学び!とESD

2026.09.15 <Vol.81>

「ユネスコ教育勧告」のエッセンス(その8) 「トランスフォーメーション」

永田 佳之(ながた・よしゆき)

「ユネスコ教育勧告」のエッセンス(その8) 「トランスフォーメーション」

変容とは、より優れた芋虫になることではない。蝶になることだ。
“Transformation is not becoming a better caterpillar. It is becoming a butterfly.”

(作者不詳)

図1 図2
出典:聖心女子大学グローバル共生研究所(https://kyosei.u-sacred-heart.ac.jp/unesco2023/

持続可能な未来に向けた「変容」

 このシリーズも後半戦に入りました。7番目のテーマは「変容(トランスフォーメーション)」です。14枚のカード型教材を見てキーワードが気になるカードを選んでください、とワークショップでお願いすると、最もよく選ばれるカードの1枚です。
 長い間、教育界では「変化」や「変革」などが使用されてきましたが、「変容」がしばしば使われるようになったのは比較的に最近であるといえるでしょう。でも「変化」と「変容」はどう違うのか……。ここでは、ESDの発展史からその相違について触れておきたいと思います。
 「国連ESDの10年」がスタートした2005年当初から、“transformation” は「持続可能な未来の実現のためには私たち自身が変わらなくてはならない」ことを意味する重要な鍵概念のひとつでした。授業で覚えたことをテストで活かすような知識習得にとどまらず、身の回りの生活を積極的に変えていくようになることが教育の成果として求められるようになったのです。
 では、こうした「変容」のために変えなくてはならないのは何なのか。上記の「10年」のスタート地点でユネスコは、持続可能な未来に向けて「価値観・行動・ライフスタイル」を変えることの重要性を繰り返し強調しています(参考文献1.)。ただ変わればよいというわけではなく、かけがえのない地球を慈しむという価値観をいだき、暮らしの中の行動に反映させ、一時的な変化ではなくその人のライフスタイルとして「変容」が定着していくことが教育の役割であるとされたのです。
 つまりESDでいうところの「変容」は、「深い次元の、持続する変化」といえるでしょう。当然ながら、その実現には普段の生活で当たり前になっている利便性や効率性を見直さなくてはならない場面も出てくるでしょう。ESDは倫理や道徳の教育であるといわれるゆえんです。
 もう1点、強調されなくてはならないのが教師をはじめとした教育者の役割です。ESDにおける教師は単に知識を伝達する大人ではなく、「変容」の渦中にある学習者に寄り添い、伴走するような大人というイメージです。しばしば「変容」はさなぎがちょうになる過程として説明されることがありますが、さなぎの中はいもむしともちょうとも思えないほどの劇的な変化が起きているといわれます。根幹からの変化は多かれ少なかれ戸惑いや辛さを伴うこともあります。そうした揺らぎの中にある学習者のよき理解者であり導き手である、そんな教育者像がESDにはあるのです。

自己変容から社会変容へ

 このカードの表(おもて)面(図1参照)には「学ぶということは 自分が変わり 社会をより素敵にしていく道のり 人生のいつでもどこでも 学びを通して つながりが生まれ 深まっていく」と書かれています。「いつでもどこでも」は裏面(図2参照)にある原文「life-long, life-encompassing」を訳しています。
 上の「超訳」に続いて、今回のカードにも3つの問いが添えられています。

気づきや学びを通じて、自分の価値観や行動が変わったことはありますか?
自分が変わることで、周囲も変わったという経験はありますか?
社会をより素敵にするために、あなたがしたいことはどんなことですか?

 前述の「変容」に込められた意味を意識しておのおのの問いがつくられました。問いは自己変容から始まり、徐々に社会変容について考えるように並べられています。
 ①では、深い次元で考えさせられた結果、行動が変わるような自己変容について尋ねています。カード型教材を用いた実際のワークショップでは、広島への修学旅行をきっかけに井伏鱒二著『黒い雨』を読んで広島を再訪したとか、ロンドンのビーガン・レストランで食事をしたのをきっかけに命と食について考え、お肉の量を徐々に減らすようになったなどの経験が語られていました。
 ②では、自宅の玄関で靴をそろえるようにしたら感謝され、家族の誰もが靴を丁寧に脱ぐようになったという家庭内の「変容」から、職員室のプラスチックの使用量を減らしたら、各教室のプラスチックも減ったという学校全体の「変容」まで挙げられていました。
 ③では、選挙で気候変動の政策に取り組む公約をしている候補者に投票することなどの意見のほか、「まず自分が変わること」と語る校長先生の意見もありました。

