょうか。
「子どもにがんばってほしいこと」が見えてくると、「子どもが決めること(子どもに委ねること)」と「教師が決めてあげること」の線引きや、導入での題材の手渡し方、材料の提案、活動中の声かけなどについても想定できるようになります。
見本をつくることも多いと思いますが、どこが面白いのか、どこで子どもたちがつまずきそうなのか考えながら、先生自身がつくることを楽しむことで、題材の本質を捉えていけるし、授業にも楽しく向き合っていけると思います。
③子どもの作品からプロセスを見取る手段を増やす
作品だけを見てその子らしさや表現のプロセスを見取るのは難しいです。子どもに作品についてお話ししてもらったり、作品カードを書いてもらったりするといいですね。ただ、作品カードや振り返りシートをつくることが目的ではないので、あまりそこに時間を取りすぎないようにもしたいですね。
わたしは長時間にわたる活動の場合、各授業の最後に、例えば絵であれば作品の裏に「きょうのタイトル」をささっと書いてもらいます。タイトルは毎週変わるかもしれないし変わらないかもしれない。子ども自身も考えが整理されるし、わたしにとって支援や評価の助けになります。
<例>
先生
フタバ先生も題材の目標に基づいて評価の観点をつくっているよね。
評価の観点にのっとってみれば、「はさみで決まった形を切ること」や「きれいな作品をつくること」が全てではないことが分かるよね。大切なのは「はさみを使って形を切って、くふうして表現している」というプロセス。
先生
プロセスを見取る大切さというのは理解できました。
ただ、この間、粘土で立体に表す活動をしたときに、途中までいい感じで進んでいた子が「あ、いいこと考えた!」と全部つぶしてしまって、そこで時間切れになってしまったんです。そういう場合、ヤドリギ先生ならどう価値づけますか。
先生
フタバ先生は、「途中までいい感じで進んでいた」ことには気づいていたんだよね。であれば、時間内に作品を完成することはできなかったけれど、こんなところにこだわってつくっていた、こんな工夫をしていたということを記録しておいて、その子に伝えてあげるといいよね。
先生
思い出の風景を絵に表す活動を、ものすごくやる気で始めたのに、途中から体調が悪くなって授業に出られなくて完成できなかった子どももいました。こういう場合はどう考えたらいいんでしょうか。
先生
子どもと相談して、休憩時間や放課後を使って完成させられるのなら、そのときの活動の様子も見て評価することができるよね。
それも無理ということであれば、わたしなら「評価不能」とするかな。「授業に出ていれば意欲的に活動する児童ですが、8時間のうち2時間しか授業に出られなかったので」と管理職の先生にも説明して、相談にのってもらうといいかもしれないね。
決められた時間の中で調整していくことも大切な学習。でも、評価は一つの題材だけで判断するんじゃなくて、ほかの題材での活動の様子や作品も見て、学期にまとめて評価することになる。だから、プロセスをしっかり見取って記録しておくことが大切になるんだよ。
先生
なるほどです。
子どもたちの活動のプロセスを見取れるように、わたしも図工を楽しんでいこうと思います!
今月の心がけ
評価の秘訣は「教師自身が楽しんで授業に取り組むこと」
次回は「授業改善したいけど、どうしたらいいか分からない……」です(8月公開予定)。
田中明美(たなか・あけみ)(写真右)
静岡県富士宮市出身。東京造形大学美術学科Ⅱ類(彫刻科)卒業。埼玉県と東京都の産休代替教職員(小学校、中学校、養護学校、ろう学校)を経て、東京都の図画工作科教員・指導教諭となった。現在、品川区立立会小学校に勤務して20年目、主任教諭。東京都図画工作研究会(都図研)の副会長や第57回都図研城南大会(関東甲信越静地区造形教育連合東京大会)研究局長、品川区の研究部長などを務め、現在は都図研の研究局のアドバイザーとなる。家にはオオバタン(オウム)がおり、オートバイ好き。
手塚千尋(てつか・ちひろ)(写真左)
明治学院大学准教授。美術領域固有の探究のプロセスとSTEM領域の学びの接続点をさぐる研究に従事する。共著に『ABRから始まる探究(2)初等教育編 子どもの表現とアートベース・リサーチの出会い』(学術研究出版社)、『アート学習ハンドブック(学術研究出版社)』がある。



「教員養成課程ではこんなこと習ってない…」が溢れる図画工作の教員現場。
独創性も捨てがたいけれど、ピンチは「共創」で乗り越えられます!