学び!と共生社会
学び!と共生社会

1.はじめに
ちょうど1年前の「学び!と共生社会<Vol.48>(2024.01.25)」(*1)及び「学び!と共生社会<Vol.49>(2024.02.29)」(*2)で、障害がある人の雇用や就労を話題にしました。そこでは、障害者雇用の枠組みとして、共生社会の実現の理念の下、障害のある方が安定して働き続けることをめざして「障害者の雇用の促進等に関する法律」が制定され、そのうえで、雇用を促進するための方策の一つとして「法定雇用率」が定められていることを確認しました。その「法定雇用率」が引き上げられるということから、障害がある人の雇用について、企業の責任がより問われるようになってきていることを紹介しました。
本号では、学校全体の就学者数が減少しているにもかかわらず、特別支援学校在籍者数が増え続けているという昨今の傾向を鑑みて、特別支援学校卒業者に焦点を当てて、就労や雇用の実態についてソーシャルインクルージョンと関連づけて考察することにしました。
2.近年の特別支援学校卒業生の動向
近年の特別支援教育の動向において何よりも特徴的なのは、特別支援教育を選択する保護者や当事者が増大してきていることです。特別支援教育元年と言われる2007年度の幼小中高の在籍者数は、
令和6年度(2024) |
平成19年度(2007) |
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学校数 |
総数 |
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学校数 |
計 |
幼稚園 |
8,837 |
841,824 |
幼稚園 |
13,835 |
1,726,520 |
幼保連携型認定 |
6,982 |
843,280 |
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小学校 |
18,980 |
6,049,685 |
小学校 |
22,878 |
7,187,417 |
中学校 |
9,944 |
3,177,508 |
中学校 |
10,992 |
3,601,527 |
義務教育学校 |
207 |
76,045 |
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高等学校 |
4,791 |
2,918,501 |
高等学校 |
5,385 |
3,494,513 |
中等教育学校 |
57 |
33,817 |
中等教育学校 |
27 |
11,648 |
小計 |
49,798 |
13,940,660 |
小計 |
53,117 |
16,021,625 |
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特別支援学校 |
1,178 |
151,362 |
特殊教育諸学校 |
1,006 |
104,592 |
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(盲学校) |
(71) |
(3,688) |
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(聾学校) |
(104) |
(6,544) |
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(養護学校) |
(831) |
(94,360) |
文部科学統計要覧(令和6年版)および文部統計要覧(平成19年版)
3.特別支援学校卒業者の就労の現状
特別支援学校在籍者の増加は、より多くの福祉的サービスを必要とする人が社会へ送り出されていくことに他なりません。ソーシャルインクルージョンという観点から見ると、特別支援学校での生涯を見据えた指導や就労支援対策がますます重要になってきますし、受け入れる社会の側においてもさまざまな配慮や意識改革が求められてくることになります。
それでは、現状の就労支援はどのようになっているのでしょうか。厚生労働省がまとめた2023年度の報告書をもとに整理してみたいと思います(*4)。
出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001281177.pdf
)
図には、報告書に掲載されている就労支援施策の対象者と進路の流れが示されています。まず、障害者数ですが、厚生労働省の推計(*4)によると、2022年の総数が約1,160万人となっています。在宅障害者数は約610万人で、そのうち18歳から64歳の在宅者数は約480万人とされています。全体に対するその割合は41.3%になります。
特別支援学校卒業生の進路先を見ると、こちらは2023(令和5)年3月の文部科学省学校基本調査のデータに基づいていると思われますが(*5)、卒業者は21,023人でした。その内訳は、一般企業等への就職が6,165人、大学・専修学校への進学が712人、障害福祉サービスが12,968人(そのうち就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型等の就労系障害福祉サービスが7,199人)となっていました。これを整理すると以下の図のようになります。
このデータからは、特別支援学校を卒業後、障害福祉サービスを受けている人が約62%を占め、圧倒的に多いことがわかります。また、一般企業にも約29%就職していますが、この中には特例子会社が含まれています。データは示されていませんが、特例子会社への就職は少なくないと思われます。
