学び!と美術

2026.09.10 <Vol.169>

学級担任に聞く「特別支援学級と通常の学級の図工の時間」 第3回:「自由にやってごらん」を成り立たせるには

横浜市立緑小学校 大谷幸子先生・小坂美月先生

学級担任に聞く「特別支援学級と通常の学級の図工の時間」 第3回:「自由にやってごらん」を成り立たせるには

特別支援学級と通常の学級の図工の時間。先生は何を見て、どのように働きかけながら、困っている子どもを支援しているのでしょうか。第3回は、イメージを広げていくための手立てや技能面の指導、評価について話をうかがいました。

第1回:支援の考え方は似ている
第2回:子どもも教師も見通しをもてるように
第3回:「自由にやってごらん」を成り立たせるには

枠組みを提示する

――例えば、1年生の立体「いっしょにおさんぽ」の場合、個別支援学級と一般学級それぞれの授業の展開はどのように?

『ずがこうさく』1・2上p.34-35

個別支援学級(大谷学級)では…

一般学級(小坂学級)では…

黒板に「○○(わたし)と○○が○○へおさんぽ」という枠組みを提示して、そこに何が入るかを子どもたちに問いかけました。

「○○が」に入るものは、子どもたちから虫や動物、魚などが出てきたので、そこからイメージを膨らませていきました。前年度は全員が何をつくるか決まるまで待って活動をスタートしていましたが、今年度は子どもたちの実態に合わせて早い段階でまずは「わたし(人)」をつくることを促し、ひねり出しの方法などを確認していきした。

活動中には子どもたちに「どこに行くの?」と尋ねました。「シロクマと北極に行く」と話してくれた子どもには、「北極に行ったらだれかいる?」「ペンギンがいる」といった対話を通じて、子ども自身がお話を広げながら粘土板の上に世界をつくっていくよう促しました。

この題材では「立たせること」が重要だと考えて、活動の前にまずはQRコンテンツの動画「ねんどたいそう」を取り入れました。みんなで粘土に触りながらひねり出しや土台にくっつける方法などを確認していきました。

教科書QRコンテンツ『ねんどたいそう』

その後に教科書の作品を見ながら「実はね、これ全部あるところのつくり方が似ているんだけど…?」と問いかけると子どもたちから「立たせる!」と出てきたので、「立たせる」というゴールを明確にしてからスタートしました。

実施時期は遠足の直後に設定し、何をつくるかイメージが湧かない子には、遠足の写真を見せることで活動に入りやすくしました。

「スタート地点」を変える

大谷:「自由に想像してつくる」活動の場合、すぐに想像が広がる子もいれば、時間が必要な子もいる。周りがどんどん進めているのに自分だけ進まないことに強いプレッシャーを感じる子もいるため、「いつスタートするか」「どこでそろえるか」を重視しています。「自由にやってごらん」という活動が成り立つためには、①イメージを膨らませる力、②それに見合う技能、③意欲という三つが欠かせません。まずは、個別あるいは全体で「想像を広げるだけの時間」を十分に取って、みんなのイメージが広がった状態になってからつくる活動をスタートするなど、学級の実態に合わせてタイミングを調整しています。

小坂:個別支援学級において抽象的な表現に難しさを感じる子どもが多い場合には、ある程度の条件をつけて取り組みます。例えば、5年生の個別支援学級で取り組んだ「美しく立つ針金」の時には「木」を表現するという前提のもと、そこから想像を膨らませていくようにしました。校外学習の体験と絡めながら「木はもしかしたら湖の中にあるかもしれないし、山にあるかもしれない」と投げかけて、場所の設定は子どもたちに委ねました。

『図画工作』5・6上p.26-27

――この題材ではペンチを使用しますが、個別支援学級において新しい用具の指導はどのように?

小坂:教科書のQRコンテンツをフル活用しています。なかでも「材料用具の使い方」動画は使いやすいです。ただ、動画は流れて消えてしまうため、重要なポイントの画像はスクリーンショットして黒板に貼っておき、子どもたちがいつでも使い方を見返せるようにしています。

グループ編成は、互いに見合って進められるグループをつくる一方で、丁寧な指導が必要な子どもたちでグループをつくり、そのグループにはサポートの先生に入ってもらいました。

QRコンテンツ 材料用具の使い方『ペンチ・ラジオペンチ 使い方』

――1年生ではいかがですか?

