学び!と人権
2026.10.05 <Vol.34>
「障害の人権モデル」とは何か?(その5)
「治療モデル」「慈善モデル」「人権モデル」
「人権モデル」が登場して、それまでの「個人モデル」と「社会モデル」から、「治療モデル」「慈善モデル」「人権モデル」という三つのモデルが中心に置かれるようになりました。「慈善モデル」と「人権モデル」のあいだに「社会モデル」が置かれる場合もあります。ただ、前回も紹介したように、国連障害者権利委員会では「社会モデル」という言葉を用いなくなりました。
デグナーさんは2018年の「インクルーシブな平等をめざして:障害者権利委員会の10年」という論考でも人権モデルの説明をしているのですが、そのなかで「慈善モデル(charity model)」という言葉も使っていました。オーストラリアの障害擁護資料局(Disability Advocacy Resource Unit=DARU)は、ウェブサイトのなかで「なぜ医学的障害モデルと慈善的障害モデルは人権と矛盾するのか?」というタイトルの下、それをさらに押し広げて論じていました。DARUは、モデルを4種類あげてそれぞれについて次のように簡単に説明しています。
医療モデル ― 障害者を不完全な(broken)存在ととらえ、主流社会に適合できないとみなす。
慈善モデル ― 障害者を脆弱(vulnerable)で、何かをするときに健常者に頼るものとみなす。
社会モデル ― 障害者が経験する制約は、主流社会の利用しにくい制度や手続きの結果だと主張する。
人権モデル ― 障害者にも社会の他のすべての人と同じ権利があり、世界中の政府はこれらの権利を守る役割を担っていると主張する。
その上で、医療モデルや慈善モデルの問題点を次のように指摘しています。
医療モデルの問題点
医療モデルは、純粋にその人の障害に焦点を当て、障害者を問題と見なします。それは、アクセスやインクルージョンを制限する上で社会が果たす役割を認めません。
医療モデルは、人権に危険な影響を与える二つの前提に基づいています。第1に、障害者は「正常」と考えられている範囲内の仕事をこなすことができないとみなすことです。この前提が、以下のような歴史的な政策を支えてきました。
- 障害者を施設に収容する
- 障害児を特別支援学校に通わせる
- 障害者を保護された作業所でのみ雇用する
第2に、誰かの権利を制限したり否定したりするための口実として、障害があるという理由を使います。障害者は自分の人生に関する重要な決定を下すことができないと考えます。このような前提に立って、以下のような歴史的政策を支えてきました。
- 障害をもつ女性や少女の強制不妊手術
- 障害に対する無能力アプローチをとる精神衛生法や後見法の制定(原注4,5)
【原注】
(4) Degener, T (2014) ‘A Human Rights Model of Disability’, from: Routledge Handbook of Disability Law and Human Rights
(5) Degener, T. (2016) Disability in a Human Rights Context
慈善モデルの問題点
慈善モデルは、医療モデルと同様の原則に基づいています。これは、障害者に支援を提供することを目的とした慈善団体の出現から発展したものです。多くの慈善団体が重要な支援を提供してきたし、今も提供していますが、慈善モデルは、以下のように障害者の権利を損なうものです。
- 障害者を他者に依存し、自分で何かをすることができない存在として描く。
- 障害者の意見を価値あるもの、不可欠なものとして認識しない。
- 社会が障害者のアクセスを制限していることを認識しない。
- 政府が支援する義務のある権利として個人支援を認識するのではなく、障害者のためのサービスに資金を提供することを他者の善意に頼る。
エレベーターがないため、職員が市議会議員の車いすを抱えて議場まで上る(2019年、千葉県)全国では約半数以上の市町村議会において議場のバリアフリー化が進んでおらず、車いす利用の議員が支障なく移動できるよう段差等を解消している議会は約2割という。
このような整理から浮かび上がるのは、部落差別や女性差別など、他の問題への適用可能性です。ただ、他の問題に適用するには、言葉を換える方がやりやすいといえます。たとえば「治療モデル」というネーミングは、障害者問題では当てはめやすいかも知れませんが、他の差別問題ではあまり当てはまりません。また、障害者問題に限定して考えても、「治療モデル」という言い方と「慈善モデル」や「人権モデル」という言い方にはズレがあります。障害者問題に対応するには就労・福祉・教育・医療など様々な領域があります。「治療」というのは障害者問題に関わる数多くの対応の領域の一つを指しています。ところが「慈善」や「人権」というのは対応の領域の一つを指しているわけではありません。たとえば「人権モデル」のなかには就労権や教育権、移動権など様々な権利や領域があります。それらのなかに「医療を受ける権利」もありますから、「治療」も枠内に位置付いています。「慈善モデル」のなかにも、様々な他領域とともに、医療を施す慈善活動がありますから、「治療」も含まれるでしょう。「社会モデル」という言い方は、これまた「慈善モデル」や「人権モデル」とは異なり、原因を社会に求めるということですが、社会のなかのどこの領域に特に原因を求めるかということになると、医療だけではなく様々な領域があります。要するに、「治療モデル」は他のモデルを特徴付ける言葉と対応していないのです。この際、対応の仕方や原因の領域を示すのではなく、問題の捉え方や取り組みの方向性を端的に示す言葉に替えるべきです。そのようなわけで、モデルの名称を変える必要があると考えました。
