学び!と共生社会

学び!と共生社会

チーム担任制とインクルーシブ教育
2024.10.29
学び!と共生社会 <Vol.57>
チーム担任制とインクルーシブ教育
大内 進(おおうち・すすむ)

はじめに

 長い間、学級運営については、「学級王国」という言葉に象徴されるように、一つの学級を一人の教員が責任を持って対応する担任というスタイルがスタンダードになっていました。
 近年、「チーム担任制」「複数担任制」「学年担任制」など形態は異なるものの、学級担任を一人に固定しないで、複数の教員で担ったり、学級担任という枠組みを外して学年全体を複数の教員で対応したりするといった仕組みを導入する地域や学校が少しずつ増えてきています。
 こうした動きは、教員不足や働き方改革が喫緊の課題となる中、業務分散による負担軽減を図るとともに、複数の目で子どもを見守るという狙いもあるといわれています。
 「複数の目で子どもを見守る」という視点は、現状の喫緊課題への緊急対応というだけでなく、すべての人が質の高い教育を受けることができるように環境を整えるというインクルーシブ教育の理念にもつながるところがあります。
 そこで今回は、複数の教員による複数の学級へのチームでの対応の動向についてインクルーシブ教育を視野に入れながら追ってみることにしました。

我が国における「チーム担任制」の状況

 「チーム担任制」あるいは「複数担任制」とは、学級担任を一人に固定せず、複数の教員で学級運営を分担するやり方です。学年全体を複数の教員で対応する場合は学年担任制とも呼ばれています(以下、これらの担任制を「チーム担任制」でまとめて表記します)。
 文部科学省では、教科担任制は主導していますが、「チーム担任制」については、学校における働き方改革の事例として紹介しているものの特段具体的な方針等は示していないようです(*1)。自治体や学校の判断で、それぞれの状況に合わせてその導入が進められている段階にあるといえます。
 現時点では全国的な規模での「チーム担任制」の導入校数などについてのデータは収集されていないようですが、最近、「チーム担任制」に関する報道に接することが多くなってきました。
 「チーム担任制」をキーワードに、インターネットでニュース検索すると全国各地で取り組みが進められていることがわかります。そこで、最近のニュースから、いくつかの事例をピックアップしてみました。詳細については、各記事を参照してください。

自治体・学校

報道内容

出典

千葉県流山市立長崎小学校

2024年度から「チーム担任制」を導入。

(*2)

京都市

2022年度に市立小学校1校が「チーム担任制」を導入し、2023年度は20校、2024年度は27校に拡大。

(*3)

東京都杉並区

2023年度は1校、2024年度は4校が導入。教員同士の情報共有不足などの課題を見つめながら、教育環境の改善を目指している。

(*4)

富山県南砺市

2020年度以降、市立小中学校全17校(当時)で「チーム担任制」を導入。

(*5)

神戸市

「学年(チーム)担任制」が2023年4月から始まっているが、2024年度はモデル校9校で実施。

(*6)

岡山県津山市

市立の全27小学校で、学級担任を固定せず、複数の教員がチームで授業や学級業務を担う「学年担任制」を導入。

(*7)

鹿児島県志布志市立伊崎田小学校

2024年度から学級担任制を廃止し、複数のクラスを複数の先生で受け持つ「チーム担任制」を導入。

(*8)

福岡市立城西中学校

2024年度から「チーム担任制」を導入。2年生は7クラスを2つのグループに分け、4クラスを7人、3クラスを5人の教員が担当。福岡市では東光中学校、能古小学校も「チーム担任制」を導入。

(*9)

北海道上川管内

上川管内では旭川市立旭川中が美瑛町立美瑛中に続いて2022年度から導入。

(*10)

茨城県取手市

取手市は、女子中学生のいじめ自殺で不適切な学級運営を指摘されたことを受け、2020年度から全ての市立中学校でチーム担任制を導入。

(*11)

北九州市

折尾中学校で「チーム担任制」を導入。

(*9)

静岡市

竜南小学校と東源台小学校で試験的に「チーム担任制」を導入。

(*12)