障害福祉サービスや特例子会社については、障害者の教育や福祉、労働に関わっている人にはよく理解されていますが、一般には聞き慣れない言葉だと思います。そこで、以下に障害者雇用の形態と特例子会社について簡単に紹介しておきます。
(1)「一般雇用」と「障害者雇用」
障がいのある人の雇用形態は、「一般雇用枠」と「障害雇用枠」の2つがあります。
障害者雇用について詳しく知るためには、関連するガイドブックが各地の自治体や関連企業などから発行されています。詳細はそうした資料でご確認ください。それらの多くは専門的で親しみやすいとは言えないのですが、豊島区が発行している「障害のある方が働くためのガイドブック」(*6)は、誰にでもわかりやすいように平易な文章でまとめられています。
(2)就労障害福祉サービスについて
障害福祉サービスは、個々の障害のある人々の障害程度や勘案すべき事項(社会活動や介護者、居住等の状況)を踏まえ、個別に支給決定が行われるものです。この中に就労系障害福祉サービスが含まれます。
障害者総合支援法における就労系障害福祉サービスとして、就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型、就労定着支援の4種類のサービスがあります(*7)。
就労を希望する障害者であって、一般企業に雇用されることが可能と見込まれる者に対して、一定期間就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を行います。
一般企業に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が可能である者に対して、雇用契約の締結等による就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供を行います。
一般企業に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が困難である者に対して、就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供を行います。
これは、就労移行支援等を利用して、一般企業に新たに雇用された障害者を対象とするもので、対象が上記3つの支援とは異なっています。雇用に伴う生じる日常生活又は社会生活を営む上でのさまざまな問題に関する相談、指導及び助言等の必要な支援を行います。
なお、就労継続支援A型、就労継続支援B型では、工賃(賃金)が支払われます。2022(令和4)年度の平均工賃は表に示したとおりです(*8)。工賃が低いことに驚かされますが、一般就労における賃金とは性格を異にするものであること理解しておく必要があります。
出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001281180.pdf
)
(3)特例子会社
特例子会社とは、「障害者の雇用の促進及び安定を図るため、事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社」で、厚生労働大臣から認定を受けた会社を指します、厚生労働省の資料では次のように説明されています(*9)。
障害者雇用率制度においては、障害者の雇用機会の確保(法定雇用率=2.5%)は個々の事業主(企業)ごとに義務づけられている。
一方、障害者の雇用の促進及び安定を図るため、事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立し、一定の要件を満たす場合には、特例としてその子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなして、実雇用率を算定できることとしている。
また、特例子会社を持つ親会社については、関係する子会社も含め、企業グループによる実雇用率算定を可能としている。
特例子会社は、企業が障害者の雇用の促進及び安定を図り、法定雇用率を達成するためには大変有用な仕組みだと言えます。また、働く側からとらえても、障害者枠雇用と比べて、職場環境の整備やサポート体制などの面で、より障害に応じた配慮が受けられ、出退勤時刻、休暇・休憩等についても体調や通院に合わせた配慮が求めやすいなどの利点があると言えます。他方、待遇面で一般雇用とは異なっていること、業務内容が障害特性等を考慮して負担が軽減される反面、職種が限定されるなどの制約もあります。法定雇用率を達成することを主眼に特例子会社を設けていて、障害者を囲い込んで、一般の従業員と接する機会を奪っている場合などは、ソーシャルインクルージョンの観点から問題がないわけではありません。
4.特別支援学校卒業者の就労とソーシャルインクルージョン
これまで示してきたことから、特別支援学校卒業者の進路として、障害福祉サービスの利用が圧倒的に多く、また、一般企業では特定子会社への就職の割合が大きいことが理解できると思います。
特別支援学校卒業者の主な進路先である障害福祉サービス(就労継続支援A型事業所及び就労継続支援B型事業所)や特例子会社は、障害者の雇用の場の提供ということでは、現実的に有用な役割を果たしていると言えます。厚生労働省の資料でも、「①特別支援学校から一般企業への就職が約29.3%、就労系障害福祉サービスの利用が約34.2%、②就労系障害福祉サービスから一般企業への就職は年々増加し、令和4年は約2.4万人が一般就労への移行を実現」とその実績を誇っています。
しかし、障害者の社会生活のあるべき姿として障害者の権利に関する条約の第19条には、次のような記述があります(*10)。