他の問題への適用可能性
そこで浮かんできたのが、「自己責任モデル」「慈善モデル」「人権モデル」という三つのモデルとするアイデアです。モデルの名称をこの三つにすれば、障害者問題はもちろんなのですが、他の問題にもいっそう当てはめやすくなります。それ三つのモデルは、次のように対比することができます。
●自己責任モデル・・・・不利な立場や不利益な状況の原因や責任は個人(や家族)にある。
重要なのは、それを本人たちが努力して改善することだ。
●慈善モデル・・・・・・・・問題は、当事者と周りの接点にある。
周りの温かい関わりや思いやりによって解決すべきだ。
そのために、わたしも何かしてあげよう。
●人権モデル・・・・・・・・不利な立場や不利益な状況の原因や責任は社会の側にある。
被差別当事者自身の自己主張が重要である。
国際人権基準などに定める権利を保障する責任が国や社会にある。
●自己責任モデル
不利な立場や不利益な状況の原因や責任は個人(や家族)にある。
重要なのは、それを本人たちが努力して改善することだ。
●慈善モデル
問題は、当事者と周りの接点にある。
周りの温かい関わりや思いやりによって解決すべきだ。
そのために、わたしも何かしてあげよう。
●人権モデル
不利な立場や不利益な状況の原因や責任は社会の側にある。
被差別当事者自身の自己主張が重要である。
国際人権基準などに定める権利を保障する責任が国や社会にある。
このような言葉づかいであれば、部落差別であれ、女性差別であれ、在日外国人問題であれ、適用することができます。なお、ここでいう国際人権基準とは、障害者権利条約だけではなく、人種差別撤廃条約や女性差別撤廃条約など、国連などの定めた様々な人権条約などをさします。
人権モデルに立てば、「合理的配慮」の意味合いも整理できます。
合理的配慮の提供とは
- 日常生活・社会生活において提供されている設備やサービス等については、障害のない人は簡単に利用できても、障害のある人にとっては利用が難しく、結果として障害のある人の活動などが制限されてしまう場合があります。
- このような場合には、障害のある人の活動などを制限しているバリアを取り除く必要があります。このため、障害者差別解消法では、行政機関等や事業者に対して、障害のある人に対する「合理的配慮」の提供を求めています。
- 具体的には、
①行政機関等と事業者が、
とされています。
②その事務・事業を行うに当たり、
③個々の場面で、障害者から「社会的なバリアを取り除いてほしい」旨の意思の表明があった場合に
④その実施に伴う負担が過重でないときに
⑤社会的なバリアを取り除くために必要かつ合理的な配慮を講ずること- 合理的配慮の提供に当たっては、障害のある人と事業者等との間の「建設的対話」を通じて相互理解を深め、共に対応案を検討していくことが重要です(建設的対話を一方的に拒むことは合理的配慮の提供義務違反となる可能性もあるため注意が必要です)。
※「意思の表明」には、障害特性等により本人の意思表明が困難な場合に、障害者の家族や介助者など、コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含まれます。
※「合理的配慮の提供」に当たっては、障害のある人の性別、年齢、状態等に配慮するものとし、特に障害のある女性に対しては、障害に加えて女性であることも踏まえた配慮が求められることに留意する必要があります。(内閣府リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されました!」より)
シンプルにまとめると
●困りごとを解決していくために話し合いを通じて答えを見つけだしていくこと
●ポイントは
- 障害者の意見を聞く(まずは聞く:聞かずにやれば、親切のつもりが、ありがた迷惑になることもよくある)
- 個別のニーズに応える(困りごとは人それぞれ)
- 思いやりではない(障害者の声を受け止め社会の障壁をなくすこと)
●当事者の意見をよく聞き実現に向けて話し合い負担が重すぎない範囲で解決策を見つける
●すべての人に人権を保障し、公平にするための配慮であって、特別扱いなのではない
●一人ひとりの「人としての尊厳」を大切に生きていくにはどうあるべきかと考えることが原点
●合理的配慮を提供する側のNGワード
- もし何かあったらいけませんのでできません 安全のためできません
- 特別扱いはできません
- 前例がありません マニュアルがありません
ということになります。
以上、数回にわたって、障害をめぐるいくつかのモデルを論じてきました。わたしの周りで起こっている事柄を考えるうえで、これらのモデルには重要な意味があると感じ、考えています。読者のみなさんにとっても意味あるものとなれば幸いです。
【参考・引用文献】
- テレジア・デグナー「インクルーシブな平等をめざして:障害者権利委員会の10年」(2018年、公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会情報センターウェブサイト「障害保険福祉研究情報システム」)
- 「障害に関する医療モデルと慈善モデルは、なぜ人権と矛盾するのか?」(DARUウェブサイト、2019.1.31)
- 写真提供:朝日新聞社
【注】
(4) Degener, T (2014) ‘A Human Rights Model of Disability’, from: Routledge Handbook of Disability Law and Human Rights
(5) Degener, T. (2016) Disability in a Human Rights Context