表1 ニュース等で報道された近年の「チーム担任制」の導入事例

「チーム担任制」のメリット、デメリット

 「チーム担任制」がどのように受け止められているか、紹介したニュースの記事等の内容から実施している学校から上がっている声を、メリットとデメリットの2側面から整理してみました。

メリット

●負担が軽減される

  • 子どもや保護者の対応を抱え込んで休職や退職に至る「担任不在」を防ぎ、教員不足の歯止めの一助になることも期待される。
  • 数年前、担任の先生が病欠や産休で急に不在になり、自習が続く時期もあった。チーム担任制であれば急に担任が“ゼロ”になることはない。子どもは複数の先生と信頼関係を築け、安心して学校に通わせることができる。
  • 5学級に6人、交代制や科目を分担し教員の負担が軽減される。
  • 子育て世代の時短勤務者が増えて、導入する学校もあるようだ。
  • 学級運営を一人の担任に委ね、ほかの教員が干渉しない「学級王国」からの脱却は、多くのメリットがある。

●指導の質が高まる

  • 従来、国語、算数、理科、社会と、翌日の授業を4パターン準備していたのが、1教科分考えればよくなり、作業量が軽減される。
  • 同じ授業を3クラス分3回繰り返すため、授業がうまくなる。
  • 教職員アンケートでも、授業内容の充実を実感する意見が急増した。
  • 子どもたちからも授業内容がわかりやすいと好評である。
  • 分担によって空き時間ができ、自分が納得できる教材をつくれるようになった。

●個に応じた指導や支援がしやすくなる

  • 昨年度、一人も休職者が出なかったことが成果。担任不在になると、子どもたちは荒れ、代わりの教諭も疲弊してしまう。教育環境の面でもチーム担任制は効果的。
  • 教員同士が連携する機会は自然と増え、一人で抱え込んでしまうということも起きづらい。
  • チーム担任制は、担任が学級内のトラブルを抱え込むといった従来の問題点を改善できる利点がある。
  • 教員不足や働き方改革が喫緊の課題となる中、業務分散による負担軽減を図るとともに、複数の目で子どもを見守る狙いもある。
  • 担任の入れ替えで早期にいじめを発見し、問題の解消につなげたケースもあった。
  • 面談や保護者懇談会などもチームで行うことで、子どもと教員の相性問題の解消、学年全体での改善案や反省点の共有が図れている。
  • 保護者からは「学校に相談しやすくなった」との意見があった。

●児童・生徒にとって素晴らしい教師と出会う機会が広がる

  • いろんな先生と触れ合うことで、子どもたちの気分転換を図れる。
  • 児童が新鮮な気持ちで授業を受けることができるようになった。
  • 教員、子どもたちの両方ウィンウィンの手ごたえを感じている。
  • 「担任との相性が合わない」という理由の欠席を減らしていくことにつながる。

●若手教員が働きやすくなる

  • 若手教員にとって働きやすい環境を目指すことができる。
  • 新規に採用された教員の人材育成につながることが期待できる。
デメリット

▼教員の指導力低下の心配

  • 教科等を分担することによって、教えていない教科の指導力が伸びない。

▼責任の所在が曖昧になる

  • いじめなど児童や保護者と腰を据えて取り組むべき問題に対し、責任の所在が曖昧になるとの懸念もある。

▼コミュニケーションがとりにくくなる

  • どの先生にお願いしたらよいかわからない。
  • 児童や保護者のアンケートで「ある先生にお願いしたことが、他の先生に伝わってない」「誰に話せばよいかわからなかった」などコミュニケーションの問題が指摘された。
  • 教員の側から「子どもを覚えるのに時間がかかる」といった懸念が聞かれる。

 「チーム担任制」を導入している学校からは、学級運営を一人の担任に委ねている現状からの脱却によって、業務分散による負担軽減はもちろんのこと、その他にも多くのメリットが得られていることが伝わってきます。「複数の目で子どもを見守る狙いもある」、「学校に相談しやすくなった」、「早期にいじめを発見し、問題の解消につなげたケースもあった」といった声からは、「チーム担任制」によって、多様な子どもに対してよりきめ細やかな対応ができるゆとりが生まれてきていることがわかります。このことは、一人ひとりの児童生徒の多様なニーズに対応する上で大変重要なことです。
 デメリットの声は、メリットに比べると相対的に少ないのですが、軽視できない指摘が含まれています。とくに「責任が曖昧になる」といった指摘は、多様な子どもへの対応という観点から大きな不安材料になっているといえます。

