学び!と美術

2026.10.13 <Vol.170>

10月 活動の進度の違いにとまどう~若手先生のための「声かけ&心がけ」事例集~

監修:田中明美、手塚千尋

10月 活動の進度の違いにとまどう~若手先生のための「声かけ&心がけ」事例集~

どんな状況でも子どもの学びを止めないために、また先生自身の成長のために、どのような気持ちをもって臨めばよいかを考えるシリーズ。登場人物といっしょに1年を乗り越えていきましょう。

【登場人物】

フタバ先生 フタバ先生

教師になって3年目、初めての学級担任で6年生を受け持つことに。子どもが大好き。タイパ・コスパがつい気になっちゃう。図工には苦手意識あり。

ヤドリギ先生 ヤドリギ先生

教師歴ウン十年の大ベテラン。図工が専門。ホームセンターめぐりが趣味。

【これまでのお話】

早く活動を終える子ども

ヤドリギ先生の助言で苦手だった図工を好きになりつつあるフタバ先生。そこに新たな悩みが。

フタバ先生
フタバ
先生

子どもに委ねることを意識して授業をするようにしていると、ものすごく早く終わる子どもと、時間内に終わらない子どもが出てくるんです。

ヤドリギ先生
ヤドリギ
先生

そういうこと、わたしもよくあるよ。

フタバ先生
フタバ
先生

ヤドリギ先生も!? そういうとき、どうしてますか。

ヤドリギ先生
ヤドリギ
先生

わたしは、「もう終わった」という子どもに対しては、例えば……

ヤドリギ流 早くできた子どもへの声かけ例

  • 「きょうの授業はあと20分あるから、自分の作品をよく見てみて。」
  • 「ただ見ているだけでいいよ。自分のしたことに気持ちをもっていってね。そんな時間があってもいいよ。」
  • 「もし何か思い浮かんだら、もっと素敵にしていってもいいよ。」
フタバ先生
フタバ
先生

「もっと工夫してみて」と言ったり、ほかの短時間でできそうな活動をさせたりしないんですか。

ヤドリギ先生
ヤドリギ
先生

「これで完成」って決めるのは子どもだからね。

「見てるだけでいいよ」って言っても、本当に見ているだけっていう子どもはそんなにいないんだよね。

自分の作品と向き合う時間は鑑賞の活動でもあるし、自分の思考のプロセスを思い出したり、作品を通して自分の経験に思いを馳せる時間でもあるんだよね。

それに、じっと見てれば、「あっ、いいこと思いついた!」って言いながらつくりかえ始める子も結構いるんだよ。

わたしは、早く終わった子どもにほかの活動をさせるということは基本的にはしないかな。その題材のために設定した時間は、その題材のために目いっぱい使ってほしいんだよね。

フタバ先生
フタバ
先生

見る時間も大切ってことですね!

写真:川瀬一絵

今月の心がけ

自分のやってきたことをただ見る時間も表現につながる

なかなか活動が進まない子ども

フタバ先生
フタバ
先生

じゃあ、活動が遅い子どもに対してはどうですか。時間内に終わらない子どもがクラスの半分くらいだと、さすがに時数を増やすのかなって思うんですけど。

ヤドリギ先生
ヤドリギ
先生

まずは活動が遅い理由を考えてみようよ。やることが分からなくて手が止まってて遅いのか、そうじゃないのか切り分けてみよう。

やることが分からない子どもはクラスに何人かはいると思う。まずは題材を手渡すときが大切で、わたしが意識しているのは次の2点。

①導入の話はなるべく短くする
②話が終わったら、「わたしの言っていることが分かったかな?」と聞く。分からない子が2〜3人くらいだったら、「じゃあ、あなたたちにはもう1回話すね。ほかの人は始めてていいよ」って進めていく。

だけど子どもたちの半数近くが分からないなら、ちゃんと説明し直す。「ごめんね、もうちょっと説明の仕方変えるね」って。たくさん困っている子どもがいるということは、題材の手渡し方が悪かった場合が多いよね。

