学び!とESD

学び!とESD

ノンヒューマンの目で見る世界 ~ヒューマンとノンヒューマン~(その4)
2024.11.15
学び!とESD <Vol.59>
ノンヒューマンの目で見る世界 ~ヒューマンとノンヒューマン~(その4)
萱原 真希(永田研究室大学院生)

絵本で出会う動物という「他者」

 「接近性(学び!とESD<Vol.49>)」「声を聴く(<Vol.52>)」「デザインする(<Vol.53>)」に続き、人間と「ノンヒューマン」たちとの関係性を考える絵本シリーズの第4弾は、「目で見ること」がテーマです。実は絵本の主人公は、人間よりも圧倒的に動物が多いといわれています。絵本を読む子どもたちは、そのことに何の疑問を抱くこともなく、人間と動物を親密なものとして理解し、受け入れています。教育学者の矢野智司は、子どもが動物とのかかわりを必要とする意味を、他者(動物)と出会うことによって「人間になること」と同時に、「人間を超えた存在になる」ことだと説明しています(矢野 2011)。これは、動物が人間の特性を「鏡」のように映し出し、人間という存在をより明確に可視化する役割を果たすことを意味しています。さらに、子どもは人間の境界を越えて動物のように世界と連続的に生きることで、「人間を超えた存在」になることができるのです。

動物の目で見る世界を教えてくれる絵本

 言語学者で、社会・環境評論家でもある鈴木孝夫は、「人類の未曽有の繁栄」がもたらす「地球環境の破壊的な影響」の深刻さを危惧し、「世界を人間の目、人間の立場から見るのはもう止めよう」という提案をしています(鈴木 2019)。もちろんこれは、「学び!とESD」のノンヒューマンシリーズで論じてきた、脱人間中心主義の考え方です。しかし、そうしたものの見方に一気にシフトすることが困難であるとき、最新の科学が私たちの想像力を非科学的にかき立ててくれる役割を果たすこともあります。今回の絵本『仕掛絵本図鑑 動物の見ている世界』はそんな科学的な研究結果に基づき、動物や昆虫の目に映る世界を私たちに紹介してくれる、フランス発の画期的な視覚絵本です(*1)

『仕掛絵本図鑑 動物の見ている世界』創元社、2014年
ギヨーム・デュプラ(著)、渡辺滋人(翻訳)

 この本に登場する主人公のノンヒューマンたちは、チンパンジー、犬、猫、ウサギ、ネズミ、などの≪哺乳類≫、ワシ、フクロウ、ハト、などの≪鳥類≫、カエル、ミミズ、カタツムリ、などの≪爬虫類、両生類、環形動物、腹足類≫、そしてミツバチ、ハエ、などの≪昆虫≫、と盛りだくさん。絵本にある「彼らの目」の部分をめくると、そこには「彼らが見る世界」が広がっています。生き物の生態を科学的な知識で得る図鑑のような絵本は数あれど、動物の視覚にフォーカスし、そこから見える世界を描いているこの絵本は、大人の私たちの想像力さえも掻き立ててくれます。例えば、私たちが可愛いと思いながら撫でている猫は、こちらを同じ視野レベルでは見ていません。彼らは酷い近眼だからです。逆にワシは1キロ先のウサギを獲物としてくっきりはっきり捉えています。これだけ多岐にわたるノンヒューマンの目をとおして見る世界を知るだけで、大人にとっては、普段自分が見ている世界が絶対的であるという確信を疑う機会となり、子どもにとっては、「動物の世界に行き、そこからもどるレッスン」(矢野 2011)の機会となるのです。

「他者」の目でものを見ること

 人間にとって「他者」というノンヒューマンの存在がいかに大切かと気づくためには、絵本を閉じた先に形成される私たちの想像力が必要不可欠です。もしも人間がノンヒューマンの存在を無視し、世界を独占して生きる道を選択するならば、そこに待つのは「単色で人間のモノローグだけが虚ろに響く酷く寂しく貧しい世界」(矢野 2011)になってしまいます。それは決して持続可能な未来とはいえません。ノンヒューマンの存在や目線を感じることは、「人間の目」だけで見る世界を脱し、色鮮やかで多様な生態が共存する未来を描く一歩となります。人間が人間以外の目で見る世界は、普段私たちが見ている人間だけの世界とは違って見えるはずですし、ひいては「最高の自己客観化」(鈴木 2019)になるのです。
 本稿ではこれまでのシリーズの一環で、「ノンヒューマンの目で見る世界」を想像することの意義をお伝えしました。絵本の世界にはまだまだノンヒューマンが溢れています。次号では「触れるノンヒューマン」の世界を描いた絵本をご紹介したいと思います。

*1:創元社Webサイトの紹介より
https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=1412

【参考文献】