「この条約の締約国は、全ての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を有することを認めるものとし、障害者がこの権利を完全に享受し、並びに地域社会に完全に包容され、及び参加することを容易にするための効果的かつ適当な措置をとる。」
この条文の理念に則ると、現状には課題が多いことも見えてきます。
国連委員会による障害者権利条約第27条(労働及び雇用)に対する日本政府への総括所見では、「就労移行、就労継続A・B型といった障害福祉サービスとして提供されている現状は、隔離、低賃金といった問題があり、一般就労への移行が制限されている」という懸念を示し、「障害福祉サービスとして提供されている就労の場から一般就労への移行を加速させる努力を強化する」ことを勧告しています。
障害福祉サービス(就労継続支援A型事業所及び就労継続支援B型事業所)が、「一般就労」という最終ゴールにつながるプロセスの一過程として、本当に位置付けられているかということが問われているように思われます。このことは、特例子会社での対応にもつながっているところがあります。
指導者が利用者を指導する建付けになっている就労継続支援サービスや親会社との関係が希薄で「一般就労」への道筋がないがしろにされているようにもとらえられかねない特例子会社のままであっては、「ソーシャルインクルージョン」への道のりは厳しいと言わざるを得ません。
「全ての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を有することを認めるものとし、障害者が、この権利を完全に享受し、並びに地域社会に完全に包容され、及び参加することを容易にするための効果的かつ適当な措置」につなげていくことを念頭に置いて、より「社会モデル」に依拠した地道な変革が求められているように思います。
5.新たな動き(1) 「ソーシャルファーム(社会的企業)」の創設
特別支援学校卒業者の就労という観点から現状をとらえてきましたが、障害者権利条約の理念には程遠い課題点も見えてきました。こうした中でこれまでにない道を開発しようとする動きも出てきています。
一つは、ソーシャルファーム(社会的企業)という新たな仕組みの創設です。
これは、「福祉的就労と一般就労の間には大きなハードルがあり、一般就労を希望する障害者は多いものの、社会福祉施設から一般企業への就職は難しい」ことから「一般就労でも福祉的就労でもない、第三の雇用の場」として「企業的経営手法を用い、税金の負担も少なく、障害者を含む就業困難者を多数(3割以上)雇用することが特徴とされている」新たな仕組みということになります(*11)。
東京都では、すでにこの取り組みがスタートしています。その取り組みの基本的な考え方が、『新ノーマライゼーション』2023年2月号に掲載されています。そこには取り組みの主旨が以下のように記されています(*12)。
東京都では、就労を希望する誰もが個性や能力を発揮し活躍する場として、ソーシャルファームの取り組みを進めています。ソーシャルファームとは、「一般的な企業と同様に自律的な経済活動を行いながら、就労に困難を抱える方が、必要なサポートを受け、他の従業員と共に働いている社会的企業」です。東京都が全国に先駆けて条例を制定し、取り組みを進めています。
ソーシャルファームは、1970年代にイタリアで誕生しました。イタリア国内の精神病院の廃止に伴い、患者の方々が通院治療しながら就労する場として設立されたことが始まりです。精神障害者雇用から始まったソーシャルファームは、各国の社会事情を背景に、雇用対象者も拡大しながら、国を超えて広がっています。現在ではヨーロッパ全体で約1万社、韓国に3千社が存在しています。
(中略)
東京都は、ソーシャルファームの創設及び活動を支援するため、支援対象となる事業所を認証しています。その要件は三つあります。
一つ目は、事業からの収入を主たる財源として運営することです。事業収入により主な収益を上げて、自律的かつ持続的な運営をしていくことです。
二つ目は、就労困難者と認められる者を相当数雇用することです。「就労困難者と認められる者」とは、就労を希望しながら、心身の障害をはじめ社会的、経済的その他の事由により就労することが困難である者であり、東京都の認証審査会で、支援が必要であると認められた方をいいます。これまで、認証審査会で就労困難者として認められた方は、発達障害がある方、刑務所出所者の方、元引きこもりの方、障害のあるお子さんを育児中の方などです。また、「相当数雇用すること」とは、認証基準で「就労困難者と認められる者を従業員総数の20%以上かつ最低3人以上雇用していること」となっています。
三つ目は、就労困難者と認められる者が他の従業員と共に働いていることです。福祉作業所のように、指導者と指導を受ける人という関係ではなく、同僚として一緒に働くことです。
「個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導」を重視した特別支援学校という場から、障害がある人が多数を占め、指導されるという学校教育と変わらない環境に移行しただけでは、確かに「ともに働く」、「社会の中で生きる」という意識は芽生えにくく、自立できていても自律性は発揮しにくいのではないかと思われます。可能な限り、一般の社会に近い環境を提供しようとする「ソーシャルファーム」の今後の進展に期待したいと思います。
6.新たな動き(2) IBMの企業理念を知る
