学び!とシネマ

学び!とシネマ

ミナリ
2021.03.23
学び!とシネマ <Vol.180>
ミナリ
二井 康雄(ふたい・やすお)

©2020 A24 DISTRIBUTION, LLC  All Rights Reserved.

 「ミナリ」(ギャガ配給)は、今年のアカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞、脚本賞、作曲賞の6部門でノミネートされた話題の作品だ。
 1980年代、韓国からカリフォルニアに移住した韓国人一家が、農業での成功を目指して、アーカンソーの農地にやってくる。大きな農園を作って、韓国料理店に提供する農作物を栽培しようと奮闘するが、現実は甘くない。一家に、いったい、どのような試練が待ち構えているのか。
 韓国から移民のジェイコブ(スティーヴン・ユァン)は、妻のモニカ(ハン・イェリ)と、まだ幼い長女のアン(ネイル・ケイト・チョー)、7歳の長男デビッド(アラン・キム)といっしょに、アーカンソー州のオーザック高原にやってくる。
 モニカは、おんぼろのトレーラーを改装したような粗末な家を見て、「勝手に決めるなんて」と機嫌が悪い。ジェイコブは、「ここの土地はいいはず。大きな農園を作ろう」と考えている。
 ジェイコブとモニカの夫婦は、とりあえず、ヒヨコの雄雌選別の作業に従事する。ジェイコブ夫婦にとっては、カリフォルニアでずっと関わっていた仕事である。農作業での成功を考えているジェイコブと、現実を重視するモニカは、ことあるごとに対立してしまう。心臓に欠陥を抱えるデビッドを気遣うモニカは、近くに病院がないのも不満である。
 このままでは、子どもの面倒も満足にみることが出来ない。韓国から、モニカの母スンジャ(ユン・ヨジョン)を呼び寄せることで、なんとか夫婦の危機を乗り越えようとする。
©2020 A24 DISTRIBUTION, LLC  All Rights Reserved. スンジャがやってくる。アンは小さい頃に祖母に会っているが、デビッドにとっては、初対面になる。字の読めないスンジャは、にぎやかで、思ったことをズバズバ、口にする。「食らえ、この野郎」などと、下品な発言も多い。スンジャは、テレビのプロレスが大好きで、特技は花札だ。いつのまにか、孫たちに花札を教えたりして、少しずつ、アメリカの暮らしになじんでいく。当初、「おばあちゃんらしくない」と、敬遠していたデビッドは、すっかりスンジャになつくようになっていく。
 近くに住むポール(ウィル・パットン)が、なにかと農作業を手伝ってくれる。ポールは、朝鮮戦争に従軍していたらしく、ジェイコブ一家に、親切である。ポールは、熱心なクリスチャンだが、ちょいと変わり者で、日曜日には、自らをキリストになぞらえてか、木で出来た大きな十字架をかかえて歩く。
 なんとか、ナス、パプリカ、トウガラシなどが育つ。しかし、自然は厳しい。ある日、急に地下水が枯れてしまう。水道水は出るが、無料ではない。やがて、資金繰りもままならない一家は、大きな危機を迎えることになる。
 スンジャは、デビッドを近くの川に連れていき、ミナリ(セリ)を植える。デビッドは、両親から心臓病のことを立ち聞きし、「死にたくない」とスンジャに訴える。「死なせない」と励ますスンジャ。
 一家5人の暮らしぶりが、淡々と描かれていく。いろんな出来事があるが、大きく一家の運命を揺るがすほどのことは起こらない。だが、ある日、スンジャのある行為が、とんでもない事件を起こす。
©2020 A24 DISTRIBUTION, LLC  All Rights Reserved. アメリカは、もともと、移民の人たちの多い国である。いろんな国からやってきて、たいへんな苦労を重ねたことと思う。もちろん、大成功を収めた人もいるが、「ミナリ」で描かれた韓国人家族のように、苦労を重ねる人たちが多いはずだ。
 脚本、監督は、リー・アイザック・チョン。アメリカ生まれだが、名前から分かるように、韓国からの移民2世である。幼い頃、アーカンソーの農場で育ったこともあって、いわば、監督の自伝的な要素を持ち合わせた映画でもある。シリアスなドラマなのに、ユーモラスなセリフや、やりとりが随所に出てきて、そう悲壮感は感じない。
 いたってシンプルドラマなのに、観客をぐいぐいと引き付けるのは、俳優たちの演技、監督の演出力もあるだろう。ジェイコブに扮したスティーヴン・ユァンは、「バーニング 劇場版」などに出た実力派。開拓者精神が旺盛ながら、妻との葛藤に苦しむ役どころを力演する。
 個性豊かな祖母役のユン・ヨジョンは、最近では「チャンシルさんには福が多いね」に出演。ヒロインが下宿する部屋の大家さん役を巧みに演じた、韓国を代表する大女優だ。デビッドとのラスト近くの演技は、圧巻である。デビッド役のアラン・キムは、その仕草のひとつひとつが、とても可愛い。心臓病のせいで、走ることが出来ない設定が、見事に活きるシーンがある。もちろん、タイトルの「ミナリ」にちなんだシーンもあり、厳しい現実を生き抜く勇気が湧くような、心ふるえるセリフが用意されている。
 4月に発表になるアカデミー賞では、いくつか受賞するかと思うが、賞とは関係なく、見るに値する、余韻たっぷりの傑作だろう。

2021年3月19日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国公開中

『ミナリ』公式Webサイト

監督&脚本:リー・アイザック・チョン
出演:スティーヴン・ユァン、ハン・イェリ、ユン・ヨジョン、ウィル・パットン、スコット・ヘイズ ほか
原題:MINARI/アメリカ/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/116分/字幕翻訳:根本理恵
配給:ギャガ

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