海外の取り組みから

 海外の学校における「チーム担任制」についても、「team teaching」、「co-teaching」「multiple teachers」などのキーワードで検索してみましたが、複数の学級を複数の教員で担当するという意味合いで「チーム担任制」を取り入れている事例はわずかしか見つけることができませんでした。欧米の多くの国々では、義務教育段階でのクラスサイズのスモール化、複数担任制による学級運営、他業種も含めたチームでの学級運営などが普及していることもあり、あえて複数の学級を複数の担当者で対応することによって余力を生み出す工夫をする必要がないこと、教員の労働環境がそれほど過酷でないことなどが背景にあるのではないかと思われます。
 高等学校の例になりますが、アメリカのアリゾナ州での「チーム担任制」に関するレポートを見つけることができました。参考までにこの取り組みを紹介します(*13)

 アリゾナ州メサにあるウエストウッド高校の9年生、大きな教室一つに生徒135人と教師4人で取り組まれたチーム担任制の報告です。
 教師の離職率の高さと生徒数の減少に直面したウエストウッド高校の指導者たちが、アリゾナ州立大学の教員養成担当のスタッフと協力し、チームティーチングの手法を導入した取り組みが開始されました。
 物理的または学年によるクラス間の壁をなくし、教師チームは生徒一人ひとりに合わせたプログラムを話し合い、グループ指導、1対1の指導、小グループでの指導など、チームで合意したさまざまな形態で授業が展開され、時には100人以上の生徒の大きなグループ指導が行われることもあったということです。これらは、一見混沌としているように見えても、綿密に計画され実行されたものです。
 ジョンズ・ホプキンス大学の調査によると、チームで働いた教師は仕事への満足度が高くなり、同僚との共同作業がより頻繁に行われ、生徒との交流がより肯定的に捉えられるようになったということです。チームのもう一つの利点として、互いに助け合って指導を改善できることだという教師の声も紹介されていました。
 また、生徒の成績についても、チームアプローチを導入してから出席率が高くなり、単位の取得にも改善が見られるようになったということです。
 こうしたことから、「チーム担任制」が教師の士気の低下を逆転させるのに役立つ可能性があると受け止められ、この形態が学区82校のうち3分の1に拡大するに至ったということです。
 他方、この方法が誰にでも向いているわけではないことも指摘しています。教師の中には一人で働きたいと思っている人もいること、スケジュール調整が大変になること、135人の生徒の成績を4人の教師でどう評価するかなどの問題が挙げられていました。
 この記事には学生の声も紹介されていました。中学校時代、チームもなく教師も足りず、途中で教師が辞め、代用教師が次々と代わり「何をやってもうまくいかない」と思っていた学生が、多くの教師がいる今の形態になって特別な配慮を受けられ、この仕組みの良さを感じているという内容でした。また、教師が常に4人いることで常に監視されているようにも思うが、チームの良さはそれに勝るという受け止めも記されていました。
 1事例にすぎませんが、この報告からも「チーム担任制」には、教師にとっても生徒にとっても一人担任では得られない、きめ細やかに対応できる良さがあることが読み取れました。詳しくは記事を参照していただきたいと思います。