新たな動きということではなく、これまで寡聞にして知らなかっただけのことなのですが、IBMでは、障害のある⽅を「PwDA」(「People with Diverse Abilities」の略)と呼んでいて、PwD(People with Disabilities)とは呼ばないということです。障害(Disabilities)ではなく、多様な能⼒(Diverse Abilities)にフォーカスしているからです。
私は、鳥居由起子氏の報告からこのことを知りました(*13)。以下は、その報告の要約になります。
PwDA社員は、「PwDA Community」に支えられていて、そこには、Communityの⽬指すものを応援する社員(アライ)が入っています。PwDA社員とアライが、お互いに良い影響を与え合えるコミュニティになっているということです。
このIBMの取り組みや背景の詳細については原典に当たっていただきたいのですが、このCorporate Policy Letter117は、70年以上にわたるIBMのダイバーシティ&インクルージョンの礎となっていて、特例⼦会社はつくらず、社内のさまざまな組織でPwDAが活躍しているということです。
特例子会社をつくって、障害がある人を分離するのではなく、「誰もが⾃分らしく働き、輝ける職場環境がIBMにはあるべきで、社内のさまざまな組織にPwDAを配置している」そうです。
加えて、PwDAに関して以下の3つの大きな活動が展開されています。
一つ目は、「PwDA Community」、このコミュニティは定期的にお話会を開催して、PwDAのことを知ったり、PwDA社員と一緒に働くことについて考えたりしている。
二つ目は、「ACE(Accessibility Consortium of Enterprises)」。日本語では、一般社団法人企業アクセシビリティ・コンソーシアム。2013年9月、「障がい者雇用の新しいモデル確立」を目指し、業種・業態を超えて志を一つにする大手企業20数社が集まり設立した団体。人事担当者や障がいのある社員向けセミナー、ワークショップ開催、教育冊子発行などを通じ、当事者への啓発活動、ロールモデル輩出、経営者や社会への提言を実施している。
三つ目は、2014年から始めた「Access Blue Program」。これは障害のある⽅を対象にした6カ月間の「有給インターンシップ・プログラム」。お金をもらって働きながら、ビジネス・ITスキルの基礎を⾝につけてもらうことができる。
また、PwDA社員への合理的配慮は行うが、特別扱いはしないということで、合理的配慮として、情報保障ツールの貸与、手話通訳、要約筆記、自家用車・事業所駐車場の利用許可、事業所バリアフリー整備など、身体の障害で不利が生じないように環境を整えているということです。障害のある社員が安全に勤務できるよう事業所内をツアー(チェック)し、問題があれば改善する取り組み「BUILDING ACCOMMODATION ASSESSMENT TOUR(BAAT)」や入社・異動・新規障害登録のタイミングで「障がいのある社員のための緊急避難安全チェックリスト」を詳細に作成し、緊急時の避難に備えたりもしているということです。
鳥居さんは、「私たちはPwDAへの合理的配慮は行いますが、特別扱いはしません。それがIBMらしいチャレンジであると考えています。」とこの報告の最後で述べています。
このセミナーを企画した古野庸一(組織行動研究所 所長)氏は、「最も伝えたい話としては、誰もがそれぞれの事情があり、誰もが違う能力や価値観をもっており、それらに配慮していくことで、組織としての能力を高めていくことになるということです。日本IBMでは、そのことを創業時から意識しており、それぞれの人が持っている能力や価値観を認め、それを生かした経営を行っているということです。そのことを今でも徹底し、インターンシップを開催し、障害者にもその可能性を拓く支援をしていることにあらためて感銘を受けました。」と記しています。
それぞれの人が持っている能力や価値観を受け止めて、それを経営に活かしていくという理念は、障害の有無など本質的でない価値観に拘泥している人間や組織の愚かさをさらしだしてくれています。こうした姿勢が真の豊かさを導いてくれるように思います。
7.まとめ
本稿では、特別支援学校卒業者の就労や雇用の実態についてソーシャルインクルージョンと関連付けて検討しました。
特に、学齢段階の児童生徒数が減少している中で、特別支援学校在籍者が依然と増え続けています、その背景については、本稿の課題ではないので言及しませんでしたが、特別支援学校を経て社会に出ていく児童生徒数は確実に増えていきます。そして多くの生徒は、障害福祉サービスや一般企業の特例子会社に就職していくと想定されますが、そうした事業所数も増え続けています。2023度5のデータを見ると、就労継続支援(A型)事業所は4,678で、前年比247増。就労継続支援(B型)事業所は16,713で前年比1,125増となっています(*14)。特例子会社についても、令和5年6月1日現在で認定を受けている企業は598社(前年より19社増)で、雇用されている障害者の数は、46,848.0人(前年は43,857.0人)となっています(*15)。
このように、就労継続支援事業所や特例子会社は、特別支援学校を卒業した人の受け皿としてなくてはならない存在になっています。
こうした事業所や企業の多くが、さまざまな努力や工夫をして障害がある人のキャリア形成や就労支援に努めていることも承知しています。しかしながら、「障害者と健常者が共に学び、働き、生活することを目指し、すべての人が尊重しあい共生できる社会」の創生という観点からすると、十分とは言えない環境にあることは否めません。また、特例子会社についても「民間企業による一般就労の形態をとりつつも,障害者が一般の職場から隔離されている 『シェルター』の性質が内包され」ており、それが主目的と思われても仕方のないようなケースもないわけではありません(*16)。