個人変容から社会変容へ

 昨今のESDをめぐる議論の国際的な潮流を考えるにつけ、ここで、社会変容についても強調しておかねばなりません。前述のとおり、「国連ESDの10年」がスタートした2005年当初から “transformation” は持続可能な未来をつくるために私たち自身が変わらなくてはならないという重要なメッセージでした。
 しかしその後、世界はより持続可能になったかというと、決してそうではありません。気候変動や生物多様性の消失という問題が地球規模で悪化してきたこの20年ほどを振り返れば、決して楽観視はできないのが現況です。そのせいでしょうか、最近は、個人変容にとどまらず、社会変容がこれまでにないほど主張されるようになりました。特に ‘ESD for 2030’ 以後は、社会変容を起こす政治的行動(ポリティカル・アクション)の重要性も強調されています。このシリーズでも扱った「強い持続可能性」がこれまでになく求められている状況であるといえましょう(*1)

ユネスコ教育勧告の「変容的教育」

 むすびに、今回のカード型教材のテーマである「変容」はESDのみならず、ユネスコ教育勧告でも最も重要なキーワードのひとつであることも強調しておきたいと思います(*2)。勧告には「変容的教育」(transformative education)について次のように記されています(*3)。(下線部筆者)

変容的教育は(中略)学習者がクリティカルに省察し、変化をもたらす主体となる。自らの未来の主人公となるように動機づけ、エンパワーし、個人、コミュニティ、地域、国家、地域圏、グローバル、それぞれのレベルで十分な情報にもとづいた意思決定と行動を可能にさせる。

 誤解をおそれずに上記の言葉を意訳するなら、「自分たちの未来は自分たちでつくる」―そんなふうに思える市民をつくるのが教育である、という一言に尽きるといえましょう。不登校の生徒が増え続け、若年層自殺が高止まりしている昨今(*4)日本の未来世代がみずからを「未来の主人公」であると実感できているかについて私たちはいま一度、立ち止まって考える必要があるのではないでしょうか。

「トランスフォーメーション」
イラスト解説

「変容」というキーワードと
そこに添えられていた
さなぎのカットを見た瞬間に
ちょうちょうの画が浮かびました。
そうして、気がついたらこの絵を
描いていました。

思考ではなく「向こう側」から
生まれてきた
少し不思議な一枚です。

エッセンスの言葉に
導いていただいた、
そんな気がしています。

©Kei Ikeda

*1:「弱い」持続可能性ではなく、「強い」もしくは「とても強い」持続可能性のための教育が不可欠。「学び!とESD」 Vol.61 及び Vol.62 を参照のこと。
*2:変容的教育とは「14の主導原則」を教育のあらゆる側面に浸透させることであると、勧告を実施するためのガイドブックでは次のように述べられています(参考文献2.参照)。このシリーズで扱っている諸原則を日常で体現していくのを可能にする、つまり学校や地域での学びを通して学習者がよりコンヴィヴィアルに、よりインクルーシブになっていくのが変容的教育なのです。
*3:平和と人権、国際理解、協力、基本的自由、グローバル・シティズンシップおよび持続可能な開発のための教育に関する勧告【暫定訳(第3版)】(日本国際理解教育学会有志訳)
https://kokusairikai.com/wp-content/uploads/2026/04/2023年ユネスコ教育勧告暫定訳第3版).pdf
*4:今月(2026年9月)に公表された厚生労働省の自殺対策白書の概要版によれば、小中高生の自殺者数は538人で統計のある1980年以降過去最多となりました。詳細は次を参照。「令和7年版自殺対策白書」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/jisatsuhakusyo2025.html

【参考文献】

  1. UNESCO Education Sector(2005)United Nations Decade of Education for Sustainable Development(2005-2014): International Implementation Scheme.
  2. UNESCO(2025)Recommendation on Education for Peace, Human Rights and Sustainable Development: An implementation guide.
  3. 「わたしたちがつくる平和・人権・持続可能な開発:日本のエデュケーターのための14のエッセンスと42の問いかけ(ユネスコ教育勧告カード型教材)」聖心女子大学グローバル共生研究所
    https://kyosei.u-sacred-heart.ac.jp/unesco2023/