大谷:1年生の「ちょきちょきかざり」では、はさみやのりの使い方を手元でやって見せますが、テレビ画面に大きく表示された動画は子どもにとってよりわかりやすいようです。この題材では、特に技能面が心配であったため、あらかじめはさみやのりの使い方を練習する時間を設けました。実際の授業での活動中は「切りたい」「つくりたい」という熱量が高まっているため、そこに細かい技能指導を入れてしまうことで子どもの意欲を削がないようにするためです。

『ずがこうさく』1・2上p.14-15

練習では、さまざまな太さの線やハート、丸などの形がかかれた画用紙を配って、「この子はどの線・形なら切れるのか」と一人ひとりの実態を見取っていきます。技能に不安がある子が多い場合、机は向かい合わせにせず、横並びの配置にしています。向かい合わせだと相手の手元が隠れてしまいますが、隣り合っていれば、隣の子がはさみを使っている様子を同じ方向から見て「こうやるのか」と自然に学べるためです。

用具の使い方を確認する時間につくった作品を見ながら。写真左・大谷先生、写真右・小坂先生

事前に時間を設けたことで、当日は「はさみはこのお腹のところで切るんだよね」「のりを貼るときは周りからだよね」という共通認識のもとに進めることができ、いろいろな形をつくる活動を楽しむことができました。

ここを見ている

題材で大切にしたいことが子どもたちに伝わっているか。
どのタイミングで全体の活動をスタートするか。
抽象的な表現に取り組みやすくするためにはどんな枠組みが必要か。
必要なタイミングで用具の使い方を確認できる環境か。
技能面の差をどのようになくしていくか。

「全体」と「個別」のめあてを設定

――個別支援学級における評価はどのように?

大谷:特性や技能の差によって、全体のめあてにたどり着くのが難しい子どももいます。学級全体で共有するめあてを持ちつつ、それとは別に個別のめあてを8人それぞれに設定しています。「○○さんはここをクリアできていればよい」という個別のゴールが明確になっているので「この部分は手伝ってあげよう」「ここは自分で取り組めるようにしよう」など、一人ひとりに合った具体的な支援の判断につながっています。

子どもに寄り添うときの最適な距離は、一人ひとり違います。それがわかった上で指導することが大切です。私自身は絵をかくことも好きではないし、作品づくりも苦手ですが、子どもたちに図画工作を指導するのは大好きです。

――時折、先生方から「絵がへたなので図工の授業を教える自信がありません」というお悩みが寄せられるのですが、それはとても勇気づけられるお話ですね。ありがとうございました。

◆1年生「たいせつボックス」(『ずがこうさく』1・2上p.36)の作品

大谷学級

小坂学級

サッカーでもらったメダルを大切にしているMさんの作品。「木がたくさんあるところでサッカーをしたので、わたやビーズで花やくもをつくりました」(作品カードより)

Mさんの作品「おさいふボックス」。箱の側面にセロテープを貼り、開け閉めするときに紙が破れないように工夫している。

「うさぎのぬいぐるみ」を大切にしているRさんの作品。「うさぎのぬいぐるみがあったかくなるように、わたでかざりました。いろいろないろのわたにしました」(作品カードより)

Hさんの作品「スカイランド」。お気に入りの人形に合わせて色を選び、毛糸を使って空を表現している。

大谷幸子(おおたに・さちこ)
横浜市立緑小学校 主幹教諭。緑小学校に異動してからは、個別支援学級の1年生を担当し、今年で8年目。子どもの特性を踏まえ、支援の手立てを考え、子どもの思いが広がるような材の研究を行っている。

小坂美月(こさか・みづき)
横浜市立緑小学校 教諭。3年間、個別支援学級を担当。昨年度から一般学級を担当する。材との出合いを大事にし、子どもの思いを引き出せるように日々の実践を通して研究している。