そうした中で、よりインクルーシブな取り組みをしている事例も取り上げました。東京都が取り組んでいる「ソーシャルファーム」は、障害者だけを囲い込むことなく、障害者の就労を支えようとしており、今後の発展と広がりが期待されます。また、IBMの「障害がある人を分離するのではなく、「誰もが⾃分らしく働き、輝ける職場環境」を追求している企業理念は、どの企業でも容易に導入できるものではありませんが、その気になればできるということ、そしてそれが企業のメリットにもつながっているということを示してくれています。
特別支援学校卒業者は、しばらく増え続けていきます。一人の市民として、開かれた社会の中で、より生き生きと働き、生活できるよう、現在の環境を見つめなおしていきたいものです。
*1:「学び!と共生社会<Vol.48>(2024.01.25)」
障害者の雇用の促進と共生社会
https://www.nichibun-g.co.jp/data/web-magazine/manabito/inclusive/inclusive048/
*2:「学び!と共生社会<Vol.49>(2024.02.29)」
障害がある生徒の就労と「自立」
https://www.nichibun-g.co.jp/data/web-magazine/manabito/inclusive/inclusive049/
*3:文部科学統計要覧(令和6年版)および文部統計要覧(平成19年版)
令和6年版
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/002/002b/1417059_00009.htm
平成19年版
https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11293659/www.mext.go.jp/b_menu/toukei/002/002b/mokuji19.htm
*4:障害者の就労支援対策の状況
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/service/shurou.html
*5:文部科学省 学校基本調査 / 令和5年度 初等中等教育機関・専修学校・各種学校 卒業後の状況調査 卒業後の状況調査票(特別支援学校 高等部)
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00400001&tstat=000001011528&cycle=0&tclass1=000001212520&tclass2=000001212521&tclass3=000001212535&tclass4=000001212701&stat_infid=000040128497&tclass5val=0
*6:障害のある方が働くためのガイドブック
https://www.city.toshima.lg.jp/172/kenko/shogai/documents/guidebook.pdf
*7:障害福祉サービスについて
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/service/naiyou.html
*8:令和4年度工賃(賃金)の実績について
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001220331.pdf
*9:「特例子会社」制度の概要
https://www.mhlw.go.jp/content/001027591.pdf
*10:外務省 障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html
*11:新しい障害者の就業のあり方としての ソーシャルファームについての研究調査
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/cyousajigyou/dl/seikabutsu17-3.pdf
*12:多様性は可能性~東京都におけるソーシャルファームの推進
『新ノーマライゼーション』2023年2月号
https://www.dinf.ne.jp/d/6/239.html
*13:鳥居 由起子「IBMのDiversity & Inclusion~PwDA雇用について」
組織行動研究所セミナー開催報告「障害者雇用・就労から考えるインクルージョン 障害のある人と共に働くことから見えてくるもの」所収
https://www.recruit-ms.co.jp/issue/column/0000001254/
*14:厚生労働省 令和5年社会福祉施設等調査の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/fukushi/23/dl/gaikyo.pdf
*15:厚生労働省 令和5年 障害者雇用状況の集計結果
https://www.mhlw.go.jp/content/001186355.pdf
*16:伊藤修毅「障害者雇用における特例子会社制度の現代的課題─全国実態調査から─」
『立命館産業社会論集』第47巻第4号 2012年3月
https://www.ritsumei.ac.jp/ss/sansharonshu/assets/file/2011/47-4_02-08.pdf