学び!と共生社会

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SDGsの動きとインクルーシブ教育
2021.10.25
学び!と共生社会 <Vol.21>
SDGsの動きとインクルーシブ教育
大内 進(おおうち・すすむ)

 最近、「SDGs」という言葉が大きな話題となっています。SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは「Sustainable Development Goals」の略称で、日本語では「持続可能な開発目標」と表されています(*1)
 SDGsは、「誰一人取り残さない」社会の実現を目指し、経済・社会・環境をめぐる広範な課題に統合的に取り組むため、2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(*2)に掲げられたものです。持続可能な社会を達成することを目指して、2030年に向け、世界全体が共に取り組むべき普遍的な17の目標と169のターゲットが示されています。
 SDGsというと、科学技術イノベーション(STI for SDGs)の推進が話題になりがちですが、17の目標の中には教育も掲げられています。そして、この教育の取り組みにインクルーシブ教育が深く関わっているのです。
 そこで、今回はそのことを確認するとともに、SDGsとの関連でインクルーシブ教育の推進に取り組んでいるユネスコの取り組みを紹介しておきたいと思います。

「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と教育

 SDGsの17の目標の4番目(SDG 4)に、教育分野の目標が明記されています。「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」という主目標のもとに具体的な課題として10のターゲットが示されています。それらの多くは、途上国を念頭に置いた対応に関するものですが、いじめ、不登校、外国籍、障害、貧困(社会構造の変化により新たに生まれたタイプも含む)なども含めて、誰一人取り残さないという観点からは、全ての国々におけるインクルーシブ教育の実現とも大きく関わっている次のようなターゲットもあります。

 4.5 2030年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子供など、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする。
 4.a 子供、障害及びジェンダーに配慮した教育施設を構築・改良し、全ての人々に安全で非暴力的、インクルーシブで効果的な学習環境を提供できるようにする。

 また、SDGsの10番目の目標「人や国の不平等をなくそう」の中にも、インクルーシブ教育に深く関わる以下のようなターゲットが掲げられています。

 10.2 2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、全ての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。
 10.3 差別的な法律、政策及び慣行の撤廃、並びに適切な関連法規、政策、行動の促進などを通じて、機会均等を確保し、成果の不平等を是正する。

 これらのことから、インクルーシブ教育の推進は、SDGsとも深く関わっていることが理解できると思います。SDGsに関連して文部科学省でもさまざまな取り組みを行っていますが、そうした取り組みを個別の課題として捉えるのではなく、インクルーシブ教育システムの構築も絡めた総合的な課題として捉えていきたいものです。

「教育2030アジェンダ」を主導するユネスコの活動とこれからのインクルーシブ教育

 国連の教育専門機関であるユネスコは、SDGs目標4の達成をめざして「教育2030アジェンダ」を主導する機関としてさまざまな取り組みを行っています。昨年には、「教育のインクルージョンに向けて:状況、傾向、課題(Towards inclusion in education:Status, trends and challenges)」という報告書を公開しています(*3)
 この冊子には、1994年のサラマンカ宣言以降、過去25年間に行われたインクルーシブ教育、つまり、すべての学習者に質の高い教育へのアクセスを提供するために取り組まれた世界各国での実践や研究、政策の紹介及び分析がなされています。そしてそれらを受けて、将来を見据え、インクルーシブ教育の継続的な発展と改善を確実にするための6つの推奨される行動を提言しています。それらは次のとおりです。

 アクション1:教育へのインクルージョンと公平性が何を意味するのかを明確に定義する
 アクション2:エビデンスを基に、学習者の参加と進歩を阻害している障壁を特定する
 アクション3:インクルージョンと公平性を促進する上で教師が支援されていることを確認する
 アクション4:すべての学習者を念頭に置いてカリキュラムや評価方法を設計する
 アクション5:すべての学習者を引き付ける方法で教育システムを構築および管理する
 アクション6:教育へのインクルージョンと公平性を促進する政策の策定と実施に地域社会を参加させる

 こうしたことが実現するまでには長い道のりが必要とされます。この報告書では、これらのアクションは、大人の態度、信念、行動の変化なくして達成困難であることを認識し、SDGsの目的の達成に向けての協調的かつ持続的な努力を求めています。この報告書の日本語版が公開され、わが国でも議論が深まっていくことを期待したいと思います

*1:持続可能な開発目標(SDGs)について
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/07/01/1418526_001.pdf
*2:持続可能な開発のための2030アジェンダ(仮訳)
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/07/01/1418526_002.pdf
*3:Towards inclusion in education: status, trends and challenges: the UNESCO Salamanca Statement 25 years on
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000374246