まとめ インクルーシブ教育の視点からチーム担任性を考える

 欧米各国の小中学校段階では、インクルーシブ教育を真正面に据えて、1学級の少人数化、複数担任制などの対応が進んでいます。我が国の状況は、「基本的な方向性としては、障害のある子どもと障害のない子どもが、できるだけ同じ場で共に学ぶことを目指すべきである」とされているものの、「教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備することが重要」ということから、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、「多様な学びの場」を用意しておくことが必要であるとされています。しかしながら、現実にはさまざまな障害種や障害の程度が異なった児童生徒が小・中学校の通常の学級に在籍するようになってきています。通常の学級の指導体制や学級規模などの環境整備が進んでいるとは言い難い状況の中で、各地域や学校ではさまざまな知恵を出して努力や工夫を重ねてきています。ところが、令和4年4月27日の文部科学省通知に見られるように(*14)、現行制度に則っていないと見なされるケースについては是正が求められるという事態も発生してしまいます。
 「チーム担任制」については、義務標準法に基づいて配置された教員定数の中で、自治体や学校が現場の状況に合わせて導入することが可能です。「チーム担任制」そのものについての法的根拠はありません。
 「チーム担任制」のメリットに見られる「複数の目で子どもを見守る」という視点は、現状への緊急対応というだけでなく、インクルーシブ教育の推進という観点からも注目に値します。
 一方、「複数の目で子どもを見守る」ための取り組みについては、学級担任以外に特別支援教育支援員などさまざまなスタッフが関わるようになっていることもしっかり押さえておく必要があります。支援が必要な児童生徒への支援について責任を負っているのは、あくまでも学級担任等であり、その補助をすることが支援員等の基本的な役割です。「チーム担任制」のデメリットとして「責任の所在が曖昧になる」不安が挙げられていました。「チーム担任制」になった場合、これまで以上に「複数の目で子どもを見守る」ことが可能になるわけですが、支援が必要な児童生徒に対して誰が責任を持って対応するのか、情報共有をどのように図っていくのかなどの方策を講じておかなければならないということになります。
 多様な子どもに対して一人ひとりに適切な指導をしていくためには、根本的な教員配置のあり方についても検討されていかなければなりませんが、働き方改革の側面だけでなく、「誰一人取り残さない」という視点からも「チーム担任制」の検討を深めていっていくことが期待されます。

*1:文部科学省「全国の学校における働き方改革事例集(令和5年3月)」
https://www.mext.go.jp/content/20230320-mxt_syoto01-000028353_1.pdf
*2:AERAdot「「チーム担任制」導入の小学校 時短実現、「授業内容わかりやすい」と子どもたちからも好評の理由」
https://dot.asahi.com/articles/-/234797
*3:産経新聞「先生1人の〝学級王国〟変化 「チーム担任制」拡大、負担軽減や子供見守りに効果」
https://www.sankei.com/article/20240519-6JXV7MTTHVMRNJAMKM2QWQA64Q/
*4:東京新聞「担任の先生を複数にしたら…導入した杉並でわかったメリットは? 小中学校で広がる「チーム担任制」」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/344021
*5:VIEW next ONLINE「市内全校に「チーム担任制」を導入 業務の分担を図り、教員が学び合う環境を築く」
https://view-next.benesse.jp/view_section/bkn-board/article13382/
*6:神戸ジャーナル「学級担任を固定しない『チーム担任制』の2024年度「モデル実施校」が決定・実施開始へ。5校が新たに追加」
https://kobe-journal.com/archives/5468629282.html
*7:岡山 NEWS WEB「津山の全小学校に「学年担任制」 クラスを複数教員が受け持つ」
https://www3.nhk.or.jp/lnews/okayama/20240408/4020019993.html
*8:MBC南日本放送「「担任の先生は4人」1クラス1人の担任制を廃止した小学校 教師の働き方改革は「チーム担任制」子どもたちの評価は」
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/mbc/1232381
*9:RKBオンライン「クラス担任は「複数の教員がチームで」 従来の「担任固定制」から移行した中学校 「勇気をもってチャレンジした」」
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/rkb/1277183
*10:北海道新聞「チーム担任制、双方に利点 1学年を複数で指導、旭川中導入2年目」
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/931529/
*11:産経WEST[先生1人の〝学級王国〟変化 「チーム担任制」拡大、負担軽減や子供見守りに効果]」
https://www.sankei.com/article/20240519-6JXV7MTTHVMRNJAMKM2QWQA64Q/
*12:SBSnews「校内に自分のことを分かってくれる大人がいるのは安心感につながる」クラスを複数教員を受け持つメリット「チーム担任制」静岡市の小学校で試行【現場から、】
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/sbs/1434970
*13:Morton, N. In 1 classroom, 4 teachers manage 135 kids — and love it. : The Hechinger Report
https://apnews.com/article/science-education-arizona-teaching-20d634aa0e8f6af162c57db6e95f5547
*14:文部科学省「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について(通知)」
https://www.mext.go.jp/content/20220428-mxt_tokubetu01-100002908_1.pdf