学び!と人権

2026.05.07 <Vol.29>

連載の再開にあたって

森 実(もり・みのる)

連載の再開にあたって

 2024(令和6)年11月を最後に、1年半ほどにわたってこの連載を休ませていただきました。日本文教出版には、連載の再開を待ち望む声が届いているとのことです。ありがたいことです。
 この間、人権教育をめぐって大きな変化がありました。いくつかの出来事を紹介し、この連載再開への導入としたいと思います。
 ひとつは、2025年6月6日に「人権教育・啓発に関する基本計画(第二次)」(以下、「第二次基本計画」、全64頁)が閣議決定され、公表されたことです。第二次基本計画の大きな特徴は、個別人権課題に関する記述が大幅に増えたことです。2002(平成14)年に出された「人権教育・啓発に関する基本計画」(以下、「第一次基本計画」、全45頁)では、個別人権課題に関する記述が文書全体の半分以下だったのですが、第二次基本計画では約3分の2を占めています。また、すべての人が人権の保持者であるということを大切にして人権教育を進めるべきだということも強調されています。
 「第二次基本計画」を受けて、文部科学省では、2008年の「人権教育の指導方法の在り方について(第三次とりまとめ)」を改訂して、新しい基本方針を策定する取り組みが始まろうとしています。すでにこの連載でもお伝えしたとおりですが、2022年には『生徒指導提要(改訂版)』が改訂され、人権と人権教育に重なる内容が大幅に取り入れられています。
 このように、人権教育の推進に向けて、新しい動きがさまざまに生まれています。
 一方で、ヘイトスピーチやヘイトデモなどが各地で発生していると報じられています。そのひとつが、埼玉県川口市などにおけるクルド人に対するヘイトです。神奈川県川崎市で在日コリアンに対してヘイトを繰り返していた人たちがいました。2019年に同市で「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」が制定されました。そのなかに刑事罰も位置づけられていました。「市長の命令に違反した者は、500,000円以下の罰金に処する」(第23条)、「行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、同条の刑を科する」(第24条1)などです。こうした動きを受けて、川崎市で活動していた排外主義的な団体が、川口市などにおいても活動していると指摘されています。このことが示しているのは、条例や法律できちんと対処する体制を組めば、ヘイトを抑える効果があるということです。同時に示しているのは、ヘイトスピーチやヘイトデモを禁止する全国で一律の法律を制定すれば、全国的にヘイトスピーチやヘイトデモを抑えられる可能性があるということです。そのような法律がない現在では、条例のない地域などに排外主義的な団体が行く恐れがあるということでもあります。2016年に制定・施行された「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(ヘイトスピーチ解消法)は、法的処罰を含んでいません。そのため、クルドの人たちへのヘイトスピーチなどがなくならないのです。制定後10年になろうとしていますが、どれほど実効性があるのか疑問を投げかける声が出ています。

差別禁止条例の全面施行を周知するポスター(神奈川県川崎市)

 もうひとつ、少し前のことになりますが、障害者問題に関連して、2022年9月に国連障害者権利委員会が日本政府に対して総括所見を届け、日本のさまざまな障害者問題への取り組みが問題を含んでいることを指摘しました。特に注目されているのは、日本政府が2022年3月に出した「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について(通知)」という文書に対して「特別支援学級に関する政府の通知を撤回すること」、「通常教育の教員及び教員以外の教職員に、障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に関する研修を確保し、障害の人権モデルに関する意識を向上させること」を求めている点です。「障害の人権モデル」については、本連載の2022年8月の第15回でも触れました。その後、「障害の人権モデル」については、新しい指摘もあります。国連障害者権利委員会からの総括所見については、今後また触れることにしたいと思います。
 ほかにも述べるべき点はありますが、今回は連載の再開を報告することが第一の目的です。今後とも、よろしくお願いします。

【参考・引用文献】

  • 法務省ウェブサイト
  • 文部科学省ウェブサイト
  • e-GOV 法令検索
  • 日本文教出版株式会社ウェブマガジン「学び!と人権」 第15回 障害者の人権と教育(その3)「個人モデル」と「社会モデル」を考える
  • 共同通信社