学び!とESD
2026.07.15 <Vol.79>
ESDと気候変動教育(その20) 小学校カリキュラムと気候変動教育 ―世界88カ国の調査から見えてきたこと
地球と人類の未来を揺るがしている「気候変動」の対策に、教育の役割が重要なことはいうまでもありません。しかし、カリキュラムや教科書はどこまで「気候変動」について触れているのでしょうか。
ユネスコは2026年、世界88カ国の小学校3年生・6年生の理科・社会科系科目のカリキュラム830本以上を分析した報告書「理科・社会系の小学校カリキュラムにおける気候変動とサステナビリティ」(Benavot & McKenzie, 2026)(原題『Climate Change and Sustainability in Science and Social Science Primary School Curricula』)を発表しました。同報告書によると、「環境」「サステナビリティ」「気候変動」のいずれかに関する内容が1回以上言及されていたカリキュラムは全体の66%でした。一見すると半数以上で多いと感じるかもしれませんが、「気候変動」だけに絞って分析すると、その数字はわずか15%にまで下がります。私たちの生活を足元から脅かしている実態についての教育であるにもかかわらず、これは驚くほど低い数値ではないでしょうか。
なお同報告書は、中等教育(Grade 9)を対象とした2024年版と対をなすシリーズで、ユネスコが初等・中等教育の両段階にわたって体系的にカリキュラムの実態を調査した初めての試みです。
何が分析されたのか
今回の調査では、理科系・社会科系・環境教育/ESD系という三つのカテゴリーにまたがる幅広い科目が対象となりました。理科系では理科・応用理科・地球科学・生活科学(家庭科)・体育など、社会科系では生活科・社会・道徳・宗教/倫理/哲学・文化/芸術・先住民族学習・ICTなど、そして環境教育/ESD系では環境教育や持続可能な開発教育など、多様な科目が含まれます。これだけ広い分野にわたって調査が行われたことは、「気候変動」が理科だけの問題ではなく、あらゆる教科に関わるテーマであるというユネスコのメッセージでもあります。
二つの課題
同報告書が浮かび上がらせた課題は、大きく二つあります。
一つ目の課題は、「気候変動」に関する内容の絶対量が少ないことです。地球温暖化など、「気候変動」について言及されているカリキュラムが15%にとどまるということは、ほとんどの小学生が、なぜこんなに地球の平均気温が上がっているのか、なぜ採れる農作物や水産物が変わってきているのかを、学校で教えられていないということになります。
日本の学習指導要領を見ると、理科では第3学年『身近な自然の観察』、第4学年『天気の変化』、第6学年『生物と環境』、社会科では第3・4学年『節水や節電など資源の有効な利用』、家庭科(第5・6学年)『資源・環境に配慮した生活』などに関連づけうる単元が存在しますが、「気候変動」「地球温暖化」のキーワードの記載はありません。
教科書レベルでは、社会科第4学年の「健康なくらし」単元において、火力発電が地球温暖化を進める懸念や、地球温暖化という語句の側注解説、児童の発言(「電気の使い方を考えないといけないね」)といった形で触れられており、記述が皆無というわけではありませんが、「気候変動」を掘り下げて学ぶには、記述が限定的です。「気候変動」との関係性を教員がどこまで意味づけて教えるかは、個々の教員の裁量に委ねられています。
二つ目の課題は、教科間の接続に乏しいことです。上に述べたように、「気候変動」は理科の問題でも社会科の問題でもなく、あらゆる教科の学習内容に関わる複合的な課題です。つまり「気候変動」は、気温上昇だけの問題ではなく、農業・水産業への影響、物価の高騰、対処策としての資源エネルギー問題、さらには各家庭での消費電力の内容など、あらゆる教科に横断的につながっている問題です。にもかかわらず、教科横断のテーマとして統合的に扱う視点が弱いと同報告書は指摘しています。各教科の学びが「気候変動」のテーマでつながっていないと、断片的な知識となり、事の重大さがわからず、解決策も見出しにくくなります。
教科横断的な学習は、担任が主要な科目すべてを担当する小学校でこそ可能です。しかし現状では「気候変動」というテーマ自体にさほど焦点が当たっておらず、カリキュラム・マッピングもなされていません。そのため、せっかく総合的な学習の時間や総合的な探究の時間で子どもが「気候変動」に関するテーマを取り上げたとしても、それを各教科の知識とつなげて解決策を考えるように促すことができる教員は多くないのではないでしょうか。子どもたちが断片的な知識を超えて、「気候変動」を「自分ごと」として捉えるためには、教科横断的な考え方が不可欠です。そのため、教材開発や、教員研修や教員養成プログラムでの「気候変動」を軸としたカリキュラム・マッピングの方法の導入が急務です。
「カリキュラムのグリーン化」に向けて
こうした課題に応えようとしているのが、2022年の教育変革サミット(Vol.35 参照)で誕生したユネスコ主導の「教育のグリーン化パートナーシップ」(Greening Education Partnership)(Vol.46 参照)が掲げる「カリキュラムのグリーン化」(Vol.55 参照)です。知識の習得にとどまらず、行動変容へとつながる気候変動教育をすべての教科・学年・地域において実現すること。それこそが、この取り組みの目指すところです。
「気候変動」をカリキュラムの主流として位置付けることのメリットは多くあります。私たちの生活や未来を揺るがす地球規模課題を、私たち一人ひとり、そして社会全体の課題と捉えて変革に寄与する市民を育てるだけにとどまらず、協調性やリーダーシップ、コミュニケーション能力、批判的思考力、共感力といった社会情動的スキル(SEL)(Vol.78 参照)を育む絶好の機会になり得ます。
今回の報告書が示したデータは厳しい現実ですが、同時に「ここからどう変えていくか」を考えるための確かな出発点でもあります。幼少期における環境教育やESDが、環境に対して責任ある市民となるための準備になりうると示す論文は多くあります(例えばArdoin, 2018)。「気候変動」が小学校から教科の中で扱われるようになれば、気候危機に向き合おうとする人が世の中にもっと増えていくはずです。教育がまだ気候危機に追いついていないとするなら、私たちには変える余地があるということでもあります。教室の中から始まる変化が、やがて社会全体を動かす力になると信じて。
【参考文献】
- Ardoin, N.M., Bowers, A.W., Roth, N.W., & Holthuis, N.(2018). Environmental education and K-12 student outcomes: A review and analysis of research. The Journal of Environmental Education, 49(1), 1–17.
- Benavot, A. & McKenzie, M.(2026). Climate change and sustainability in science and social
science primary school curricula. UNESCO Global Education Monitoring Report Team.
https://www.unesco.org/en/articles/climate-change-and-sustainability-science-and-social-science-primary-school-curricula - 永田佳之・神田和可子・木戸啓絵・スモン・ピソン・蒙亮羽(2021).「気候非常事態宣言を表明した自治体における気候変動教育に関する調査【速報版】.聖心女子大学〈気候変動教育〉国内調査チーム」
https://nagatalab.jp/wp-content/themes/nagata-lab/pdf/results-of-a-study-on-cce-in-japanese-local-government-with-climate-emergency-declaration.pdf - 「Greening Education Partnership」
https://www.unesco.org/en/education-sustainable-development/greening-future
