学び!と美術
2026.09.10 <Vol.169>
学級担任に聞く「特別支援学級と通常の学級の図工の時間」 第3回:「自由にやってごらん」を成り立たせるには
特別支援学級と通常の学級の図工の時間。先生は何を見て、どのように働きかけながら、困っている子どもを支援しているのでしょうか。第3回は、イメージを広げていくための手立てや技能面の指導、評価について話をうかがいました。
第1回:支援の考え方は似ている
第2回:子どもも教師も見通しをもてるように
第3回:「自由にやってごらん」を成り立たせるには
「スタート地点」を変える
大谷:「自由に想像してつくる」活動の場合、すぐに想像が広がる子もいれば、時間が必要な子もいる。周りがどんどん進めているのに自分だけ進まないことに強いプレッシャーを感じる子もいるため、「いつスタートするか」「どこでそろえるか」を重視しています。「自由にやってごらん」という活動が成り立つためには、①イメージを膨らませる力、②それに見合う技能、③意欲という三つが欠かせません。まずは、個別あるいは全体で「想像を広げるだけの時間」を十分に取って、みんなのイメージが広がった状態になってからつくる活動をスタートするなど、学級の実態に合わせてタイミングを調整しています。
小坂:個別支援学級において抽象的な表現に難しさを感じる子どもが多い場合には、ある程度の条件をつけて取り組みます。例えば、5年生の個別支援学級で取り組んだ「美しく立つ針金」の時には「木」を表現するという前提のもと、そこから想像を膨らませていくようにしました。校外学習の体験と絡めながら「木はもしかしたら湖の中にあるかもしれないし、山にあるかもしれない」と投げかけて、場所の設定は子どもたちに委ねました。
――この題材ではペンチを使用しますが、個別支援学級において新しい用具の指導はどのように?
小坂:教科書のQRコンテンツをフル活用しています。なかでも「材料用具の使い方」動画は使いやすいです。ただ、動画は流れて消えてしまうため、重要なポイントの画像はスクリーンショットして黒板に貼っておき、子どもたちがいつでも使い方を見返せるようにしています。
グループ編成は、互いに見合って進められるグループをつくる一方で、丁寧な指導が必要な子どもたちでグループをつくり、そのグループにはサポートの先生に入ってもらいました。
――1年生ではいかがですか?
大谷:1年生の「ちょきちょきかざり」では、はさみやのりの使い方を手元でやって見せますが、テレビ画面に大きく表示された動画は子どもにとってよりわかりやすいようです。この題材では、特に技能面が心配であったため、あらかじめはさみやのりの使い方を練習する時間を設けました。実際の授業での活動中は「切りたい」「つくりたい」という熱量が高まっているため、そこに細かい技能指導を入れてしまうことで子どもの意欲を削がないようにするためです。
練習では、さまざまな太さの線やハート、丸などの形がかかれた画用紙を配って、「この子はどの線・形なら切れるのか」と一人ひとりの実態を見取っていきます。技能に不安がある子が多い場合、机は向かい合わせにせず、横並びの配置にしています。向かい合わせだと相手の手元が隠れてしまいますが、隣り合っていれば、隣の子がはさみを使っている様子を同じ方向から見て「こうやるのか」と自然に学べるためです。
事前に時間を設けたことで、当日は「はさみはこのお腹のところで切るんだよね」「のりを貼るときは周りからだよね」という共通認識のもとに進めることができ、いろいろな形をつくる活動を楽しむことができました。
ここを見ている
☑ 題材で大切にしたいことが子どもたちに伝わっているか。
☑ どのタイミングで全体の活動をスタートするか。
☑ 抽象的な表現に取り組みやすくするためにはどんな枠組みが必要か。
☑ 必要なタイミングで用具の使い方を確認できる環境か。
☑ 技能面の差をどのようになくしていくか。
「全体」と「個別」のめあてを設定
――個別支援学級における評価はどのように?
大谷:特性や技能の差によって、全体のめあてにたどり着くのが難しい子どももいます。学級全体で共有するめあてを持ちつつ、それとは別に個別のめあてを8人それぞれに設定しています。「○○さんはここをクリアできていればよい」という個別のゴールが明確になっているので「この部分は手伝ってあげよう」「ここは自分で取り組めるようにしよう」など、一人ひとりに合った具体的な支援の判断につながっています。
子どもに寄り添うときの最適な距離は、一人ひとり違います。それがわかった上で指導することが大切です。私自身は絵をかくことも好きではないし、作品づくりも苦手ですが、子どもたちに図画工作を指導するのは大好きです。
――時折、先生方から「絵がへたなので図工の授業を教える自信がありません」というお悩みが寄せられるのですが、それはとても勇気づけられるお話ですね。ありがとうございました。
◆1年生「たいせつボックス」(『ずがこうさく』1・2上p.36)の作品
大谷幸子(おおたに・さちこ)
横浜市立緑小学校 主幹教諭。緑小学校に異動してからは、個別支援学級の1年生を担当し、今年で8年目。子どもの特性を踏まえ、支援の手立てを考え、子どもの思いが広がるような材の研究を行っている。
小坂美月(こさか・みづき)
横浜市立緑小学校 教諭。3年間、個別支援学級を担当。昨年度から一般学級を担当する。材との出合いを大事にし、子どもの思いを引き出せるように日々の実践を通して研究している。