フタバ先生
フタバ
先生

「この子たちは絵が苦手だからな」で終わらせてしまっていました…….。

ヤドリギ先生
ヤドリギ
先生

子ども中心で授業を見ているかどうかがすごく大切なんだよね。だから、子どもに聞いて、手渡し方が悪かったなと思ったら、「ごめんね」ってちゃんと謝って仕切り直せばいいんだよ。

そうならないためにも、教師側が学習のめあてをきちんと理解していないとね。

フタバ先生
フタバ
先生

子どもに聞くこと、そして強引に進めないことが大切なんですね。

じゃあ、手は動いているけど、こだわりが強いとか、やりたいことが多すぎて終わらないっていう場合は?

ヤドリギ先生
ヤドリギ
先生

わたしなら……

ヤドリギ流 活動が遅い子どもへの対応例

まずは、以下の2点を大前提として考えていきます。

①最初に活動時間の見通しを子どもたちと共有している
②休憩時間や放課後を使うのは最終手段

そのうえで、

  • 授業の初めに「きょうはここまで行くようにしよう」とか、途中で「あと○分で片づけに入るよ」など頃合いを見て時間配分を伝えていきます。
  • 絵の場合、例えば画用紙の一部に全力投球してかいていて、余白ではなく不完全に見えるのであれば、「この範囲で作品を切り取ることもできけるど、どうする?」と子どもと相談して基底材を切るなどの選択肢もあります。
  • どうしても終わらないときは、子どもと相談したうえで、一定の期間を設けて放課後に来てもらいます(そうならないことが望ましいのですが…….)
ヤドリギ先生
ヤドリギ
先生

限られた時間でやりたいことを全部やりつくしてほしいし、時間内で完成させるということも大切な学習だからね。子どもたちが自分で道筋をちゃんとつけて、自分の活動時間を理解できるような導入や途中での声かけが大切なんだよね。

フタバ先生
フタバ
先生

まずは、限られた時間の中で子どもが表現に向かっていけるような導入について考えていきたいです!

ヤドリギ先生
ヤドリギ
先生

時間の流れって人それぞれ。とってもゆっくりな子どもだっているよね。その子に「ほら急げ、急げ、がんばれ」っていうのは酷かなって最近よく思うんだ。時間が倍くらいあれば、その子もきっと作品を完成させていると思うし。

その子の、どうもこうもならない時間の流れ、生きている時間というか、そこはちょっと加味してもいいのかもしれないね。

次回は「セット教材って使っちゃだめなの?」です(12月公開予定)。

「教員養成課程ではこんなこと習ってない…」が溢れる図画工作の教員現場。

独創性も捨てがたいけれど、ピンチは「共創」で乗り越えられます!

今の時代だからこそ、自分の体を通した体験が実感につながります。

自分から動き出して変わることができる今がチャンスです!

田中明美(たなか・あけみ)(写真右)
静岡県富士宮市出身。東京造形大学美術学科Ⅱ類(彫刻科)卒業。埼玉県と東京都の産休代替教職員(小学校、中学校、養護学校、ろう学校)を経て、東京都の図画工作科教員・指導教諭となった。現在、品川区立立会小学校に勤務して20年目、主任教諭。東京都図画工作研究会(都図研)の副会長や第57回都図研城南大会(関東甲信越静地区造形教育連合東京大会)研究局長、品川区の研究部長などを務め、現在は都図研の研究局のアドバイザーとなる。家にはオオバタン(オウム)がおり、オートバイ好き。

手塚千尋(てつか・ちひろ)(写真左)
明治学院大学准教授。美術領域固有の探究のプロセスとSTEM領域の学びの接続点をさぐる研究に従事する。共著に『ABRから始まる探究(2)初等教育編 子どもの表現とアートベース・リサーチの出会い』(学術研究出版社)、『アート学習ハンドブック(学術研究出版社)』がある。